開かれた希望の道
カイリSide
「若様!! 若様!! 若様~!!」
一体なんなんだ。
そんなに何度も何度も呼ばなくても聞こえている。
キトの奴…朝から騒々しい野郎だ。
「…どした」
ガチャっと扉を開けると、
目の前には、大げさに肩で、はぁはぁと呼吸を繰り返してるガタイのいい体がそこにあった。
「し、信じられないことがおきました」
「なんだ」
「例のものが!!見つかったとのことです」
「例のもの?」
「はい…」
真っ青に血相を変えて目を見開いているキトを見て、これはただ事ではないと察した。
一体なにが見つかったというのか…。
未だ、はぁはぁ息が途切れないキトと、
そのキトをじっと見ていた私の間に、
しばらく沈黙が流れる。
だが次の瞬間、ハッと脳裏に一つのブツが思い浮んだ。
「…ま、まさか…鏡か!?」
「御意…」
「どこにあった」
「たった今、倉庫を移動している最中に、み、みつかりました…」
「なんだと?」
そんな馬鹿な…。
何十年も探していたものが自分たちの倉庫にあったなどと…。
いや…いくらなんでもそれは考えられない。
浮かれるのはまだ早い気がする。
「偽物かもしれない…すぐに倉庫へ向かう」
「はっ…」
キトと共に森へ向かう途中、あらゆることが頭の中を駆け巡ってくる。
期待してはいけない。
そんなことは充分わかっている。
だが…例えばの話。
もし…。
鏡が本物だとしたなら。
そう思うだけで、いてもたってもいられず、気持ちだけが先走る。
今までは、曖昧で、ぼんやりとしか見えてなかった、我々が進むべき道。
その道へ、一気に光が差し込んでくれることは間違いない。
王位継承の証…。
鏡を手にすることだけで、私にとっては心強い盾となる。
迷い・・・不安・・・恐怖。
己の中にあるそんなものは、きっと全てかき消してくれるだろう。
早くこの目で確認したい。
高鳴る気持ちと、逸る気持ちを懸命に抑えながら森の中へ足を踏み入れた。
「こちらにございます」
「わかった…お前たちは下がってよい」
「はっ!」
倉庫に入り、中にいた護衛たちを下げさせたキトは、
「若様…」
ゆっくりと鏡を手に取ると私の前に差し出してくる。
上半身が写るほどの小柄な鏡。
古びたせいか、年季が入って歴史を感じさせる外見にますます期待が募る。
震える手、
早く脈打つ鼓動。
一度ゴクリとツバを飲みこみ、その緊張を表に出さぬよう装いながら、キトから鏡を受け取った。
見た目以上に重みを感じる。
簡単なこと。
鏡を裏返せば、偽者かどうかはすぐにわかる。
だが、ずっと何十年も探してきたもの。
いとも簡単に、間違いであってほしくない。
鋭い視線を絡めあったまま、キトと私の間に無言の会話が続く。
コクリと一回うなずいたキトを見て、
やっと決心がついた私は、
ゆっくりと鏡を裏返した。
頼む…あってくれ!とただ願いながら・・・本物である証を探す。
そして、“それ”を見つけたとき、きっと、天はまだ、我々の見方なのかもしれないと思えた。
こ、これは…。
信じられない。
こんなことがあるのか。
なぜ今まで、
見つけられなかったのだ。
確かに、皇帝しか持つことのできない印判が鏡の裏に刻んである。
本物を見たのは私も初めてだ。
「これは間違いなく、鳳凰の鏡…キトよくやった」
キトは深々と頭を下げて一礼する。
「これでやっと我々の動く時がきました」
「あぁ…そうだな」
母上…。
やっと…やっと、
鳳凰の鏡をこの手にしました。
これで、母上のカタキを打ち、
王位の座を・・・
この手に取り戻してみせます。
「若様のそのような晴れたお顔は久しぶりに拝見しました」
今まで、母上の形見は何一つなかった。
だから何か一つでも手にできた今は、なんとも言えぬ満たされた気持ちなのだ。
それも、手に入れたのは
鳳凰の鏡。
「今宵は宴でも開きたいものだな…」
「では、さっそく準備をいたしましょう」
この鳳凰の鏡を前に、これから先のことを考えると、つい二人で舞い上がってしまっていたんだ。
何十年もの間、ずっと張り詰めていた糸が一瞬切れてしまったのかもしれない。
「今宵は存分に酒が飲めるのですね…」
「キト…お前は毎日が宴ではないか」
「またまたご冗談を…」
まったく、気配を感じることができなかった。
キトとクダラナイ話しを交わしながら出口に向かう。
だがその瞬間、人気を感じて、ハッとした時には、
もう、すでに遅かった…。
浮かれ半分で表へ向かった我々と、倉庫の出口で、それを待ち構えていたように立っていた男達。
思わず身構えて立ち止まってしまった。
その動きを見てか、一人の男はキッと目を細めて口を開いた。
「ここで何をしている」
この者たちは…こないだの青龍か。
ならば…王の兵。
やはりまだこの辺りをかぎまわっていたのか。
「質問に答えろ。ここで何をしていたと聞いている」
何も答えないキトと私を見ると、男は手に持っていた黒布をビシッと左右に引き伸ばした。
っ…!!
くそっ…。
我々を捕らえるつもりか。
たとえ何かうまい言い訳をして身は逃げられたとしても、持ち物は間違いなく
押収されてしまうだろう。
脇にはさんだ鳳凰の鏡に、ぎゅっと力をこめた。
王の兵に鏡が奪われれば、まずいことになる。
何があっても鏡だけは渡すわけにはいかない。
なんとしても食い止めなければ…。
「若様…相手は3人です。ここはわたくしが…」
耳元でボソッとそう呟いたキト。
3人か…。
確かにキトなら、たやすいだろう。
「大丈夫か」
「はい…若様は鏡を…」
「わかった。油断するなよ」
「はっ…」
兵の間を縫ってスーッと外へ出たキトは一気に空高く舞い上がり暴風を起こす。
「青龍か…逃がすな」
一人の兵がそう言うと、キトを追って宙を駆け舞い上がって行った二人の男。
キトが3人の視線をひきつけている一瞬のスキを見て、私は倉庫から出ると無我夢中で一気に森を武空した。
あの者たちは、キトが食い止めてくれる。
私は鏡を無事持ち帰ることだけを考えよう。
一度も後ろを振り返ることなく、ひたすら館を目指す。
白森の村か…。
ふと足を留め辺りを見回した。
この村を抜けることなど簡単なこと。
だが問題はそのあとだ。
館に帰るには、どうしてもその先にある白楽の城下町を通らなければならない。
この辺りでは一番大きな城下町。
人の数、店の数も白虎で一番栄えている町。
できることなら、そんな場所で鏡を持ち歩くことは避けたい。
だからと言って、武空で一気に町を高速すれば目立ちすぎてしまう。
それに、確かこの時間の武空は禁止だったか…。
白森の村を抜け、城下町のにぎわう声が聞こえてくると、羽織っていた上着を一枚脱いで鏡を包み込んだ。
チラッと腰元にある時計を確認する。
10時30分…。
城下町の入口の前に立て架かっている看板に目を向けると、
“10時~18時 武空規制”の文字。
はやり…歩いていくしかないのか。
意を決して町に足を踏み入れると、
まるで、“私は怪しい者です”とでも言っているかのように、挙動不審に辺りを見回してしまう。
人の目がすごく気になる。
皆がこの鏡を見ているような気がして。
人と目を合わさず早足で、ひたすら城下町の出口を目指した。
商店街の半分ほどまで来ただろうか。
前を進んでいた足が、思わず、ぐっと留まる。
正面から四方にキョロキョロ視線を変えながら、こっちに向かって歩いてくる一人の男。
あいつは…。
キトの奴…1匹逃がしたな。
時折立ち止まり、辺りを見回しては、また歩き出す。
やはり、私を探しているのか…。
くそっ。
ひとまず、大きな柱の影に身を隠した。
まずいな…どうする。
「うわぁ~っ美味しそう!!」
「ねぇ?小腹空かない?」
「うん、ちょっとね。だけどあたしお金持ってないよ」
「大丈夫よ心配しないで、今日はあたいのおごりだからさ」
道の向い側で、べらべらとしゃべりながらすれ違っていった女に視線を移すと、
思わずその女を二度見した。
もしかして…あの女は…。




