プロローグ
今日はおそらく、二十八回ブスと言われたな。まあそれがある程度冗談なのか、冗談ではないがネタなのか、ガチなのか…そんなことは今更気にならなくなっていた。
俺は堀江勇。現在家に近い高校に通っている高校2年生だ。あと3か月もすれば、俺も高校3年生になり、晴れて受験生だ。
そんな俺は、とても不細工である。不細工とは、容姿・見た目が醜いことを指す。イケメンとは対極を為す絶対的存在。それが不細工…通称ブスだ。
髪は陰毛と言われても差し支えないほどの天然パーマ。顔は大きく、くっきり一重。鼻は低くて潰れており、眉毛も薄い。唇は厚く、肌は荒れている。まさに、ブスの総本山…それが俺である。
そんな俺だが、歯並びと体臭だけは自慢できる。歯医者になど行ったことはないが、真っ白な歯が生えそろっている。こんな見た目だが体臭は一切なく、むしろ若干フレグランスなくらいだ。だがまあ、この見た目だから、歯が綺麗だろうとフレグランスだろうと、そんなことは度外視される。
今日も高校で相変わらずブスと呼ばれてきた。ブス呼ばわりされるのはもう慣れた。だが一つだけ、勘違いしてほしくないことがある。
俺は、別にブスに誇りを持っているわけでもなければ、そもそも自分がブスであることを肯定する気にもならない。確かに俺は客観的に見たらブスかもしれない。いや、主観的に見てもブスだ。だが俺は別に、ブスのままで良いとは思ってないし、ブスだからブスなりに…なんて思わない。
俺はイケメンに憧れている。この手のブスは、大抵イケメンを嫌い、それに集る女性を煙たがる。だが俺は違う。むしろイケメンはウェルカムだ。実際、友達にもイケメンが多い。
俺はいつしかイケメンになる。そう心に誓っている。
方法は一つしかないだろう。そう、整形手術だ。いくら金が掛かろうと、俺は整形手術を受け、イケメンになって見せる。知り合いに、「お前整形した?」と聞かれれば、赤べこの如く首を縦に振る。子孫繁栄を促す気はあるが、子供の顔など気にしない。元の俺に似て不細工であれば、その子も整形させれば良い。
とにかく俺は、早く大学に行って一人暮らしをし、バイトで金を稼いで、全ての娯楽を捨てて整形手術を受ける!
「あんた、まだそんなこと言ってるの?」
俺の熱い野望を聞いていた母が、気怠そうな顔で俺を見る。母さん、そんな目で俺を見ないでくれ。
母は美人だ。現在48歳だが、老いを感じさせない。一方の父親も、決してイケメンではないが、不細工でもない。どういう遺伝子組み換えをしたらこんな顔の息子が生まれてくるんだ…って感じ。ほんと。
「あんたの顔が不細工かどうかは関係ないわ。人間、大切なのは心よ」
「母ちゃん、それ自分が人より美形だから出るセリフだよ」
母は俺の顔を不細工だと言ったことは一度もない。まあ実の一人息子をそんな風に言うわけもないか。
母は俺の整形に、反対を示してはいる。しかし、本気で止められたことは一度もない。やりたいことは適当に自分でやれ…が、我が堀江家での教訓たる故、息子といえどもその決意に干渉はしてこない。ただまあ、一人の親として、子供の顔が簡単に変わってしまうことは、やはり解せない部分もあるのだろう。
「あんたにはあんたのいいところがあるんだから」
「そりゃまあ…こんな不細工な俺が輝ける場があるなら、是非とも紹介してほしいものだね」
―――――――――――そこまで言うなら連れていってあげる
「?」
なんだ今の。だれの声だ?母は気付いていないのか?
―――――――――不細工のあなたが輝ける世界、知りたいでしょ?
「知りたいッス!!」
母は驚く。しかしそんなことは気にしていられない。俺は謎の声に誘われるままに、右手を大きく挙手した。
やがて俺の体は、光に包まれ消えた。
母はただ茫然と、息子が消えていくのを見ているだけだった。