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猟技の儀

 昼下がりの太陽によってはっきりとその雄大さを示す巨峰。


 大陸のほぼ中央に位置する大山脈、ラハト山。その巨大さからセントヴァーニア連合国とヴァルト帝国そして、サンドラ王国という3つの大国の国境となっている。


 その山林の中を四人の全員年の近い少年たちが身を潜め、物音を立てぬように進んで行く。


 少年たちは狩りをする者が身につける大型の動物の毛から作られた外套を羽織っている。背には矢筒を背負い、腰には外套と同じ動物が材料であろうベルトに巾着袋と短めの剣を鞘に入れてぶら下げている。


 そして各々、形状は少し違えど丹念に整備された狩猟用の大きな弓をその手に握っている。


「いよいよ猟技の儀が始まるんだな……」


 少年たちの内の一人、黒い髪の少年がひっそりと不安そうに呟いた。


 猟技の儀とは彼らが属する狩猟集団である、アルム族の見習い狩人たちが自らの手で獲物を狩ることで真の狩人として認められる儀式である。

 儀式は毎年行われる。そして、獲物は基本的に強き獣、つまり危険な肉食動物などがその対象となる。

 今回の対象は狼であった。


 そのリスクや恐ろしさが狩りが失敗し、狩人になれないのではないかという少年の恐怖心を駆り立てていたのだった。


「おいおい、グレゴ。ここで怖気づいてたら俺たちだけで狼どもは狩れないぜ?」


 周りに比べて装飾が派手な弓を持った赤毛の少年が初めての見習い狩人だけでの狩りの場に似合わない明るい声を出して不安そうに呟いた少年、グレゴを励ます。


「お前は弓の腕は良いんだ。だから、お前に足りないのは心の持ちようだな」


 先ほどグレゴに声を掛けた少年とはまた別の、一番実力のある者が選ばれるリーダー格の証である狼の毛皮の帽子を被った金髪の見習い狩人がその不安そうな呟きを少し咎めるように言った。


「ありがとう。ネロ、アラン」


 グレゴは自分を励ましてくれた2人の少年に礼を言うと、決意を固めたように弓の握りをぐっと掴み直した。




 日がもう少しで落ちようとする頃。

 少年たち、見習い狩人一行は獲物の住処である山の岩肌に出来た洞窟に到着した。

 中を覗くと、入り口付近は明るいが奥の方は何も見えないことからこの岩窟の奥深さが窺えるようだ。


 アランは腰の袋から火打石を、矢筒から矢では無く、松明を取り出すと火をつけ、明かりを灯した。

 周りの少年たちもアランの行動を皮切りにそれぞれ矢筒から矢を取り出したり、剣を鞘から抜いたりするなど準備を始めた。


「行くぞ」


 アランはそう短く告げると松明を掲げ、自ら先陣を切ってその岩窟の中へ足を踏み入れる。そのまま、少年たちも狼が出てくるのを警戒しながらアランに着いて行く。


 だが、現れたのは狼ではなく、少年たちの他にも人間がいるということを示す松明の炎。その炎が現れてから間もなく、岩窟の闇の中から現れたのは五人の特徴的な兜を着けた屈強そうな狩人たちだった。


「よお。あんたらアルム族かぁ? 」


 狩人の内の一人がアランにまるで威嚇をするかのようなどすの効いた声で問いかける。


洞窟内に木霊する自分達見習いでは絶対に勝てない、という恐怖を植え付けてくる声。


「はい。どうやら貴方はフェルト族とお見受けするが」


 フェルト族はアルム族と長年、ラハト山の狩り場を巡って対立してきた民族である。 アルム族はラハト山の東側にあるサンドラ王国の、フェルト族は正反対の西側にあるヴァルク帝国に属していた。


そのため、狩人同士が出会ったら即殺し合い、ということになってもおかしくない状況なのであった。


 だが、ここはアルムの狩り場であったためフェルト族と遭遇することはないはずであった–––彼らがその領域を侵していなければ。

 アランはフェルト族は狩りの際に兜を身につけることからまさかと思いその男に尋ねたのだった。


「父ちゃんから聞いてねえのかぁ?。俺たちフェルト族とアルム族が出会ったらどうなるかってのをよぉ! 」


 先頭に立っていたアランが男の問いに対してそう言い終わるや否やフェルト族の狩人たちは少年たちに向けて一斉に矢を放った。

 風を切る音を岩窟の中で響かせながら矢は少年たちに向かって行く。


 少年たちは回避行動を取るが、一人の茶髪の少年が反応に遅れてしまい矢をその頭にもろに受けて、後ろにいたグレゴの方へ彼ごと倒れこむ。


「ロン! 」


 グレゴは目の前に立っていた少年の身に起きた突然の出来事に驚きを隠せず、大きな声をあげてしまう。


 その様子を見たネロは迫り来る矢の対応に焦りながらもアランとグレゴに向かって言い放つ。


「おい、グレゴ。こいつらは俺たちで足止めする。だから村へ戻ってフェルト族の襲撃を受けたと伝えて俺たちを助け出してくれよ。この策戦で文句無えだろ? アラン」


「わかった。ロンの死を無駄にするな、グレゴ」


 アランはネロの提案に応じ、フェルト族が放つ矢を剣で弾き返すという荒技を披露しながらグレゴに命令した。


「お前らを置いて逃げれるかよ! 俺も闘う! 」


「お前も倒れたら誰もこいつらを殺せないだろう! 」


 緊急事態だからだろうか、アランはグレゴの叫びに被せるようにいつもの冷静さを欠いた様子で語気を荒げて再度グレゴに命令する。


「必ずここに助けを連れて戻るから! 」


 アランの言葉にグレゴは渋々納得し、未練を断ち切るように、勢いよく岩窟の外へと飛び出していった。

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