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空飛ぶカレー本舗  作者: カキヒト・シラズ
第3章 そろそろ種明しをしましょうか
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第20話

 山中湖を見ながら、ロマネ・コンティを一口すする。至福のひとときだった。

 プールサイドのリクライニングチェアーに腰掛けた進藤翔は、大きく伸びをする。

 別荘に来たのは久しぶりだった。

 プールでは赤いワンピースの水着を着た蘭明日香が泳いでいる。

「シンドーちゃんも食べてみない。うまいよ」

 木島実は進藤の隣でポテトチップを食べている。

 テーブルの上に”空飛ぶカレー”にマヨネーズを混ぜて皿に盛り、それにポテトチップをつけて食べているのだ。

 進藤は木島にすすめられるまま、ポテトチップを一枚もらい、カレーにつけて食べてみる。

「なんだこれは」

 進藤は思わず咳き込む。

「これのどこがうまいんだよ」

 進藤はワインを一気に飲み干すと、ボトルからワイングラスにもう一杯注ぐ。

「この前、総務省のサーバーにコピーしたウイルスだけどさあ」木島が言う。「シンドーちゃんの作ったウイルスにバグがあったよ」

「本当か?」

「ソースには問題ないんだけど、総務省のサーバー上で動かすには、ユニックス用DLLがないとだめなんだ。だからおれが必要なDLLをコピーしてリンクしておいたよ」

「リナックス用のDLLではだめか」

「だめだめ。シンドーちゃんから”空飛ぶカレー”をいっぱいもらったから、おれの方でも本気出すことにしたんだよ。ニートのおれにもプライドってもんがあるからさあ」

 明日香がプールから上がってくる。

「翔ちゃんは泳がないの」

「泳ぐ気分じゃないな」進藤が吐息をもらす。「君こそ、もっと泳いだら。この前、スーザンちゃんがここに来たときなんか、トップレスになってはしゃぎ回ってたよ」

「あの女、ここに連れて来てたの?もう、許さない」

 蘭はロマネ・コンディのボトルをテーブルから奪い取り、プールまで走ってボトルを逆さにする。赤紫の液がプールに注がれる。

「おい、ちょっとそれ高いんだよ。もったいないだろう」

 進藤がリクライニングチェアーから起き上がり、蘭のところまで走ってボトルを奪い返す。

 すると蘭が進藤の体に体当りする。進藤はボトルを持ったまま、プールに転落する。

 水しぶきが上がる。

 進藤はプールから顔を出し、はげしく咳き込む。

「プールの水飲んだら」プールサイドから蘭が言う。「ワインの水割りよ」

 やれやれ、女は抱くときは甘口だが、長く付き合うには辛口か。

 進藤はプールの中で大きく吐息を漏らす。

 ボトルに直接口をつけ、わずかに残った液体をすすってみると、意外と味はまだしっかりしている。

 ふと空を見上げる。一羽のカモメが山中湖の方へ飛んで行くのが目に入る。

 やがてカモメの白い翼は、山中湖の背景に鎮座する富士山の雪の白か、その周辺の入道雲の白か、あるいは湖上を走る水上スキーの水しぶきの白に溶け混じり、気が付くと進藤の視界から消えてしまっていた。


                                            (了)



主な登場人物


進藤翔

IT企業、シンドバッド・ドットコム社の創業社長

裏の顔はネット通販の殺し屋「空飛ぶカレー本舗」のマスター。コードネームはターメリック


蘭明日香

進藤の秘書。「空飛ぶカレー本舗」のメンバー。コードネームはラッシー。


松山孝三

埼玉県警の警部


占部順二

政治家。自由共和党幹事長


田村静江

コジロー社の社長秘書


木島実

ニート。「空飛ぶカレー本舗」のメンバー。コードネームはキーマ


沢崎小次郎

コジロー社の社長


トーマス・レッド

”知日派”政治学者


雨宮昌文

刑事。松山の部下


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。よろしければ他のおすすめ小説もお読みください。


①「ぼくはいまここにいる!」(SF)

( https://ncode.syosetu.com/n7105eg/ )

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