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カミガミペーパークラフト  作者: 岡本眞事
第五章 「と云うのは嘘ですっ」
29/53

5-6

 ペーパーロボットたちの性格は身近な人が少しずつ重なったものだった。作品に経験が反映されるのはよくあることで、「たくさん色んな物を見て、触って、感じよう」吾郎先生の工作教室で教えられた。「どう思ったか」はそうと気付かぬうちに作品に投影される。だから常にアンテナを張り、たくさんの事に興味を持ち、アイディアの引き出しをどんどん作るのだ、と。

 部屋の中でのエースとジャックはちょこまか動くのが好きだが、クイーンとキングは、本棚にある参考資料の図鑑だとかを眺めるのがお好みのようだ。クイーンは美術関係のものを、キングは機械の機構解説だの車やバイク、建機や重機だ。エースとジャックも本のページを捲ることはあるが、絵本やマンガが好きらしい。図鑑だったら動物、昆虫、恐竜関係である。

 満は、どこまで自分が想像していたキャラクター造形なのかと思う。ペーパーロボットが好きな本だなんて、考えたことなど無かった。ロボットが本を読む? そんな必要あるのだろうか? かれらは「未来」の「ロボット」で、だからありとあらゆる資料を含む膨大な「ライブラリ」が「内蔵」されているものだろう。会話だって「通信」でいいのであって、口を開くことなく、やり取りが出来るはずだ。そのための「アンテナ」や「レシーバー」に「トランスミッター」だったりするのだから。

 それにしてもなぁ。

 先に四体完成させてしまったのは手順ミスだったのかもしれない。ジョーカー含む五体を平行させて作業するのは、作風の統一感を考えてのことだ。一ヶ月あれば、前作と新作の間にどうしたって違いが生まれる。そもそもコンセプトに無理があったのだろうか。ビビッド・ジョーカーは他とは一線を画すキャラクターだ。だが、同じシリーズ、連作の一部である。五体完成したところで、全体のボリュームや情報密度、ディティールの調整を行うつもりだった。ところが四体は満の手を離れ「完成」してしまった。工作の追加など蛇足だ。

 幾つか手足や顔の習作を試みたが、組み合わせて見ると、しっくりしない。

 何がいけないんだろう。五体連作のつもりが、四体連作で完結してしまったのだろうか。知らぬうちに、自分の気持ちが離れてしまったのだろうか。

 くさくさ考えていると、廊下の床板が鳴った。ミチ子が風呂から出たのだろう。ふと、思い出して満はドアを開けた。はたして、ピンクの水玉パジャマ姿の妹が、ドアをノックしようと手を上げていた。

「びっくりした」いきなり開けないでよ、もう、とパンチを繰り出す真似をする。「お風呂、空いたよ」

「あのさ、トイチのことだけど」

「うん?」妹は風呂上がりでぽやぽやと仄かに上気した顔を傾けた。

「例のおまじないのこと、ありがとな。よも……リっちゃんから聞いた」

 しかし、「あ、うん」となにやらミチ子は歯切れ悪い。口をもごもごさせ、「そのね、あのね、文化祭のモニュメントが幸運のオブジェになるってことになったんだけど……」

「……なんでそうなんでしょうか」

「だって、おまじないって簡単にお終いにできないんだよ。それでお姉ちゃんが別のものに転嫁? したらどうかなって、」

「ふうん?」余計な入れ知恵を、と思った。

「でもそうでしょ?」ミチ子はぐいと顔を近づけ、ふわりとシャボンの匂いを振りまいた。「トイチさん、がんばって作ってるの、みんな知ってるもん。だからトイチさんの気持ちがいっぱい詰まったモニュメントは幸せいっぱいなんだって」

 あ、はい。なんとなく分からないでもないけど。いいのかそれで。

「だから今年のモニュメントは『ハッピー・ゴリラ』なんだって」

 また呼び名が変わった。

 妹は視線をそらし、「それにね」と続けた。「たくさんのひとがお兄ちゃんたちの作品、見てくれたらいいなって、」

「ああそうかい」妹の言に、兄として何やらこそばゆさを感じ、でも素直に、「ありがとよ」

「どういたまして」

 妹もまた、照れ隠しにワザと噛んだ。

「じゃ、風呂、行くわ」満は妹の頭に手を乗せ、ぽんぽんと軽く叩いた。湯上がりで暖かった。

「あ、そうだ」歩き出した背中に声をかけられた。「週末、お姉ちゃんデートなんだって」

「それが何か?」言葉はいつも通りに出せたろうか。

「どんな服がいいかなーって訊かれたけど、リっちゃんお姉ちゃん、私服、全然変じゃないよね?」

 女子のファッションとか知るかっての。

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