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空飛ぶカレー本舗  作者: カキヒト・シラズ
第2章 若い女とカレーには目がないんだから......

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11/20

第11話

 茶碗に入れたレトルトカレーのルーにマヨネーズを混ぜ、ポテトチップをつけて食べる。

 これが自分流の”空飛ぶカレー”の食べ方だった。

 木島実は光が丘の自宅の一室で、ポテトチップを食べながらデスクトップPCを見ていた。

 シンドバッド・チューブのストリーミング動画をディスプレイいっぱいに拡大し、生放送の参議院選挙速報が始まるのを待った。

 午後八時までもうすぐだった。

 部屋の中は、昨日ひさしぶりに掃除したおかげで、床に落ちたちり紙が減り、どうにか万年床の布団が見えるまでになった。だがそれでもまだゴミ屋敷だった。





「開票速報が出ました。無所属の北川俊二さんが当選確実となりました」

 女性アナウンサーの声が聞こえる。

 今日行われた参議院選挙の開票速報のテレビ中継だった。

 株式会社コジロー本社ビル一階のロビーでは、多くの社員が110型LED大画面テレビを囲んでいる。

 ソファーで座っているのは役員や部課長で、若手社員は立ち見だった。

 奥の方で立ち見している田村静江は、さっき給湯室で温めた”空飛ぶカレー”を空の自分の弁当箱に盛り、渋谷のデパートで買ったナンをつけて食べたばかりだった。

 開票速報の日は会社で徹夜なので、夕飯は会社で食べなくてはならなかった。

 背の低い静江は、男性社員の背中でテレビがよく見えなかったが、選挙結果に予想外の異変が起きているようだった。

 与党の自由共和党、野党第一党の平和民主党の当選者がほとんどなく、泡沫候補と言われる無所属の候補者ばかりが当選しているのだ。

 テレビ画面には自由共和党本部開票センターがうつっており、先ほど党総裁である総理大臣の村野凜太郎と党幹事長の占部順二が登壇していた。だがいつの間にか占部の姿が消えている。

 静江はふとソファーに座っている新社長の中島正雄が深刻な表情でスマホを握りしめ、なにやら謝罪しているのに気づく。

 コジロー社の沢崎小次郎社長が急逝したため、副社長の中島が社長に就任したばかりだった。





「どうなってるのかね」占部が言う。「中島君、最初から説明してくれ」

「申しわけありません」中島が言う。「うちのシステムにウイルスが入ったようです。集計システムから幹事長からいただいたリストでなく、全く別のリストが出力されるようです。

 開票会場にうちの社員を多数、派遣していまして、今、一件ずつ調査している最中ですが、どうもほとんどのシステムにウイルスが入られたようです」

 占部は先ほど自由共和党開票センターを抜け出して、一人で幹事長室にいた。

「それじゃ困るんだよ。もうコジローには選挙関係のことは一切、委託できなくなるぞ」

「そうはおっしゃらないでください。沢崎社長が突然亡くなりまして、今回は弊社も混乱状態でした。実は......こうしたウイスル対策やセキュリティー関係は沢崎前社長が一人でやってまして、副社長だった私は一切、関与しなかったものですから」

「もう弁解は聞きたくない」

 占部は受話器を叩きつけるように置く。

 どいつもこいつも役に立たないじゃないか。

 先ほど占部は総務省に電話した。すると担当者の話では、サーバーにウイルスが侵入して、当選者のリストが当初と違う結果になった、とのことだった。

 実は開票速報はコジロー社というより、総務省のサーバーの方が重要だった。

 午後八時ちょうどにテレビで選挙結果を発表する。この選挙結果のデータは午後八時より少し前に、あらかじめ総務省からテレビ局に渡される。

 全国の開票会場では票を数えはじめたばかりで、まだ結果はわからないにも関わらず、先に結果だけ発表してしまう。

 コジロー社の仕事は集計結果を出力するというより、テレビ局で発表した結果に全国の開票会場の集計結果が近づくよう、調整することだった。





「そうですねえ」占部が言った。「とにかく混乱を避けることが重要でしょう」

 マスコミ各社は占部にカメラとマイクを向ける。

 その一メートル背後で、蘭明日香は三脚のカメラ越しに吐息を漏らす。

 これもすべて翔ちゃんが企んだことなのかしら......。あたしには全部を教えてくれないし......何が何だかよくわからないわ。

 明日香はシンドバッド・チューブのストリーミング中継を一人でやっていた。

 シンドバッド・ドットコム社の社長秘書兼広報部長の明日香は、シンドバッド・チューブ社の代表取締役も兼任していた。

 先ほど開票センターに戻ってきた占部は、集計会場の集計システムにウイルスが入ったため、正しい集計結果が出力できなくなったと説明した。

 総務省に指示して、今日の開票速報はひとまず中止し、明日、全国の開票会場でもう一度最初から手作業で集計をやり直すことにしたという。

「自共党の票が少なかったんで、開票をやり直すんじゃないんですか」

 記者の一人が質問する。

「君、どこの媒体だ」占部が記者をにらみつける。「失礼なことを言うと、君の媒体は記者クラブから追放するよ。いいかな、君の今の発言は自共党に対する誹謗中傷だ。マスコミは偏向報道はしちゃいかん」

 偏向報道してるのはあんたの方じゃない。

 明日香は胸の中で毒づく。


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