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御園透子と透矢

読んでいただいてありがとうございます。いよいよ、透子と息子の透矢が話し合いをします。



悶々と考えてたその日。


遥香に頼まれていたコンビニプリンを、しこたま買ってきてしまい、遥香は大喜び。

透矢に限っては、呆れた表情で私達を見ていた。



いつ、ちゃんと話そうかな?

できればゆっくりとじっくりと。


お風呂に行く透矢の後ろ姿を見ながら、深いため息を吐く。


総司の病院に鷹ちゃんが勤務に来るまで、あと5日。

この5日でゆっくりと考えようと思っていた私は、突然と降りかかる嵐に愕然とする。


結果…時間は待ってくれないのだと、実感する。



「初っぱなから、驚かれたよ。

色々と聞きたかったみたいだけと、仕事の最中だったから挨拶で終わった。

けど、来週からはそうはいかないよ。」


その週の金曜日。

仕事帰りの総司が、我が家にやってきた。

その総司から聞かされた話。


来週からの非常勤の医師を紹介すると、鷹ちゃんを連れて病棟にきた院長。

施設と職員を紹介した時に顔を合わせた総司と鷹ちゃん。

目を丸くして、総司に話しかけようとしたらしいが、業務中だったためにそれは叶わなかった。



「そっか…」



「うん、病院内は素敵な医師が来たって、女性職員達は大騒ぎだし。

鷹ちゃん…変わってなかったよ。

笑ったら垂れる目の子供みたいな笑顔とは裏腹のハスキーな声。

懐かしかったし…透矢にそっくりだった。」



懐かしいその笑顔を、私も見たいし会いたい。



「透矢とは…話したの?」


「まだ、なの…」



「そう…だと思った。」


黙りこくった総司と私。


すると、ピンポーンと私達には似合わない軽快なインターホンの音。



「あ、基樹がきた。

ロールキャベツを作って持ってくるって言ってた。

基樹に遥香を任せて、俺も一緒に透矢を迎えに行くよ。

で、話をしよう。

俺がいたら、透子姉がテンパっても大丈夫だろ?」



総司が一緒に…?

なら、大丈夫かな?



「最重要事項は、透子姉が話しなよ。」



「わんばんこ〜!」



昔のお笑い芸人みたいな基樹が、大きなタッパーを持ってきた。

基樹の声が聞こえたのが、部屋からバタバタと出てくる遥香。



「基くん!

ロールキャベツ持ってきてくれた?」



「ほらよ、約束のロールキャベツ。

この数日間、ロールキャベツのおねだりメールやラインが続いてたからな。

休みだった今日、朝から煮込んだんだ。

美味いから、味わって食えよ。」



得意気に鼻の頭をポリポリする基樹。



「基樹、遥香を頼んでいいか?

透矢の塾の先生と話があるんだ。

父親がわりに、俺が行ってくるから。」



塾の先生との話は、本当のこと。

先週の塾内模試の結果を教えてくれるそうだ。

でも、父親がそれに必要なのかと聞かれたら、必ずしも必要なわけではない。



「うん!

基くんと夕飯食べてる!」



「いいぞ、行ってこい。

遥ちゃん、ロールキャベツ温めようか?」



「は〜い!」



キッチンに行く基樹は、総司にウインクしてた。

基樹は事情を知ってるみたい。


遥香を基樹に任せて、私達は家を出た。


今日は総司の車。

静かな車の中で総司は、おもむろに口を開いた。



「俺さ、透矢は知ってると思うんだ。

父親が誰だか云々は抜きにして、透矢の父親は生きてるってこと。」



「な、なんで?」



「透矢さ、幼稚園から小学生の中学年まで、星に手を合わせてただろ?

でもその行動は、10歳を境になくなった。

透子姉が透矢の誕生日に呟く一人言、聞いたんじゃないかな?」



「えっ…私の毎年恒例の、真夜中の一人言?」



「そう…あの10歳の誕生日の次の日、透矢さ…透子姉の卒業アルバムとか見てた。

母ちゃんの高校生を見たいって。

母ちゃんの友達のこれは誰でこれは〇〇ちゃんって話してた。

でもさ、この人の名前は?って、一人だけ男子を指差したのが、鷹矢くんだった。」



「え…」



「あの卒業アルバムって、透子姉が仲良かった友達やグループで写ってる写真が多いだろ?

その時は俺も気がつかなかったんだけど、いつも鷹矢くんと透子姉が隣で一緒に写ってたのが多かったんじゃないかな。

俺はとりあえず、名前はわからないって言っといたんだけど…いっぱいいる男子の中から鷹矢くんが気になったって、何か感じたからかな?って、今考えたら思う。」



確かに、私と鷹ちゃんがいたグループは仲良しで、今でもその中の女子二人とは連絡を取り合ってる。

言わば、親友の域に達する。

透矢のことも、内密に話しているし。



「だからさ、正直に話して向き合おう?

きっと透矢、聞きたいんじゃないかと、俺は思うんだ。

透矢に怒られてもさ、透子姉が透矢をどれだけ大切にしてきたかって、俺は知ってるから。

いくらでも、フォローしてやるから。」



「うん…ありがとう。」



なんていい弟を持ったんだ。

私は人に恵まれてる。

家族にしても友達にしても、職場にしても。



「総司…どれだけ透矢に軽蔑されても、罵られても、透矢が大切だから、可愛くて仕方ないから、ちゃんと向き合うよ。」



私を乗せた総司の車は、透矢がいる塾へと走る。


私は真っ直ぐ前を向き、心に決めた。




塾に到着し、担当の先生から受け取った模試の結果。

塾内に、敵なし…塾内模試は、見事にトップだった。

櫻木高校合格に太鼓判をもらった。



「すげぇだろ、母ちゃん。

この塾の三年生は、千人近くいるんだって。

俺の塾を含めて、十校以上あるから。」



その中で、トップだった透矢。

レベルの高い塾に行きたいと自ら志願した。

勉強勉強で疲れないかな?と思っていたが、ゆるりと自分のペースを守り、適度に友達とも遊んでいたから驚きだ。

そういうところは、鷹ちゃんの遺伝子を受け継いだのだろう。

鷹ちゃんだって、櫻木高校合格圏内だったらしい。

ただ、名門の私立櫻木高校受験の日にインフルエンザに罹患し受験を断念、泣く泣く公立の私と同じ高校に入学した。

それでも、卑屈になることなく明るく高校生活を謳歌し、成績トップを三年間維持した強者。


そんな尊敬できる彼だから、私は好きになった。

明るく優しい鷹ちゃんだったから…



「よく頑張ったな、透矢。

先生から何か話があるかと思って、俺も着いてきたけどトップなら、文句なしだな。」



へへっ…と笑う透矢。



「じゃあ、寿司が食いたいなぁ。

あ、遥姉が待ってるからダメか。」



「いや、寿司食べに行くか?

遥香は基樹とロールキャベツを食べてるから。

叔父さんの奢りだ。」



「やたー!

ロールキャベツも捨てがたいけど、基樹さんならたくさん作ってきてくれてるから。

きっと余る…うん、余ることを願おう。」



大丈夫だって…と笑う総司は、商店街の馴染みのお寿司屋さんに車を向かわせた。




「透矢…大切な話があるの。」



トロウニイクラマグロ、透矢のお好みのネタがテーブルに並ぶお寿司屋さんの個室。



ウニを頬張りご満悦の透矢に、私は意を決して話しかけた。



「ん、あに?」



口いっぱいでまともな返答ができていない透矢。

175センチある透矢は、体はでかくてもまだまだ子供だ。



「あの、あのね…」



しり込みする私と、ゴクリと飲み込みニコニコしてる透矢。



「なに、母ちゃん。

今日は元気ないなぁ。」



「そ、そう?

大丈夫よ。

それで、大事な話なんだけど…」



「うん…俺の、父さんのこと?」



透矢が放った言葉に、私も総司も息が止まった。

チラリと総司と目を合わせて透矢を見ると、ふんわり笑った。


「やっと、話してくれるんだね。

待ってたんだ、俺。

いつ話してくれるかな?って。

ただ…」



ただ…と言った透矢は、真剣な表情で私達を見る。



「たださ、俺の父親が出てきたとしても、俺は今のままでいるから。

母ちゃんがいて遥姉がいて、総おじちゃんと基樹さんもいる。

父親が俺を引き取るとか言ったとしても、俺は行かないよ。

もしも行けって言ったら、俺は家出してグレてやる。

だから、母ちゃんとみんなと一緒。

それだけは変わらないからね。」



透矢…



「絶対に、透矢は手離さないよ!

今までと一緒だよ!

透矢は、母ちゃんの命だもん!」




「命って…大袈裟じゃんか。」



「いや…大袈裟じゃないぞ、透矢。

透子姉がどれだけ透矢が大切か、俺は近くでずっと見てきた。

いつもはクールな透子姉なのに、透矢が熱を出した時の慌て様は、看護師助産師の枠から外れてた。

流行の胃腸炎で入院した時なんて、私の命をあげますって願っていたもんだよ。

透矢が我が家から居なくなるなんて、透子姉は考えたこともないからな。」



「当たり前!」



「へへっ、何だか恥ずかしいな。

でも、嬉しいかも。

だって俺、父親がいたらとか、思ったことないからな。

反対に、総おじちゃんや基樹さんと二人も父親がいるんだ的な?そんな感じだったもんな。」



透矢…

本当にあんたって子は…



「で…話してよ。

俺の出生の秘密。」



総司もだけど、透矢もだ。


うちの男どもは、いつも真っ直ぐに自分のことを受け止める。


悩まないはずはない。

苦しまないはずがない。


だけど、これが現実だと考え受け止める器がある。


大した男どもだ。



「うん、透矢の父親はね…」



から始まった、長い長いお話。


時折、透矢は何かを思い出したかのようにおでこに右手親指を当てて考えたり、頷いたり。


その仕草全部が、鷹ちゃんと同じで…



透矢よりも、私の方が焦ったりした。




「俺を妊娠した時、母ちゃんは俺に会いたかった?

中絶とか、考えた?」



「会いたかったよ。

中絶なんて、一度も考えなかったし口にも出さなかった。」



「うん、そうだったな。

"妊娠したの、産むから。"

それだけだったな。」




「そっか…。

でもさ、俺の父親が総おじちゃんの病院で働くことになって、すごく近くなったんだよね?」



「うん、そうなの。」



「でもさ、父親は俺の存在を知らないわけだから、会いにきたりしないんじゃないかな?

もし来たとしても、俺はすぐには受け入れられないよ。

自分が父親だ、やった父さん!みたいなことはできない。

母ちゃんが父親を好きでとかでも、俺は無理だから。

そこのところは、わかってほしい。」



「うん、わかってる。

私も彼とどうのこうのってつもりはないから。」



鷹ちゃんはきっともう、結婚して子供もいて…幸せな家庭を築いているに違いない。

それに今更どうこうなって、鷹ちゃんの家庭を壊すとか透矢を傷つける気は更々ない。



「ところで透矢は、いつから知ってた?

透矢の父親が生きてるって?

小さい頃は、天国にいるって言ってただろう?」



総司が透矢にぶつけた疑問。



「7年前くらいにさ、母ちゃんが俺の誕生日には必ずベランダで願い事するの知った。

最初は死んだじいじ達に言ってるのかと思った。

で、5年前の誕生日の真夜中にこっそり起きて母ちゃんのところに行ったんだ。

その時、母ちゃんの願い事を聞いた。

まぁ、一人言だったんだけどね。

それで、生きてるんだって。」



「透矢、卒業アルバム見てたのって…」



「うん、その人を探してた。

"文化祭のカフェ楽しかったね"って、母ちゃん言ったし。

"私達がはまった××シリーズの映画の新作、見た?早く見なよ。"とか言ってるし。

普通、死んだ人にそんな事言わないかな?と…」



あちゃ…



「でも透矢があの男子を指差したのはなんでだ?」



「文化祭の二人の写真、母ちゃんが幸せそうに笑ってた。

あとは、直感かな?」



「私の一人言が決定打か…」



「で、父親の名前は?

なんて言うのさ。」



教えてと、透矢は言った。



「つ、鶴ヶ崎鷹矢…」



聞きたくて仕方ないという表情だった透矢は、名前を聞いたとたんため息をついた。



「やっぱり…夏世ちゃんと沙織ちゃんが言ってた名前だ。」



「夏世と沙織?

いつ?」



「中学校の入学式の3日前ぐらいに、夏世ちゃんと沙織ちゃんが来たでしょ。

引っ越しと入学パーティーしてくれた。

その時に、母ちゃんが先に酔って寝ちゃって、トイレに起きてリビングに行こうとしたら、二人で話してた。

"鷹矢にそっくりね…"とか、"鷹矢の名前の一文字もらったなんて、バレないのかな?"って…」



夏世と沙織…

二人は、高校の時のグループの友達。

親友と呼ばせてもらっている。



「夏世…沙織…」



「バレバレだったんじゃないか。」



「うん、バレバレ。」



呆れる総司と透矢。

落ち込んだ私だけど…透矢に聞きたいことがある。



「透矢は、一人で透矢を産んだ母ちゃんを軽蔑しない?」



「うん、しないよ。

会いたかったって言ってくれた。

産んでくれた。

生まれてこれて良かったし。

中学に入ってからは、父親が誰だとかもういいやって。

母ちゃんさえいてくれたらそれでって。

俺って、マザコンなんだよなぁ。

それに、父親との思い出はないけど、寂しいと思ったことはなかったから。

母ちゃんだけじゃなくて、総おじちゃんも基樹さんも、運動会や発表会には必ず来てくれたし。」



その言葉だけで良かった。



「ありがとう…透矢。」



「うん、だけど忘れないでよ。

俺は、これからも今まで通りだってこと。

母ちゃんとは、結婚するまで一緒。」



透矢のマザコン発言に、大丈夫かと思ったものの、多少は目をつぶろうと思う。

だって、嬉しいし。



滲む涙を我慢しながら、透矢に向かって頭を縦に大きく振った。



「そんなことより…遥姉のことは知ってる?」



「遥香、がどうした?」



「遥姉さ、今度DNA検査するって。

今日が絶好のチャンスじゃない?

疑惑の基樹さんの髪の毛いただく…」



基樹?

なんで、基樹?

まさか…私の心にしまっておいた、遥香の出生の秘密。

もしかしたら、遥香の父親って…基樹?なんて思ってたこと。

その予想って、当たってるの?



「遥香…なんで、そんなこと?」



動揺しまくりの総司の顔色がすこぶる悪くなった。



「遥姉、ずっと言ってたんだ。

自分の父親は、基樹さんなんじゃないかって。

癖や背中の痣や、右肩の黒子の位置までが同じだって。

学校の友達の家が病院で、頼んでみるって…」



「え〜っ!」



驚きの声を出した私と、吐きそうなぐらい顔面蒼白な総司。



総司の顔色が物語る、新たな問題に…



私達はまた、頭を抱えることになる。





透矢との話し合いが終わりました。随分と物わかりのいい息子、透矢のマザコン発動。この透矢のマザコンっぷりは、今後度々登場します。そして新たな問題勃発に、総司と基樹の関係性もはっきりしてきます。加えて、透子と鷹ちゃんの再会も間近で、その周りも波瀾万丈。できるだけ、解りやすく進めていきたいので、ご不明な点があればお知らせください。

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