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カミガミペーパークラフト  作者: 岡本眞事
第八章 「さぁ。どうでしょう」
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8-3

 これは……すごい。満は気持ちが高ぶるのを押え切れなかった。夏からずっと制作を手がけていたが、こうして組み上がると、その圧倒的な存在感に改めて心と身体が震えた。

 ふと、校舎から、グラウンドから、音が消えているのに気が付いた。

 榊先生は本当に全員避難させたのだろうか……第二美術部を残して。なんかスゴイことになっているようで、心持ち、腰が引けた。

「でっけぇねぇ」トシ子が云った。

「大迫力ね」美保子が同意する。

「これどうするの?」カオリが訊いた。「このままじゃ外に……出せないよね?」

 オゥイェ。「しまったぁあぁあぁ……ッ」満は崩れ落ち、床に手を突いた。「そうだよ! もともと分割したまま搬出して、組み立ては外でする予定だったんだよ! なんで室内で組み立てちゃったんだよ!」

 うわあああっと頭を抱え、満は床の上を転がった。

 バカにも程がある! トイチだったらこんなヘマは絶対ない!

 そこへ、「慌てるな少年!」ミューズの声が飛んだ。

 転がるのを止め、起き上がりながら満は期待を込めて訊いた。「まだ大丈夫なんですか!?」

「いや無理」

「いまから分解して外に出すなんて無理ですよ!」両腕を持ち上げ、宙を仰ぎ、「エイリアース!」

「何を云っているのだ、キミは。正気になれッ、簡単なことだッ」

「もしや妙案が!?」今度はカオリの期待に満ちた声。

「今すぐ乗り込め。そして窓を突き破って壁を割り、外に出ろ。なァに、大丈夫だ、安心しろ、問題ない!」

「マジっすか!?」無茶振りに満は云い返す。

「窓破りの責任なんぞ、わたしに取れるわけがなかろうもん!」

「ダメじゃないですか!」

「ところがどっこい、これがどうにかなる仕組みなのだ!」

「知りませんよ!」

「大人の事情だ、夜の校舎でないだけ健全だ! 安心して出てこい!」

「分かりましたァ!」

 自棄ッぱちで満はピンク・コングの腹部──操縦席に乗り込んだ。「部長、コングの頭を外に出しておいてください、それから退避してくださいッ」

「オッケー、任せてッ」

 グッとトシ子は親指を立てた。

 満は腹部の操縦席、板張りの硬いシートに座り、操縦桿を握る。ペーパーロボットたちも入ってきた。

 ホントに……動くのか。動いてくれるのか。

「アニキ……」エースが心配そうに云った。

「大丈夫だわよ」言葉とは裏腹に、クイーンも不安げだった。

「きっと、できる」キングの言葉も、断定ではなく、願いだった。

「るーくんが乗らなきゃダメなの?」心配げにカオリが操縦席をのぞき込んできた。

「これは操縦して動くって設定なんだ」

「動かし方、分かる?」

「アニメで見た」カオリが変な顔をしたので云い添えた。「操縦席はアニメを参考にして作ったんだ。だからやり方は一緒」

「そうなんだ」しかしカオリは、納得していないようであった。

「大丈夫だよ」はたしてカオリに向けて云ったのか、自分に云いきかせたのか。「きっと、大丈夫」満はギュッと目を閉じ、カッと見開いた。「起動ォ!」

 イグニッション・ボタンを力一杯、押した。

 動け……動け……動け!

 ──ブゥン。

 低い、唸りがした。同時に、操縦席に取り付けた様々な計器ランプを模したパーツが点灯した。「……動いた!」

「無茶しないで、」

 満はカオリに力強く満は頷き、「危ないから離れて」

「うん。気をつけて」

「ありがとう」

 カオリが視界から消えた。設計上、操縦席はハッチもなく、むき出しだ。

 構うものか。操縦桿を握り──、「ピンク・コング、発進!」

 満の言葉に呼応するように、そのモニュメントは巨木のような腕を振り上げ、窓を突き破った。砕けたガラスがキラキラと飛び散った。そのまま窓枠から巨体を外に出そうと満は奮闘するが、肩が支えて抜けない。揚げ句に背中にロケットブースターまで取り付けていた! バックパックまであって、窓枠から抜け出ることが出来るわけがない!

 ハッと、満は気が付いた。違う! むしろ可能だ!

「ブースター、出力最大!」

 ブオオオ──ッ!

 グンッと背を押されるような感覚、「突き破れえぇ──!」

 ドゴッと校舎の壁が砕け割れ、飛び出したピンク・コングは勢い余って前転一回、大地に立った。

 ぐりんと廻った世界に、少しふらつきながらも、「よし」満はフットペダルを踏み込む。ずしり、ピンク・コングは歩を進めた。だが、その動きはぎこちなく、そして操縦席はひどく揺れた。

「モンジくん!」

 トシ子の声に身体の向きを変えると、ピンク・コングの首がそこにあった。ひどくポップで、ファンシーで、どうにも場違いに思えた。自分で作っておきながらどんなデザインだよ、まったく。満は操縦桿を小さく動かし、両手でぎこちなくそれを持ち上げ、首の上、在るべき場所に取り付けた。頭部のついたコングは、身体の関節をほぐすかのようにブルッと震える。シートベルトのない操縦席はやたらめったら揺られ、ペーパーロボットたちもミキサーの中にいるといった有様だった。

「……来た!」

 カオリの声がきこえた。焦点のはっきりしない視覚が捉えたのはグラウンドを突っ切って来るシルバーの軽ワゴン車だった。それは土煙を上げてドリフト走行かくやとばかりに後輪タイヤを滑らせ、コングのすぐそばに横付けした。土ぼこりが激しく舞い上がる。

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