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カミガミペーパークラフト  作者: 岡本眞事
第五章 「と云うのは嘘ですっ」
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5-3

   *


「……と云うわけで、わたしがその不思議な紙を発明したのです」

 動くペーパークラフトがミューズに知られていたことに、満とトイチは気が緩んでいたと反省した。だが、関係者だったのは幸いと云うべきか。

 実は行き詰まっていた、とミューズは続けた。「正式名称はジェネラル=パーパス・エクスペンション・ペーパー(General-purpose Expansion Paper)、頭文字をとって、G.E.P.《ゲップ》なんだけど、和名は汎用薄型拡張紙としました」

 拡張の意味するところは、貼付することでモノにプラスアルファの価値をつけるところにある。「で、パテント取ってー、商標も.PAPEドット・パペで申請してー、ベンチャー立ち上げようとしてたんだけどねー」

 ミューズはメガネのブリッジを指先で芝居がかった仕草で押し上げ、「取り合えず資金集めのエンジェルズ、出資者向けに活用事例を作ってみたんだけどうまくいかなくてねー」

「はぁ」とトイチ。

「そ・こ・で」わざとらしいスタッカート。満を指さし、「キミ。キミだよキミ、六文字くん? よくやってくれたありがとう感謝だよでも報酬はないんだごめん」

「はぁ」と満。

「是非にもキミの作品を解体させてくれ」

「ダメです」言下にキッパリ云った。「お断りします」

「ちぇー」云いつつもあまり残念そうでないミューズ。「まぁそうだよね、自分の作品だし」

「もちろんです」たとい不思議紙の開発者でも、ダメ、絶対。

「その拡張紙の特性なんですけど」トイチが訊いた。「作ったモノに制作者の意思が反映されると云った認識で良いんでしょうか」

「今んとこ、その認識でいいんでないかな?」ペーパーロボットたちに視線を向けて、しかし、まだ不明なところがある、と続けた。「だから色んな人に使ってもらってフィードバック貰えたらなーと思ったけど、明美先生、束であげちゃうんだもん。でもまぁ、結果的にもう充分じゃね? とか思った」

 それから屈みこんで足下のトートバックからコーラのペットボトルを取り出し、蓋を開けてぐびぐび飲んで、盛大におくびを漏らした。「うむ、失礼」

 妹のいる満はさして驚かなかったが、一人っ子のトイチはいい年をした女性への認識を改めるのに些か苦慮した。

「まぁ、エンジェルさんたちを驚かせるのに野心がデカすぎたかも知れない」

「何を作ったんですか?」満が訊いた。興味があった。この変な人が作ろうとしたモチーフに。

「モノリス」心なし、ミューズは物憂げに云った。「一対二対三、それぞれ自乗の黒い板」

 トイチは呆れたように、「人類を次のステージに上げるつもりだったんですか」

「だから失敗したって云ったじゃん……優しい巨人になれたかもなのに」

「但しエウロパを除くんですよね」

「そうね」ふぅ、と艶っぽい溜め息。「触れてはいけない所だったかも知れない。わたしは間違っていない。ぴったり狂いないよう束ねて重ね貼りした拡張紙をレーザーで計測、裁断したのよ。だからわたしは間違っていない。もしかしたら成功していたかもしれない。なのに観測できなかったのかもしれない。考察すら出来ない事例は失敗と同義語だ。でもわたしは間違っていない。ただ──」

「思いが、足りなかった?」トイチが言葉を継ぐ。

「そうは思いたくないけどね」たはは、と気弱にミューズは笑った。「でもね、キミの作品が動いているのを見たら、あ、負けたって思った。ちょっと悔しかった。工作やめて随分になるけど、まだそう思っちゃう自分にも驚いたけど」まぁ他にもあるよ、と続けた。「歩兵が被ったらいい迷彩になるかなぁとか」

「おおっ」トイチは興奮した。「光学迷彩ですねッ」

「戦車に貼れないかなーって」

「軍事ばっかですね」どうなのかなぁと、満はペーパーロボットたちを見遣った。飽きたらしく、四体ともスリープモードになっていた。復帰はボタンを押してやる必要あるが、スリープはペーパーロボットたち自身でも可能だ。

「いや、」ふとトイチは握った片手を顎に宛て、考え込むように、「やっぱり軍事は無理です」

「その根拠は?」

 ミューズの問いに、「制御できないものは兵器になりません」断言した。

「ふうん」ミューズは続きを促した。

「たとえば、犬って賢いですよね。その犬を訓練して爆弾を括りつけ、敵陣に送り込むっていうアイディアがあったそうです」

「まぁひどい」

「ところが、犬がなついちゃって爆弾抱えたまま友軍へ引き返してきちゃったって話です」

「まぁかわいい」

「イルカを魚雷にするってアイディアもあったみたいですね」

「まぁ勿体ない」

 満は大仰に天井を仰ぎながら、「アリエネー」

「うん、だからミューズさんの発明は、確かにどこぞの軍事産業が興味を持つのはありえなくはないでしょうけど、それは基礎研究の部分と特許の横取りを目論んでのことじゃないかと」

「うんうん」ミューズは頷く。「それで?」

「もしかしたら、うまく運用できるアイディアが出るかもしれません。便利に使えるといいな、と云う発想からの出発よりも、明確な目的があるのでは開発のアプローチからして違うと思います。なんにしても抑えておいて、役に立つなら丸儲け、でもこっちにはビタ一文支払わないってところじゃないですかね」

「随分じゃないかなぁ……」満は呆れた。

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