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空飛ぶカレー本舗  作者: カキヒト・シラズ
第3章 そろそろ種明しをしましょうか
18/20

第18話

 望月大樹が進藤翔に近づいて殴りかかる。

 進藤はかろうじてそれをよけ、望月の右頬を殴る。

 望月がよろけると進藤は素早く後ろ向きに屈んで望月の懐に入り、右腕を取って投げ飛ばす。

「死ね」

 ぺ・パルがサバイバルナイフで進藤に襲いかかる。同時にキム・バンギョンが正面から殴りかかる。

 複数の相手と格闘するのは、軍隊格闘技、システマの得意とするところだ。

 進藤はキム・バンギョンの左膝を蹴り、ほぼ同時にぺ・パルの腕を取る。

 ペ・パルの顔面に肘鉄をくわらせ、奪ったサバイバルナイフでキム・バンギョンの首を刺す。

 頸動脈から血が吹き出し、キム・パギョンは床に崩れ落ちる。

 進藤は振り向きざまにペ・パルの右膝を蹴る。

「幹事長、こっちです」

 水野修也が占部順二とトーマス・レッドを連れて、スイートルームを走り去る。

「逃がすか」

 進藤がドアに駆け寄ろうとすると、望月が背後から羽交い絞めにする。

 進藤は手に持っているサバイバルナイフを望月の腕に突き立てる。

 システマには素手だけでなく、ナイフを使った戦闘術もある。

「グワー」

 腕を抱えて望月がうずくまる。

 唇から流れる血をふきながらペ・ペルが、サイレンサー付拳銃、シグザウエルP230を持って立ち上がる。

 ボスッとわずかな銃声が聞こえる。ドミノマスクが吹き飛ばされ、進藤の顔があらわになる。

 進藤は床に転がり、サバイバルナイフを投げる。

 サバイバルナイフがペ・ペルの眉間に命中し、血を吹き出しながらうずくまる。

 起き上がりかけた望月に、進藤は助走をつけて回し蹴りを側頭部に決める。

 頭蓋を破壊する鈍い音。脳漿が吹き出し、望月はゆっくりと大の字に床に倒れる。

 回し蹴りはシステマというよりサバットの技だった。フランス外人部隊で使うシステマはロシア陸軍が使うそれにくらべ、フランスの格闘技、サバットの技が混じっている。

 ジョンロブの仕掛け靴に真鍮が入っているため、回し蹴りは一発で人間を殺せる破壊力を持つ。

 進藤はまだ屈んだまま立ち上がれないペ・ペルの背後に回り、頭頂部と顎をつかんで首をねじる。

 首の骨が折れる鈍い音。手を放すとペ・ペルの体はぐったりと仰向けに倒れる。

 これで三人の用心棒は全員、死んだのか。

 進藤は床からドミノマスクを拾ってかぶりなおし、望月の脈をとり、絶命していることを確認する。

「潤、おれがかたきをとったからな」

 胸ポケットから出した『空飛ぶカレー本舗』の名刺を望月の死体の上に落とす。





 占部、レッド、水野の三人は『ラグジュアリー』の地下駐車場に急いだ。

 駐車場の中は薄暗かった。

 西側の駐車場の一番端に停車してあった黒塗りのクラウンを見つける。

「これはひどいじゃないか」水野が叫ぶ。「どうなってるんだ」

 水野は占部に車のタイヤが四つともパンクしていることを告げる。

 何者かがタイヤにナイフのようなもので穴を開けたようだった。

 すると「ははは」と高笑いしながら。セーラー服を着た女がヨーヨーをやりながらそばに近づいてくる。顔を赤いドミノマスクで隠している。

 女は水野の前まで来て立ち止まる。

「あんた誰だ」と水野。

「わたしは『空飛ぶカレー本舗』のラッシー」

 ラッシーと名乗る女はなおもヨーヨーをやり続ける。

 占部とレッドはその場に佇んでいるしかなかった。

 ヨーヨーの勢いがある程度加速されると、いきなりヨーヨーを水野に投げつける。

「何するんだ」

 ヨーヨーの紐が水野の首に巻きつく。

 ラッシーはヨーヨーの紐を指でパチンと弾く。すると首に巻き付いた紐がきつく締まる。

 水野は口から血を吹き出し、その場に倒れる。

「わあああ......」

 占部とレッドは驚いてその場を走り去る。

 暗い駐車場の空間をクラウンと反対方向へ走っていくと、懐中電灯を持った警備員の人影がある。

 助かった。占部はそう思う。

「Help me!(助けてくれ!)」レッドが叫ぶ。「Please!(頼む!)」 

 逆光線なので姿がよく見えなかったが、近づくと警備員は顔に青いドミノマスクをかぶっている。

「Who are you?(おまえは誰だ)」

「おれの名は『空飛ぶカレー本舗』のキーマ」

 キーマと名乗る男は左手に懐中電灯、右手にサイレンサー付拳銃、ベレッタM92を手に持っている。

 ほとんど銃声は聞こえなかった。

 レッドは胸から血を流し、床に倒れる。

「やめてくれ......」

 占部はキーマに背を向けて反対側に走り出す。

 だが今度はラッシーが近づいてくる。

「どうしたらいいんだ」

 占部は一瞬、迷った末、ラッシーもキーマもいない方向に向かって走り出す。

 すると強烈なライトが占部の視界をさえぎる。

 目を開けると黒いジャガーがこちらに疾走してくる。

 ジャガーは占部を轢き殺す直前で急ブレーキをかける。

 占部は驚いて尻もちをつく。

 ドアが開き、金のドミノマスクをかぶった男が降りてくる。

 それはもはや進藤ではなかった。悪魔の化身、ターメリックだ。占部はそう思う。

 仮面をかぶったあの男はもはや普通の人間ではない。常軌を逸した残忍な殺人鬼だ。

「助けてくれ。殺さないでくれ」

 占部は叫ぶ。恐怖のあまり、尻もちをついた状態で起き上がれない。

 ターメリックはゆっくり近づいてくる。

「待ってくれ......お願いだ」

 やがてターメリックはしゃがみこみ、占部の頭頂部と顎に手をかける。

「うちのカレーは辛口でね」

 ターメリックが占部の耳元にささやく。


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