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カミガミペーパークラフト  作者: 岡本眞事
第八章 「さぁ。どうでしょう」
49/53

8-4

「モンジ、これ!」

 助手席から転がり出たトイチが、両手に持った真っ黒い何かを操縦席に押し込んできた。一緒いたジャックが操縦席に転がり込んできた。「ワイも行くっ」

「おうよっ」エースとハイファイブ。

「これで全部だ」トイチが云った。

「お、おう」

 なにが全部だ。どうにかすると不安になるじゃないか。しかし、「きっと、うまくいく」トイチの天を衝くようなサムズ・アップに、満は力づけられた。

「おう!」

 思いに同調するかのようにコングの唸りが、振動が、より力強いものへと変わって行くのが分かった。在るべきモノが言葉通り揃ったのだと感じた刹那──立ち上がったコングは激しくドラミングして、空の向こう、見えない月に向かって吠えた。

 オオオ──ッ!

 振り廻され、満は口元に垂れた涎を手の甲で拭った。すっぱいおくびが漏れる。

「これは酔うぞ……!」

 コングはその巨大な腕を大地に突き、ノッシノッシとナックルウォークで歩を進め、グラウンドに侵入してきた重たげな灰色のドロドロヘ真っ直ぐ向かう。やがて跳ねるように駆け出し、そのまま勢いにまかせて右腕を振りかぶると、巨大な平手をドロドロに打ち付けた! 飛び散るヘドロ、間髪開けずに今度は左手でドロドロをなぎ払う!

 ヌブゥ──!

 オオ──ッ!

 両者が威嚇の声をあげる。

 ドロドロは身体を沈め横に広がると、飛び散ったそれを集める為に一部を触手めいた形に変容させた。それはうねうねと意思を持った幾つもの腕。アメーバを想起させる姿に、「……なッ!」満は目を見張った。幾ら細切れにしたところで簡単に復活する!

「気をつけて!」クイーンが叫んだ。

「アニキ、足下!」エースも叫んだ。

 身を乗り出して見ると、ドロドロがコングの足下に絡みついていた。ヤバい!

 オオオ──!

「なにぃッ──!?」

 コングが、満が、同時に叫ぶ。世界がひっくり返る。

 ズウン……ッ。グラウンドに引き倒された。頭を強かに打った。星が舞い散る視界の中で、空が見えた。仰向けになっているのを理解するのに時間を要した。

「るーくん!」カオリの声が聞こえた。「早く起きて!」

 そんなこと云われても……。依然、星がチカチカ瞬いて、後頭部はズキズキする。だが、ドロドロがコングに、操縦席に伸し掛かろうとするのを感じ、「んなろッ!」操縦桿を握りしめ、横に転がった。砂ぼこりを巻き上げ、体勢を立て直した。ドロドロは四方八方に伸ばした触手めいたそれを恨めしげにうねらせていた。

 ヌブゥ──!

 吼えるドロドロに、「なんだってンだよ……」口から悪態が漏れる。

「無茶苦茶だわよ」肩に掴まるショコラの言葉に、「まったくだ」同意し、ハッと操縦席内を見廻し、「エースは? ジャックにキングは?」

 すぐさまクイーンは腰の角笛を手にして、吹いた。

 プォ──ッ!

 それは高原を吹き抜ける風を思わせる音色だった。戦いの最中にあって、満の心はアルプスの山々へと誘われた。

 プォ──ッ!

 角笛に呼応するように、ドロドロの天辺がはじけた。「よっしゃぁ!」ジャックがロケットつき棍棒を振り廻して飛び出た。「大人しく剣の錆びになるがいい!」キングの剣でドロドロ繊維を切り裂いた。最後にエースがジャンプ、ポンッポンッとミニガンを撃つ。「アニキ、こいつ直ぐにくっつくぞ!」

 エースの言葉通り、ドロドロはキングが剣で切り払うそばから新たに結合し、ペーパーロボットたちを捕まえようと幾つもの細い触手をグイグイ伸ばした。


   *


「ヤクいな……」腕を組み、ミューズが唇を噛む。

 グラウンドの中央では砂ぼこりを立てながらドロドロとピンク・コングの戦いが続いていた。不定な形態を活かし、ドロドロに分が合った。コングから繰り出される攻撃は一見、効いているように見えるが、すぐさまドロドロと巧みに構成する繊維を解いては、結合を繰り返し、埒が明かない。

「先生!」トシ子が提案する。「あれ、紙繊維なんですよね? 燃やすのは無理ですか!?」

「放火は重罪だ」ミューズは頭を振った。「一度に焼き尽くせるならいいかもしれないが、そんな危ないマネはできない。よしんば焼けても、灰がどうなるかも見当つかん。不確定すぎる。風に乗って散り散りになって、どうなるかだなんて分かりっこない」

 困ったわ、と美保子は胸の上で祈るように手を重ねた。

 カオリはピンク・コングを奮闘を不安な眼差しで追った。優勢とは到底云えない。

「放水はどうでしょうか」トイチが提案した。「ジェット水流とはいかなくとも、消火栓から用意できますし、繊維分解の速度が結合速度を上廻ればいいのでは」

「む?」ミューズは一考の価値があると思ったが、直ぐにダメだと頭を振る。「グラウンドに飛び散るはよくないな。塊を細かくしても、処理が追いつかなければアレが増えるだけで脅威は変わらん。よしんば勢いで流すことが出来たとしても、下水で復活されたらコトだ。いずれにしても、どこに行くか分からないのは避けたい」

「先生、」カオリはミューズの白衣の肘を掴んだ。「つまり繊維をほぐせて、なおかつそれを一箇所に留めておけばいいんですね?」

「なにか妙案が?」

 カオリが、力強く頷く。

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