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カミガミペーパークラフト  作者: 夏瓜 竹海
第六章 「作品、見てくれる?」
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33/53

6-4

「さて、本日のデートコースですが」ミューズが口を開いた。この日、ミューズは驚くほど普通の格好だった。パステルピンクのカジュアルシャツに、ベージュのジャケット。ライトブラウンのチノパン。白衣なし。髪も綺麗に梳いていた。難をつけるとするなら、ごつくて黒いナイロンの道具バックだろう。

「野々宮くんによるとショッピング、それからお茶というスケジュールです」

 満が訊ねる。「映画は?」

「訊いてないねぇ」とミューズ。

「野々宮くんですか?」トイチが訊ねる。

「デートのお相手でしょうが」

「なんで知ってるんですか?」

 トイチの問いに、「色々あるんだよ?」とミューズ。

 あ、はい。

「いや冗談。単純にうちの学部生だったから呼び出しただけ」

 あ、はい。

 やたらに薮は突くべきでないと、満は思った。

「それにしても変ね。普通はお昼を一緒にってのが夜まで連れ廻せないデートのテッパンでしょうに」ふんふんと不満げにミューズは鼻息を荒くした。

 テラスに隣接したファストフード店の一角。ちょうど木の陰を挟んで、読書青年の姿が見える。店内でも奥まった、都合のよい席で満たちは待機していた。テーブルは四人掛けで、小柄な満と大柄なトイチが並び、その対面にミューズが座った。足下には工具箱、中にはペーパーロボットが入っている。

「必要になると思う」ミューズは云った。満は外に持ち出すことを渋ったが、「作品の拡張性を高める社会的実験てのはどう?」などとよく分からないことを云ってゴリ押した。もちろん断ることも出来たし、忘れたフリも出来たのに、律義に持ってきてしまう自分がちょっと哀しい。だが、ミューズの指摘した「学校と家だけの狭い世界」でなく、外界での刺激がペーパーロボットたちにいい影響をもたらすのではないかと云う可能性は魅力的に思えた。

 気になるのは今日の天気だ。予報では夕方、小雨がパラつくらしい。窓の外を見遣るに、そんな兆候はどこにもなかったが、大事にしておくに越したことはない。どうあれ、彼らはペーパークラフトなのだから。

「これって覗きと変わらないですよね」トイチが云った。

「中学生は保護者同伴で外出のこと」ミューズがカップに刺したストローからずずっと音を立ててコーラの啜った。「だからキミタチもオーケー、彼女もオーケー」

「エースかジャックにカメラとか持たせられたなぁ」満はなんとなしに云った。

「それ盗撮や」トイチが云った。

「でも、」満は言葉を濁しながら、「できたら便利ですやん?」ずっと見張っている必要はないのだ。自分がカオリに見つかるリスクは最小限に留めたい。

「よく考えよう、モンジくん」トイチは静かに満の肩に手を置いた。「ペーパーロボットは背が低い」

「うん、あッ」

「分かった?」

「トイチ、変態だっ」

「無自覚!?」仰天のトイチ。「本当に気付いてなかったの?」哀しげに頭を振り、「あかんわー、モンジ、色々とあかんわー」

 まぁまぁ、とミューズが取りなした。「安心なさい。こんなこともあろうかと」道具バックのたくさんあるポケットの一つから一センチ角に満たない小さな黒いプラスチックのブロックを取り出し、「これ、クラフトのどれかに取り付けてもらえないかな」

 バンドが取り付けられてた。作品に傷を付けない配慮だろうか、ヘアゴムのようなものを細かくしたマーメイドの紙片で挟んでいる。

「小型カメラに見えますね」トイチが冷静にその中央の丸いレンズを指摘した。

「うん、CCDカメラだけど?」ミューズはにっこり微笑んだ。

「ダメだって云いましたよね」

「なんで?」

「盗撮だから」

「YES! 映画泥棒!」いい顔でミューズは親指を立てた。

「モンジも何か云ってやってよ」

「えっと、マイクは、」

 長くて太い溜め息をトイチはついた。

「音は諦めよう、ひとが多い。有線もかかっているし、反響もあるからね」

「そう、ですよね」ちょっと、残念に思った。

「だからいけませんって」トイチが咎める。「尾行だって褒められたことじゃぁないです。それに盗撮まで、」

「盗撮盗撮ってキミらはいつもそんなことを考えているのか!」いきなりミューズがキレた。「ショコラにさせればいいだろう、アレの設定は女の子なんだから!」

 満はトイチを見た。トイチの目には諦めが混じり、好きにしたらいいよと、と語っていた。

 少し悩んで、結局、満は膝の上に工具箱を載せ、そっと蓋を開けてショコラ・クイーンのボタンを押して起こした。その合間に、ミューズはテーブルの上のトレイを片づけ、衝立代わりの、小ぶりな段ボール箱を組み立てた。そして道具バックから7インチのタブレットPCを引っ張り出す。

 満は段ボール箱で隠しながら、ショコラ・クイーンを白手袋をはめたミューズに渡した。ミューズはクイーンの頭にそっとカメラを取り付ける。クイーンはくすぐったそうに身をよじってくすくす笑った。

「他も用意してくれない?」とミューズ。

 云われるがまま、満はプラム・エース、ジャック・レモン、そしてキング・ライムを工具箱から取り出して箱の中に並べ、同じく全員をスリープ解除する。

 手袋を外したミューズは、タブレットを指先で繰りながら四体に今日のミッションの説明を小声で始めた。画面が反射して良くは見えないが、クイーンに取り付けたカメラの映像をリアルタイムで表示しているようだ。

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