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御園透子の現在

読んでいただきありがとうございます。医療関係の詳細は多めにみてください。作中の名称や団体名などは、架空のものですのでご了承ください。

そして、現在…



「お母さん、今日は少し遅くなるかも。

委員会があるの。」



「母ちゃん、俺は塾な。

いつもの時間によろしく。

じゃ、行ってきます!」



「透矢、いってらっしゃい!

遥香、遅かったら迎えに行くよ?

六時には帰れるから。」



「うん、六時過ぎそうなら連絡する。」



「わかった、気をつけてね。

お弁当持ったー?」



持ったー!

行ってきます!

元気にパタパタと家を出た透矢と遥香。


いつまでも仲良しで何よりだ。


透矢が産まれて15年。

中学三年生の透矢は、高校受験のために塾に通ってる。

その塾までのお迎えをお願いされてる私である。


高校生になった遥香は、総司の母校である進学校に入学。

その櫻木高校は透矢の志望校でもある。


私達は今、元々の故郷である県に住んでいる。

お父さんのクリニックや、鷹ちゃんの実家がある街ではなくて、総司の母校で遥香の櫻木高校がある街だ。あの街からは電車で一時間ほどかかるが。


引っ越しを三度した私達。

一度目は、総司の大学がある東京に、遥香が三歳透矢が二歳の時だ。


理由は簡単。


鷹ちゃんが留学から帰ってきたと、風の噂で聞いたから。

鷹ちゃんが来てくれてたマンションには、居られないと思った。

透矢の存在を、私は知られたくなかったのだ。

留学から帰ってきたと、それだけ聞いたわけじゃなくて、綺麗な彼女もいて結婚の約束をしたとか。

高校時代からの付き合いだった私と鷹ちゃんだから、高校時代の共通の友達がいる。


透矢の存在を知られたら、きっと鷹ちゃんは彼女と幸せになれない。

もしかしたら、鷹ちゃんが育てたいとか引き取りたいとか、そんなことになってしまったら、私は生きてはいけない。


そして二度目の引っ越しは、小さく産まれた遥香は、母親の遥奈に似て体が小さい。

加えて、喘息の持病を持つ。

東京の空気がどうだったのかはわからないが、東京に暮らし始めてすぐに、喘息が酷くなった。


総司から、環境の変化でストレスが子供ながらに溜まってしまったのでは?

と、言われてしまったのだ。


結局東京での暮らしは、一年半ほどで終了。


総司の薦めもあって、空気のいい街に引っ越した。


その街は、富士山が見える長閑かな街。

なんと、総司の親友である銀髪男"王様"…橋爪基樹の生まれ故郷でもあった。

そして橋爪基樹は、私の職場でもあった橋爪総合病院の三男坊だったから驚きだ。

出来のいい兄達と比べられ、やさぐれた橋爪基樹の喧嘩に明け暮れた中学時代。

地元では有名なヤンキーだった彼は、親から見放された状態で離れた街の遥奈と同じ高校に入学。

素行こそ悪かったが、成績は群を抜いて良かったというのだからこれまた驚き。


大学は違えど総司と同じ産婦人科医になると親に宣言した時は、総司のおかげだと神様扱いされたほど。

てか、今も総司への歓迎っぷりはすごいけど。


その土地で小学校を終え中学一年の冬に遥香は、突然言ったんだ。



「総ちゃんの母校に行きたい。」



叔父さんを総ちゃんと言う遥香は、総司の崇拝者。

見た目は遥奈、頭脳は総司。

二卵性の双子って、こういう遺伝子を分け合うのだろうか?

父親であるはずのあのふざけた号泣男の遺伝子は、一つも見えてこない。それよりも、最近ふとした瞬間見える癖が、ある人にそっくりだと思ってることは、私だけの心にしまっている。


遥香の出生の秘密…あの男は本当に遥香の父親なのか?

それは、遥奈にしかわからないが。



というわけで遥香の希望もあり、透矢の中学入学を機に今の街に落ち着いた私達。


櫻木高校の近くの中学に転校した遥香と、入学した透矢。


この県でも一番の超難関の櫻木高校に見事合格し、今に至る。




そして私は現在、マンション近くの病院で働いている。

産婦人科と小児科が併設されてる病院で、何故この病院にこだわったかというと…


総司がお父さんのクリニックを取り戻した時、何かの役に立てればと経験を積んでいる。


あのクリニックが売られた後、整形外科や内科のクリニックが相次いで開業した。

立地もいいし、外観も悪くないクリニック。

しかし、整形外科や内科も三年から五年の間に閉院。

曰く付きのクリニック跡として、数年間売地になってしまっていた。


総司曰く…

「じいさんと父さんが、俺に買えと言ってる…」


少し怖いことを言ったと思ったら、なんと総司はその売地を建物ごと買い取ると言ったのであった。


それが、去年の話。


両親の保険金などの遺産があり、それを出そうとすると断られた。



「じいさんは、自分の力で買い取れと言ってるんだ。

だから、いらない。

開業はまだ先だよ。

先ずは、他所に売られないようにする。」


そう言って、総司は契約したらしい。




「種がないから…」


それをカミングアウトした日だ。

クリニック跡を買収したと聞いて、その行動力にビックリしそのあとの種がない発言で、私は気絶しそうになった。


なんともさらりと、納豆を買ったよ、でもタレがないんだよ、的な感じで透矢の宿題を解きながら、つらりと言ってのけた。



「跡をつげよ、透矢。」



「おう!

任せといて!」



「あー!

総ちゃん、私も小児科医になるから!

私も一緒ね!」



「それじゃ、じいじの夢だった産婦人科と小児科があるクリニックにしようか。

楽しみだな〜。」



私が聞き直す余地を与えずに流された会話も何のその、遥香も入り混じって和気あいあい。


牛肉と豚肉のあるすき焼きは楽しみだな〜的な?


でも、総司が結婚しなかった理由がわかった気がした。



子供達が眠ったあと、総司と話した。


中学三年の春に罹患したおたふく風邪。

何千人に一人の割合での合併症で、総司の精巣は駄目になったらしい。

あの時、私はただのおたふく風邪と思っていた。

ただ、熱がやたら長引いたと朧気に覚えてる。

クリニックを潰した叔父さんの大丈夫という言葉を鵜呑みにせず、ちゃんと大きな病院に行っていれば…



「透子姉のせいじゃないからな。

気にするから言いたくなかったんだ。でも、もう時効だろ?

そうかな〜とは思ってたんだ。

だから、大学三年の時にこっそり検査した。

そしたら、無精子だった。

その頃、自棄になってすげぇ遊んでた。

基樹に殴られて怒られて目が覚めたわけなんだけどね。

でもさ、そういう男って少なからずいるんだって。不妊症は女性が原因っていう見方、今でもあんまし変わらないっしょ。

そんな女性に、男性が原因の場合もあるから自分を責めないでって、何か策はあるかもしれないって、力になってあげれたらな〜って思って。

綺麗ごとかもしれないけどね。」



確かに総司には、女の子をとっかえひっかえの時期があった。

大学時代、二年付き合った彼女と別れてから酷かったと思う。

彼女にフラれたからかな?と、私は思ってた。


辛かったんだね、総司。


ごめんね、何もわかってあげれなくて。

自分のことで精一杯でごめん。


そして基樹よ、ありがとう。


総司を支えてくれて。

この際、二人が怪しいだとかどうでもいい。

支え合って生きてる二人は、とっても楽しそうだから。



総司が勤務する総合病院は、この街の中心部にある。

もちろん基樹も一緒だ。

徐々に家族との歩み寄りも試みてる基樹。

自分達の息子より、総司と連絡をとるという基樹の両親であるが、心配で近況を聞いてるみたいだと、総司は笑った。



そして今日も、慌ただしい1日が始まった。



私の勤務体制は産婦人科の病棟勤務だ。

病棟と言っても、入院患者は20名に満たない。

これから出産する妊婦さんや、出産後のママさんがいる。

私は主に、出産後のママさん達の退院指導。

母乳が良く出るようにとマッサージをしたり、沐浴や授乳にオムツ交換の指導。


そして、精神的なケアも大切なのだ。

なんせママさん達にはいろんな方がいる。

旦那さんや、ご両親にも気をつかわなければならない。

特に、出産後のママさんの体はデリケートだ。

ママさんの体を気遣うことなく、息子の子供が産まれたと騒ぐ旦那さんのご両親には、時々呆れることもあるが。

うちの孫と騒ぐ前に、お嫁さんが産んでくれた有り難みを知るべきだと感じたりするけど、私が言える立場ではない。


だが、そんな小さなことと思ったら大間違い。

ママさんにしてみれば、孫を産めばそれでいい嫁みたいだと、ナーバスになる人もいるから大変だ。



赤ちゃんにも色々な赤ちゃんもいて、たくさん母乳を飲む子もいれば、吸うことがまだ下手くそな子もいる。

うちの子は、おっぱいを吸わないで泣いてばかりと悩むママさんも。


産まれたばかりの赤ちゃんのお仕事は、泣くこと寝ること飲むこと。

これらの全部を上手くすることなど、赤ちゃんには無理である。

どれかが出来れば、残りは出来ない。

それは当たり前のことだと、生前お父さんはよく言ってた。


とってもいい教訓があるのだけど、現実には難しい。



「はぁ〜、お腹空いたね。」



「お疲れ様。

木村さんはどう?

母乳の方。」



「うん、だいぶ軟らかくなってきたよ。

もうすぐ、母乳が出そうだね。」



スタッフルームでお昼休憩中の私と、同じ病棟の助産師の吉川美香との会話。

会話の中の患者さんは、母乳がなかなか出なく悩んでるママさんのこと。



「大変よねぇ、結婚四年目で産まれた赤ちゃんなのに、お姑さんの母乳圧力が厳しくて。」



「う〜ん、お姑さんがいる時はミルク貰いに来ないの。

てか、来れないのね。

ずっと、母乳マッサージの監視されてる。

あれは…プレッシャーだわ。」



「ストレスが原因で、母乳出なくなったママさんもいるからね。

私みたく…お姑さんに吸われて…」



「げっ…」



旦那さんに、相談してみたらとも言ったことがあるけど、こんな時はあまり役に立たないのが旦那である。

まぁ、世の旦那さんがみんなそうだと限らないけど。


お弁当を食べ終え、吉川と談話中。


吉川は、バツイチの母子家庭。

現在、小学五年生の男の子がいる。

頼りにならない旦那さんだったらしい吉川の元夫。

息子さんが産まれた時のお姑さんの行動が原因で、母乳が出なくなったのは吉川本人。

母乳圧力のせいだと旦那に詰めより、旦那はお姑さんに泣きつき、不仲になったと。

まぁ、他にも色々あって離婚に至ったと吉川は言ってた。


嫁と姑の問題については、吉川はスペシャリストかもしれない。

乗り越えられなかっただけと、いつも吉川は笑うけど。

いろんな悩みを抱えたママさんにとって吉川は、とっても素晴らしいアドバイザーだと私は尊敬してる。



そろそろ午後の業務開始という時、私のスマホが鳴った。



見てみると、総司からのライン。



総『緊急連絡』


私『何?』


総『今日、家行く。』


私『了解』


総『できれば、子供達不在希望』


私『なんで?』


総『特に透矢』


私『今日は塾』


総『じゃあその前に』


私『了解』



なんだって言うんだ?


緊急連絡ってまさか…また、基樹が作ったビーフシチューが旨すぎたって言うんじゃないだろうな?


緊急といいつつも、大して緊急じゃなかったんだから。


なんて、呑気に構えていた私。



動揺と焦りに包まれるなんて、思ってもいなかったんだ。





次回より、物語は徐々に進展します。

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