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御園透子の動揺

読んでいただいてありがとうございます。寒くなってきました。冬本番です。風邪をひかないようにご注意を。



家に帰ると、遥香は既に帰っていた。



「文化祭の反省会だけだったの。」



委員会が早めに終わり、これから期末テストの勉強にかかるそうだ。


「その前に少し寝たいから。

夕御飯に起こしてね。」


と言って部屋に入っていった。


総司は子供達が居たらまずいような雰囲気のラインだったから、ちょうど良かったのかもしれない。



夕御飯のカレーライスを煮込んでいる時、総司が静かにやってきた。


ここのマンションの合鍵を預けているから、内緒話のときなどはこっそり入ってくる。



「総司、お疲れ様。

遥香は寝ちゃったよ。

あ、カレーライス持って行く?」



秋物のコートを脱ぐ総司に話しかけたら…



「いや、今日は非番の基樹がロールキャベツを作って待ってるんだ。」



さいですか…。

うちのかみさんが擬きの返答。



「ロールキャベツか、食べたいな…」



「今度、基樹に頼んでみてやるよ。

あいつの料理、めちゃくちゃ旨いからな。

それより、ちょっと座ってよ。

大事な話がある。」



彼女のことを思い出したかのようにほんわかしていた表情が、真剣な顔つきに変わった。



ここはふざけてる場合じゃない。

総司は定位置である向かいのソファーに座る。

私もソファーに腰かけた。



「何?

大事な話って…」



「あのな、昨日の帰り際に院長に呼ばれて、クリニックの開院の話をしたんだ。

三年から五年後を目処に、開院にこぎ着けたいんだってことを、はっきり言った。

クリニックの土地を買いとったことは、院長の耳にも入っていたらしくて。」



「まさか…クビ、とか?」



辞める予定の人間を働かせたくないって言われたのかと思った。



「いや、違うんだ。

むしろ、その反対。

来年にでも、開院しないか?って。」



「は?

だって総司、35歳を目処にって…」



「うん、俺もそのつもり。

父さんがじいさんのクリニックを継いだ歳だから…三年後かな。

でさ、その理由を聞いたんだ。

そしたら院長、来年から再来年にかけて総合病院の分院をあの街に開院するらしくて。

提携して、地域密着型医療を目指したいって。

その第一歩として、俺が産婦人科クリニックを先に開院させてほしいんだと。」



「なんか、腑に落ちない。

大丈夫なの?」



「ん〜、利益目的じゃないと信じたい。

だってうちの院長、じいさんの友人の息子だしな。」



それにしても、はいそうですか。

それじゃあって訳にもいかない。



「で、ここからが本題。

俺が買いとったあのクリニックの一丁隣に、スーパーとパチンコ屋があったろ?

結構な広さの。」



昔の記憶を呼び戻す。



「うん、あったね。」



「俺が見に行った時、スーパーもパチンコ屋も潰れてて、売地になってた。」



「まさか、その土地を?」



「あぁ、院長達が買いとったんだ。」



院長、やる気満々なんだ。

てか、達って…?



「達って、何?

まさか、変な業者とか入ってんの?」



「いや…院長と、幼馴染みの医療関係者だ。

それがさ…鶴ヶ崎病院の院長なんだ。」



鶴ヶ崎…鶴ヶ崎って…

なんで?

珍しい苗字だからすぐにわかる。



「鷹ちゃんのお父さん?

なんで?

なんで、鶴ヶ崎家が?

まさ、まさかっ、透矢のこと?」



「それは違うと思う。

鶴ヶ崎の院長は、父さんの友人だろ?

うちの院長とも知り合いだし。

院長が言うには、御園産婦人科クリニックを復活させたい。

そして、提携して協力し合い、曰く付きだの世間からは言わせないほどのクリニックにしたいって。

開院時期に関しては、保留と答えたけどね。」



確かに、曰く付きだのと言われるのは、開院してからはキツい。


けど…



「それでさ、来週からうちの小児科に新しい非常勤の医師がくる。

小児科の医師が、産休に入って人手不足だから。

その非常勤の医師の名前が…鶴ヶ崎鷹矢っていう。」



鶴ヶ崎鷹矢…


その懐かしい名前を、久しぶりに聞いた。



「なんで…」



「鷹矢くんは、跡を継ぐらしいんだ。

それに鶴ヶ崎病院は、今とっても深刻な経営難だそうだ。

長い間、地域の町医者としてやってきたけど、今の時代にその町医者の経営の仕方が結局は仇になったらしい。

今度うちの分院の院長が、鶴ヶ崎院長になるらしい。

将来的には、鷹矢くんが院長となる。」



「鷹ちゃんが、院長…」



「医者としては優秀だって、みんな噂してる。

大阪の病院でも、評判だったみたいだし。

産婦人科と小児科は、切り離して考えてはいけない、連携が必要だ。

必ず顔を合わせる。

透子姉のこと聞かれたら、なんて言えばいい?

言っとくけど、俺は嘘は下手だから。

透矢のことは言わないにしろ、何処にいるとか結婚したのかとか聞かれたら、誤魔化すのは難しい。

透子姉…透矢のことを含めて、よく考えておきなよ。

透子姉にも透矢にも、いつかは直面する問題なんだと思うから。

鷹矢くんとの再会は、近い将来にあるってことを。」



鷹ちゃんとの再会…


いつかは直面する問題…か。



総司が帰ったあと、しばらく茫然としていた。


遥香が起きてきて我にかえり、カレーライスを盛りつける。



「あ、お母さん。

そろそろ、透矢のお迎えの時間だよ。

帰りにコンビニで、プリン買ってきて。」



「う、うん…」



「お母さん?

何だか、顔色悪いよ?

透矢にライン入れようか?

バスで帰っておいでって。

バス代くらい持ってるでしょ?」



遥香に心配かけちゃダメだ。



「ううん、大丈夫。

コンビニのプリンね。

お母さんも、甘い物不足みたい。

そろそろ、お迎えに行ってくるね。

お留守番、よろしく。」



気をつけて〜と言った遥香の声を聞きながら、コートを着てお財布とスマホとキーをポケットに入れる。



駐車場へのエレベーターに乗りながら、私は考えた。



透矢は、今まで父親のことを聞かなかった。

幼稚園の年中さんの時に一度だけ、


"僕のパパは?"


と、聞いた。



その時、私はこう答えた。



"透矢のパパは、遠くにいるのよ。"



その答えで透矢は、自分の父親は亡くなったと思ってると感じた。


星を見て何かを呟く。

それが、しばらくの間続いたから。



でも、今ならどう思うんだろう?


大きくなったから、理解できる?

大きくなったからこそ、難しいんじゃないかな?



騙された…


嘘つき…



嘘はついてないつもり。

鷹ちゃんは、大学を卒業後関西地方の病院で働いてると聞いてたし。


遠くにいる…それは嘘じゃない。



だけど、子供はそうは思わない。

中学生になった今だから。


難しい年頃だから尚更。



一度、じっくりと話してみた方がいい。


鷹ちゃんに目元がそっくりな透矢だから、他人から似ているとか言われるよりは。


人伝に聞くことが、一番傷つく。


鷹ちゃんに黙って産んだ罰なのかな?



神様、ちゃんと透矢とわかり合えるようにしてください。


勝手なお願いだと思います。


お父さんお母さん、私に力をください。



透矢と向き合う力を…



私にくださいと、願った。


冷えてくるこの時期。


吐き出す息も白くなっている感じに見える。

それぐらい、私の心は凍っていた。



動揺なのか寒いのか、震えた手で車のエンジンをかけた。





徐々に近づいてくる息子の父親。ここまでのお話では、透子がどんな女性なのかまだ不明だと思います。透子だけでなく、主な登場人物がよくわからないだろうなぁと、作者も感じてます。なので、これからお話が進行するにつれて、じっくりと登場人物達がどうなのかを、出していきたいと思います。

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