玄武のたくらみ
「七草でおかゆ作ろっ!!」
「いいね~」
組織を離れて、
あれから半年の月日が流れていた。
ヒナタの実家に戻ったあたしは、
そこで居候をさせてもらってる。
テレビもラジオもない世界。
風の噂で、
青龍では若様の即位式が盛大に行われたという話を耳にした。
ついに皇帝になった若様。
カタキである、マリ王妃は島に流されたらしい。
若様の生きる目的、
母のカタキをうって皇帝になることが実現された。
今はもう、話すことはもちろん、
触れ合っていたことすら夢のような遠い世界の人になってしまった。
「やっぱ、おかゆじゃなくて、ドリアが食べたかったな…」
「えっ?」
ヒナタのその言葉に思わず顔を上げる、
「あっ…ごめんっ」
片手を口元に当て、謝るヒナタ。
ドリア…。
そんなに美味しいかな。
ただ、あの人は、美味しいと言ってくれた。
あの人が食べたいと言えば、
傍にいることができた。
もう、ドリアの存在も忘れてしまったかな。
それでも、たまに思い出して、
食べたくなったりしてないかな。
その時は、ついでに、あたしのことも、
思い出して…
「…っ…うぅ」
「もう〜カンナぁ‼︎ ごめんって。泣かないでよ…」
「違う…なんでもないから、気にしないで」
たったこれだけのことで、涙腺がゆるんでしまうなんて。
あぁ〜。あたし、まだ…ダメだ。
若様が心の片隅に残ってる。
カイリside
「カイリ陛下…申し上げます」
「あぁ〜」
この世界にいるのに、側に置けないとは。
いや、元々、私の側にいたいがために戻って来たわけではないのだな。
“もう、お前をそばに置きたくないんだ”
なぜあのとき、
私がお前を守る…そう言えなかったのだろう。
命に変えても、お前を守ると…
「陛下?」
ボーっとしてしまった私に、キトとシュンは顔を見合わせている
「あぁ〜。すまない。聞いている」
「モアの死後、玄武を散策してまいりましたが、僅かに糸口が見えてきました」
「奴らのたくらんでいることか?」
「御意。どうやら我が青龍を敵に回す気なのか、妙な物を開発していると…」
「妙な物?」
「はい。それが何かまではわかっておりません。週末、玄武王の50歳を祝う誕生会がありますので、そこに密偵を送ります」
「わかった。調べを続けろ」
カンナside
「ヒナタ、ここも溶かしてくれる」
「うん‼︎」
ヒナタは片手をすーっと差し出すと、魔力を解放する。
「ねぇ。その炎、いったい何℃あるの?」
こんなにも簡単に鋼を溶かせるなんて。
「わかんないけど、一瞬で出る熱は、そうとう高いと思うわ。
ってか、鋼を溶かそうなんて思ったこともないけど…」
「柔らかくして形を変えただけよ。ほらっ‼︎これなら肉が切れるでしょ?向こうの世界では包丁っていうのよ」
「ほ、ほんとだ。これなら手でちぎらなくても簡単ね!!」
まじまじと鋼の包丁を見ていたヒナタは、ふいに首を傾げた。
「あれ?…でもおかしいな…。なんだろう…これ…。どっかで…」
「どしたの?」
「あたい、これに似たやつ、どっかで見たことある気がする…」
「包丁を?どこで見たの?」
「えっと…こんなんじゃなくて、もっと先がとがってて、棒がついてたような…」
それって…
「こんな感じ?」
あたしは、ペンをとると紙に絵を描いた。
「そうそう!!これよ」
あたしが書いたその絵は…槍。
こんなの、いつどこで見たの?
えっと…ってしばらく考えてたヒナタは、パッと顔を上げた。
「そうよ‼︎思いだしたわ‼︎モアが死んだ日よ」
「モアが…死んだ日?」
「流白村にモアを迎えに行く途中に倉庫ができてて…その近くにこれと似たようなのが落ちてた」
まさか…武器が。
どうして?
流白村の近く…。
なら、ここからそう遠くない。
「ねぇ…行ってみようか…」
「えっ?」
あたしがそう提案するとヒナタは目を見開いた。
「その“物”に心当たりがあるの」
あたしとヒナタは、白森の村を出ると、流白村へ向かった。
その倉庫につくと、外には何個かの袋がおいてある。
その袋の中をそっとのぞいたあたし。
えっ?
ほ、ほんとだ。
槍やら弓やら銃…。
どう見ても武器だわ。
「モアが言ってた“玄武のたくらんでること”ってこのことだったのかも
どうして武器がここに…」
「カンナこれが何か知ってるの?」
「向こうの世界では当たり前にあるよ」
「何をするもの?」
「身を守ったり、人を殺すこともできる…魔力の変わりって言えばいいのかな…」
「魔力の代わり?じゃぁ…玄武の王が魔力が使えないのと関係があるのかな…」
「えっ?玄武の王は、魔力が使えないの?」
「うん。確かそんな噂を聞いたことがあるわ。王は今50歳くらい…王に即位した30年前くらいから何かの病で魔力が使えなくなったって…」
それで武器を作ってるの?
じゃぁ…モアが残した最期の言葉の続きは、たぶん
“あいつは、カンナの世界の…”
『武器を作ってる』
そう言いたかったのね。
倉庫に近づくと、中から何やらボソボソと話し声が聞こえてくる。
あたしたちは、そっと扉の隙間から中をのぞいた。
瞳の色が黒い。
玄武だ。
「カイリもこれで終わりだ」
「天下人も1年すら持たなかったな」
「笑える。これじゃ、歴史にも名が残らん」
その会話を聞いて、思わずヒナタと視線が絡み合った。
今、なんて?
どういうこと?
カイリも終わり?
まさか、武器を使って、若様を襲う気?
こいつらは、誰の指示でこんなものを作ってるの?
バックにいるのは誰?
わからない。
あとさえつけれれば、身元もわかるのに。
「しかし、これをどうやって玄武まで運ぶかだ」
「あぁ〜。手形がなければ、白虎を通過できないぞ」
「くそっ!あと少しなのだが」
玄武まで…運ぶ?
なら…。
「あの〜すみませーん。どなたかいませんか?」
あたしがいきなり扉を叩くと、ヒナタは、“ぎゃぁ‼︎やめてよ”って肩を叩いた。
ガラッと、扉が開いて中から出てきた男。
「なんか用か?」
その男は、ギロリとあたしたちを見下ろした。
「あの…道に迷ってしまって…玄武の地まで行きたいのですが…どちらに行けばいいかわかりますか?」
「玄武の地?」
「はい…」
「玄武なら、この先の橋を渡り、白虎の関所を西にずっと行ったところだ」
「ありがとうございます‼︎助かりました」
そう言って頭を下げ、その男に背を向けると、
「ちょっと待ってくれ‼︎」
予想通り呼び止めてきた男。
「はい…」
「白虎の関所を通過するには身分証が必要だが…あるのか?」
「あぁ〜。あたしたち白虎の金融の者なので身分証は持ってます」
「何?白虎の金融?」
「はい」
男は、中に残ってる男たちに一度視線を移すと、改めてあたしたちを見る。
「我々もちょうど玄武に向かうとこだ。お前たちを玄武に案内してやろうか?」
「ほんとですか‼︎」
「あぁ〜。その代わりと言ってはなんだが、我々もその証明で一緒に白虎を通過させてほしい」
「わかりました。では同じ輪ということで玄武に行きましょー」
玄武に向かう途中、
「カンナ…。モアはもしかすると、この武器を見てしまったから殺されたのかもしれないわ」
そう小声で耳打ちしてくるヒナタ。
確かに…そうかもしれない。
もしそうなら、犯人はこいつらかも…。
無事、白虎を通過し、
玄武に入ると、街はお祭りで賑わっていた。
商店にはところどころに“祭”の文字が掲げてある。
今日は、なんかの日なの?
それより、こいつらはどこに向かっているのだろう。
そう思っていたら、
「お前たちの目的地はどこだ」
先手を打たれてしまった。
「あぁ〜親戚の家に向かう途中です」
「もし時間があるのなら、玄武城にこないか?」
「えっ?玄武城?」
「実は、お前たちのおかげで我々は助かったんだ。今日は玄武王の誕生会が開かれている。許可を得てくるから会場で食事をして帰れ」
じゃぁ、この人たちの目的地は、
玄武城。
玄武がなぜ武器なんかを…。
やっぱり、王が魔力が使えないのと関係があるのかな。
「そんな急に参加しても大丈夫なんですか?」
「青龍や朱雀、白虎からたくさんの人が来ている。1人2人増えたところで問題ない」
玄武城に着き、玄武の宴に参加すると、“お礼”と言われ、たくさんの食事をごちそうになったあたしたち。
確かに凄い人数。
これなら、よそ者が入ってもバレないわ。
武器はどこに隠してあるんだろう。
「ヒナタ…食べてる場合じゃないわよ」
「わかってるわよ‼︎武器の場所さえわかれば、あたいが倉庫ごと破壊してやるわっ」
ヒナタは、口をモグモグさせながら、片手で小さく炎を出した。
そんな中、
「おい‼︎お前たち」
突然、背後から呼ばれて、ゾワッと鳥肌が立ったあたし。
恐る恐る振り返ると…
えっ?
キ、キト?
なんで?
どうしてこんなとこに…。
「こんなところで何してる」
「えっ?あっ!久しぶりね…キト。
あたしたちは、なんか…たまたまついてきたら、たまたまここに呼ばれて…」
「ふんっ」
キトは、あたしとヒナタを交互にジロっと見たあと、どっかに消えて行った。
「ちょっと‼︎なんでキトが‼︎」
カイリside
「陛下…申し上げます」
「うん」
「キト様から連絡が…。やはり、玄武が開発しているのはアギ様のおっしゃっていた“武器”だと思われます」
「そうか、わかった。ご苦労」
なら、玄武王が無魔力者との噂は本当かもしれないな。
武器で我々を攻撃するつもりか。
「それと…もう一つ…」
「どうした」
「玄武の宴に…カンナ様のお姿が…」
「なんだと?」
あまりにも驚いて、護衛を2度見してしまった私。
カンナが…玄武城に?
はっ…あいつ。
今度は何を考えてる。
「すぐに玄武城へ向かう」
「えっ? へ、陛下自らでございますか?」
「そうだ」
「あっはい‼︎承知いたしました。すぐ準備いたします」




