表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/82

インスピレーション

日はとっくに暮れていた。


そうだ…。


そういえば、朝ごはんを食べたっきり何も口にしていない。


それくらい空腹を忘れるほど夢中になっていたんだと思う。



流白村へ戻ってきたあたしとヒナタの前には、一握りの玄米と、木の実をあえた煮物、それに山から採ってきたという小さな果実。



村がこんな状態って時に、あたしたちにしてくれた心遣いがすごく嬉しかった。



「カンナ様!!ヒナタ様!!ありがとうございます」



「このご恩は一生忘れません…」




村のみんながあたしとヒナタの前にひれ伏せてくる。



そこまで、そんなにされるほどのことは何もやってないのに・・・


だから逆に、ちょっと心苦しい。




「二人とも本当にありがとう」



モアは大粒の涙を流して泣いていた。



「村長として礼をいう。村を助けてくれたこと感謝してる」



中心に立っていた村長が、あたしとヒナタに頭を下げると、村人みんなも改めて深く一礼してくる。



「あの…でも…。死ぬ気でって言ってましたよ?」


数時間前、あのキス男が出してきた条件…。



それは、



“流白村の男たち全員が、ここの組織で働くことだ”



“えっ?ここで働く!?”



“そうだ。ただし、命は捨てたものと思ってもらう。そのつもりで働くのであれば、金は融資しないが、その代わり村の食料や飲料はすべてこちらで面倒みてやる”



“わ、わかった。でも、それは、ここじゃ決められない。村の人たちに聞いてみないと…”



“構わない。村がこの条件を飲めないのなら、この話も無かっただけのことだ”



冷然とそう吐き捨てるその冷めた瞳を見て思った。



“命は捨てたもの”って…


村の人たちに、どんだけ過酷なことをさせる気なんだろう…って。



正直そこまでして村を助けるべきなのか少し不安にもなった。



だけど、


「どちらにしろ、このまま村にいたって、待っているのは死。それに流白村ってだけで職さえも見つからなかった。

どんな労働をさせられたっていい。俺たちが行くことで、家族が助かるならありがたいことだよ」



1人の村の男の人が言った言葉に、他の男性たちは、うんうんと何度も相づちを打って頷いていた。



確かに数日前に見た村の人たちよりも、今日はたくさんの笑顔が見れた気がして…


なら…これでよかったのかな…って思えてくる。




「あたいもカンナたちに村を救ってくれたお礼がしたいな」



モアは、“あたいにできること何があるかなぁ?”って呟きながら、しばらく考え込んでいた。


そして、何かをひらめたかのように改めてあたしに視線を戻した。




「ねぇ~!?カンナは魔力が使えないんでしょ?」



「…うん。そうだよ」



「だったら、カンナのこと、あたいが命をかけて守るわ」



「えっ…?」



「あたいがカンナの魔力になるよ!!それにね…なんだか不思議だわ。あたいの中にある血が…白虎の血が…カンナを守らなきゃって…そう言ってる気がするのよ…」




「…ユリ」



「だからあたいはユリじゃないって!!」



「あぁ…ごめん…モア…。じゃぁ、これからも一緒にいてくれるの?」



「もちろん!!」



「ありがと…モア」




カイリside




「若様…。あの女は…鏡を探していた女では…」



「…あぁ…そうだな」




それにしてもよく出くわす。



行く先々で会うのはなぜだ。



倉庫の周りを2度もうろついていたり…。



まぁ、王の兵に負われていたときは助かったが。




それになぜか今宵は、


久しぶりに、母上を思い出した。



そうだ…あれは、おそらく5歳くらいの記憶だったと思う。




「母上様!!見て下さい!!」



「まぁ…素敵なお花ね」



道に咲いていたシロツメクサをたくさん紡ぎ、


花束のようにして母上の目の前にかざして見せた。




「これを…母上様に!!」



「本当に?カイリ…ありがとう」



そう言って、満足気に微笑んだ私の頭を優しくなでた母上の手。




「だけどね、カイリ…」



「はい…」



しゃがみこんで私と目線を合わせた母上は、小さな私の手を握りしめた。




「植物も、あなたと同じように生きているのです。


尊い命をいたずらに奪ってはいけませんよ?」



「はい。わかりました。母上様…」



コクリとうなずいた私に優しく微笑みかけた母上。



“もしも、あたなたに助けられる力があるなら、その力を貸してください。それで、いくつもの尊い命が救えるんです”



尊い…命…か。



幼き頃を思い出し、思わずボーっとしていた私の横で聞こえたキトの声。



「…若様?」



「あぁ…聞いている」



「あの女…怪しいものと見受けます。もしかしたら、我々の計画を知っての行動かもしれません」




確かに…何度も出くわすのも不自然だ。



それに、あいつが言っていた“鳳凰の鏡”とはこの鏡のことか。



それとも…偶然…。



どちらにしてもただの女では…なさそうだな。



「しばらく見張りをつける。不振な行動を取ったら即始末しろ」



「御意」






カンナside




「まさか、あいつらが鏡を」



「ん?何?なんか言った?」



昨日からずっと考えてた。



どうしても何かひっかかって、よく眠ることができなかった。



だってあの男は、あたしがこの世界に来たと思われるあの森に2度も現れて、


キトとかいう男は、鳳凰の鏡の話をしたとたんに、あたしを殺しかねない血相で豹変した。



だからもしかしてあいつらは…鳳凰の鏡のことを知ってるんじゃ…。



そんな気がしてならない。



「ねぇ…ヒナタ…。あたしが探してる鳳凰の鏡のことなんだけど…」



「うん…鏡がどうしたの?」



「あいつらが何か知ってるかもしれないんだよね」



「えっ?」




“なぜお前が鳳凰の鏡を探してる”



まるで鏡は自分たちのものだとでも言いたいような口ぶりだった。



「もしかしたら、やっぱり洞窟の中に鏡はあったのかもしれない」



「じゃぁ、あいつらがカンナの鏡を持って行っちゃったってこと?」



「確信はないけど…」



でも、あたしの勘はよくあたる。


だから、もしもその勘があたっていれば…


鏡はあいつらが手にして、あの組織へ持って行ってしまったに違いない。



「なら…金融に盗みに入ってみる?」



突拍子もなく、

そうボソッと呟くヒナタ。



盗みに…か…。



でも、あんなに大きな屋敷。



たとえ入り込めたとしても見つけだすのは不可能に近い。



ましてや本当に鏡があるかも、どこにあるかもわからない。



一番正確なのは、直接本人に聞いてみることなんだろうけど…。


絶対無理に決まってる…。



そんなこと聞いた日には、今度こそあたし、とどめを刺されると思う。




とりあえずは、あの組織に鏡があるのか無いのか…それを確認することが先だ。



だとしたら…方法は…


きっとこれしかない。




「あたしもあそこで働く」



「えぇぇっ?」



突然のあたしの思いつきにヒナタは目を丸くして身を引いた。



「ちょっとカンナ!!そんな簡単に働くって言うけど、鏡を探してることがバレたら殺されちゃうかもしれないんだよ?」



「盗みに入る方がよっぽど怖いよ」



「そりゃそうだけどさ。でもあそこで働くのは、いくらなんでも危険すぎるよ」



「……」




わかってる。



危険なところに飛び込んで行こうとしてることは十分わかってる。



でも…。



「あの鏡がないと、あたし、きっと元の世界には帰れない」



小さくうつむいたあたしの肩に突然ポンと乗ってきた華奢な手。



「いいよ!!あたしも一緒に働くから」



「モ、モア…」



隣で話を聞いていたモアは、何の反対も意見も述べることなく、ただあたしに賛同してくれる。



そんな中、しかめっ面のヒナタは、

眉間にしわを寄せながら、ため息交じりに首を横に振った。



「はぁ…。ったくもぅ、しょうがないな…。じゃぁあたいも付き合ってあげるよ」



「ほ、ほんとに?」



「何言ってもどうせ聞く耳持たないでしょ?あたいも巻き込まれてあげるわよ」



「ヒナタ…」



「そうと決まったらさっさと行くよ!!ほらっ!!準備して!」



行動が早いヒナタは、薄手の羽織をバサっと身にまとっておじいちゃんの部屋へと事情を話しに行った。



あたしの鏡…。


どうかあの組織の中にありますように…。




半月前、ここがあたしのいた世界じゃないと確信したとき、



帰る方法を見つけだすのは、きっと簡単なことではないだろうと、薄々どこかで感じていた。



だけどまさか、


この世界で就職するほどまで居座る状態になってしまうなんて…。



長くここにいればいるほど、本当にあたしは元の世界に帰ることができるのだろうか…そんな不安が募ってしかたない。



今日まで、何度も見てきた。


光の扉が徐々に小さくなって、その光が消えていく。



カギが見つからなくて、

あてもなく探し、彷徨い続ける…。



そんなような夢を何度も見てきた。



朝、起きると全身汗だくで…。



自分の悲鳴で目が覚める。



ヒナタとモアの存在のおかげで、今日までの毎日は絶望ではない。



でも、不安と恐怖の中、


今でも、あたしが望むのは一つだけ。



ただ平凡にくらしていた


高校生の自分に


早く戻りたい。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ