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カミガミペーパークラフト  作者: 岡本眞事
第二章 「これってペーパークラフトでいいんだよね?」
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2-3

 満は本棚から組み立てていない何かの販促で貰った車のペーパークラフト・キットを取り出し、見せた。印刷された厚手の上質紙には、番号の振られた幾つものパーツに、直線には台形の、曲線にはギザギザのノリシロがついている。

「キットは赤い部分は赤く印刷されて、説明書を見ながら番号通りに切り出し組み立てる。でもぼくが先生から教えてもらった制作方法は赤い部分は赤い紙で、青い部分は青い紙」作業デスクから灰色のボール紙で作った立方体の箱を手に取り、「これが芯。中は潰れないように折り曲げた紙の桟が入ってる」曲げた指の節でコツコツ叩き、「その上にこのマーメイドって云う色紙をボンドで貼って組み上げるってのが基本的な工作手順。ノリシロはないんだ。ペーパー・スカルプチャーって呼ぶこともあるらしいんだけど、なんか彫刻ってニュアンス違うよね、って。だから、適当な言葉がない、ならやっぱペーパークラフトじゃね? って。けど素材は全部紙じゃなきゃいけないってこともなくて、タコ糸とかテグスも使うし、造花用のワイヤーなんかもよく使うんだ。針金に紙が巻かれていて、マーカーで着色したあと、ボンドでコーティングしてアンテナとか、丸棒に巻いてバネにしたり」

「作る時ってどこまで決めてるの?」

「今回はトランプの絵札だからそのイメージと、色で、まぁ名前もそうだけど、もし動くとしたら、口調とか性格とか、仲間に対してどういう位置関係か、どんな装備があって、それをどう活用するのか、動き方、飛ぶのか跳ねるのか、それともホバーみたいに滑って行くのか──」そこでカオリがぽかんと口を開けているを認めて、話しすぎたと思った。「まぁ、そんな感じで、」

 ややあって、ごくっとカオリの咽喉が動いたのが分かった。「なんか、すごい」

「そうかな」幼なじみの首の細さにどぎまぎして、満は気恥ずかしさを憶えた。

「そうだよ」カオリの視線がぐるりと部屋を一周し、窓辺に置かれた紙コップの上を滑り、申し訳程度の面積しかない学習用のデスクに向けられ、「鶴もまだ折ってるんだね」ふふっと懐かしそうに笑った。けれども満は遊びを見咎められた気分になって、「ソレハッ、勉強の合間の息抜きデシテッ」実に微妙な云い訳をしたと自覚するも、カオリは何か別のものを見ているようだった。

 一瞬の沈黙のあと、カオリが息を吸うのと同時に階下から、「リっちゃーん? リっちゃんお姉ちゃーん?」ミチ子の声がした。「おにーちゃんも帰ってるー? どこにいるのー? トイレー?」

 満とカオリは同時に噴き出す。

「いるよーっ」カオリが応え、二人でオモチャ工場を後にした。


   *


 晩ご飯は両家の親の分も、と云うことで、ミチ子の提案で、がめ煮を大鍋いっぱいに作った。ミチ子の買い物は「鳥肉がなかったから」であって、「鳥肉ナシじゃがめ煮にならんちゃけんね」と胡散臭い博多弁で、黄色い「お買い得」シールの貼られたパックをキッチンのワークトップに積んだ。他に大根サラダ、なめこと豆腐のお味噌汁、そして「なんかもう一品欲しいなぁ」とミチ子が云ったので満は冷凍の大学いもがあったのを思い出し、それを電子レンジで解凍した。手伝うと云ったカオリを座らせ、兄妹で台所に立ったが、やっぱり居心地悪いと結局三人であれこれ云いながら切ったり茹でたりお皿を出したが、やはり腕の数が多いほどに効率的と云うわけでなく、満はちょうど夕方アニメが始まったのでミチ子とカオリを離脱させた。録画をあとで愉しもうと思いつつも鍋の様子を確かめながら、キャーとかワーッと云う声に時々リビングのテレビに首を伸ばしてしまった。お蔭で凡その話の流れが分かってしまった。今週はブルドーザーを駆るロニーの活躍回か。

 ロボットアニメ「無限機動コンストラクターズ」は建機や重機と云った「働く車両が人型メカに変形、組み合わせ自在の合体ロボットもの」で、ベースカラーの黄色に黒いストライプ、差し色のクリムゾンレッドが効いた変形メカたちが大立ち廻りする。三話目にしてメインキャラだと思われていた「ユンボのジョー」がいきなり生死不明なったことで視聴者を引き付けた。

 エンディングテーマが流れたタイミングで、いい具合にがめ煮ができ上がった。大皿に盛りつけていると、カオリが手伝いに戻ってきた。「かなり面白くない!?」物凄く気に入ったようだった。「一話から録画あったら貸してっ」

「夕方アニメのわりに内容濃いからなぁ」

「まさか談合と公共事業の裏にあんな伏兵が潜んでるとは思わなかった……」

「資材が買い占められて工期が危うくなる回は面白かったな。力になりたいって耕耘機が出てきて、」

「やめてっ」カオリは手にした杓文字を激しく振った。「ネタバレしないで!」

 ヒロインのひとりが次回予告を始め、カオリは首を伸ばして画面に見入った。「町中の打ち終わったばかりのコンクリートに何者かが猫を歩かせる事件が発生! いったい何のために!? 次回、無限機動コンストラクターズ、『ねこ日和・謎の肉球暗号』、来週も、道はアタシたちが作る!」

「日常回かな」とお味噌汁を注ぎながら満が云うと、「なに? それ」とカオリ。

「大きく話が進展しないで、キャラを掘り下げて行く回……でいいのかな」

「むしろむっちゃ楽しみだわ」お茶碗にご飯を装いながらカオリは興奮さめやらぬと云った顔で云った。「でもあんなにガンガン飛び跳ねて、運転、大丈夫なのね」

「まぁ……アニメだし、四点式のハーネスだったり、本当に手ひどくやられるシーンはバルーンが作動したりで、安全に配慮した設計の演出もあるし」

「なんかすごい」感嘆した。

「うんすごい」同意した。

 そのままテレビをつけっ放しで食事になった。ミチ子とカオリが横に並び、その対面に満が座った。テレビの中でもグルメリポーターが食事をしている。今日は漁港の美味しい海鮮特集だとかで、でっかいエビが「このお値段!」わーっ、と喜んでいるが一食に幾らかけてるのだ。安いと云っても相応だ。同行タレントのお箸の持ち方に残念な思いを満は抱いた。せめて映さないでやるという優しさはないのだろうか。あれはとうてい箸使いなどと呼べるものではなく、棒を握っているとしか。なんかしょうもないなぁと思って、あ、と思い出した。

「なぁ、ミチ子さん」

「なに?」

「一年生の間でトイチに嫌がらせとか流行ってたりする?」

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