表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/82

白虎の御霊

カンナside



あたしがこの世界に来た場所だと思う洞穴を、運よく見つけられたというのに、


結局、中に鏡があるかどうかを確認することはできなかった。


だけど、場所は把握できたんだから、一歩前進はしているはず。


ひと気のない森かと勝手に思っていたところに、2組にも出くわすなんて…


それに…あぁもう!!

思いだしただけでも腹立つ…


あんな奴に、キス…されたなんて…。


まだ感触が残っている唇に片手を当てたら、ぞっと背筋が凍った。


許せない…。



「カンナ!!」



ん……?


ヒナタの…声。


キョロキョロ辺りを見回すと、あたしの頭上から、ふわっと舞い降りてきたヒナタ。


なんだ…飛んでたのか。


左右は見回せても、

上を見るという習慣はさすがにないな。



「お帰り…どこに行ってたの?」



「あぁ…ちょっとそこの森をプラプラ散歩…」



「そこの森?」



「うん…あそこ…」



クルっと振り返ってあたしが指さした森を見上げたヒナタは、目を丸くしながら改めてあたしを凝視してくる。



「駄目だよ!!あの森に入ったら!!」



「えっ?」



まるで、いたずらをした

子供をしかるかのように、


いきなり思いっきり大声で怒鳴られたあたしは、


びっくりしてシュンと肩を落とした。


でも、ヒナタがそんなに

血相変えて怒るってことは

やっぱり危険な森だったのかな…。


「あまりいい噂がないんだよ?…あの森は…」



「もしかして、変質者が出る…とか?」



さっきのキス男を思い出してそう言うと


“変質者のほうがまだいいかも”


そう呟いたヒナタは、あたしの目の前で両手をフワフワとふら付かせた。



「なにそれ…」



「幽霊よ…」



「えっ?」



「あの森には成仏(じょうぶつ)できない白虎族の霊がたくさんいるらしいの」



白虎族の…霊?


霊って…。


あまりに非現実的な返答に思わず口がポカーンと開いてしまった。


いや、霊を見てしまうより、無理やり知らない男にキスされる方が、数倍嫌だな…あたしは…。


でもこの世界にも幽霊だとかの話は存在するのね。


ん?だけど…。

その霊は、白虎族限定なの?


それに、成仏できないって…どして?


“この辺りは白虎の城跡だ…調べる必要がある”


あぁ…そうだ…


そういえば、あの怪しい人たちが言っていた会話…。


もしかしてその霊と、白虎の城跡と関係があるのだろうか…。



「ねぇ…あの森は白虎の城跡なんでしょ?」



「そうよ…」



「じゃぁ…今は、白虎の城はどこにあるの?」



そう聞くと、少し悲しげな表情でじっとあたしを見つめてきたヒナタは、無言のまま首を横に振った。



「ないのよ」



「えっ?ない?」



「そう、今、白虎には城がないの」



その言葉の意味がわからなくて、思わず眉間にシワがよった。


それに、少しはこの世界に興味でもわいてきたのだろうか、


あたしはヒナタの話がとても興味深くて、引き寄せられるかのように夢中になりながら、いつの間にか質問を繰り返していた。



「城がないなら、白虎の王は何処に住んでるの?」



「白虎は、王もいないのよ」


城がない上に、王もいない?


なんだかよくわからなくなってきたな。



「どういうこと?」



「まぁ、続きは帰りながらゆっくり話してあげるわよ。おじいちゃんも心配してるからとりあえず帰ろう」



「…うん」



家までの帰り道。


ヒナタは、白虎族について詳しく話しをしてくれた。


ヒナタの話によれば、


15年ほど前、青龍の中で内戦があったらしい。


それは、王権争い。


皇帝の座を懸けて争ったのは、

兄である青龍の皇太子と、弟の王子。


結局、戦いは数ヶ月ともたたず決着がつき、


兄弟の、みにくい争いの結果、政権を握ったのは、今、現在も皇帝の地位に

納まっている弟の王子の方だった。


戦いは兄が倒されたことで終止符を打ったと思われたが、その後も内戦は続き、


負けた兄の見方をした白虎族は、今の皇帝に滅ぼされてしまったらしい。


だから白虎の王家はそれを機に途絶えてしまった。


あの森には、その時、無念を残して死んでいった白虎の兵士や、白虎王の側近たちの霊が、今でも成仏できないまま、さまよっている…という噂。



「もし、内戦なんかにならなくて、兄の皇太子殿下がそのまま皇帝になっていたら、日本はもう少し変わっていたかも…なんて思ってしまうよね…」



前に、貧富の差が激しいと言っていたヒナタ。


実際、滅ぼされた兄の方が皇帝になっていたとしても、結果は同じだったかもしれない。


だけど、もう一つ選択があったのなら、そちらにかけてみたかったと思うほど、


この世界の日本は貧困だという。



「ただいまぁ!!」



夕方、白虎族の話を聞きながら帰っていたら、すっかり日も暮れて、気温もだいぶ下がっていた。


家に帰ると、温かいお味噌汁を作って待ってくれていたヒナタのおじいちゃん。


わかめと豆腐が入った味噌汁。



「おじいちゃん…ありがとうございます。心配かけてすみません」



用意してくれたお味噌汁を一口、口に含むと、あたしの味覚はハッと懐かしさを覚えた。


このお味噌汁…

おばあちゃんが作る味噌汁に…似てる…。


そう感じた瞬間じわっと涙がこみあげてくる。


あたしは、おばあちゃんの作るお味噌汁を飲むのが毎日の日課だった。


物心ついたころから、

欠かすことなく飲んできた味噌汁。


おばあちゃん…。


手のひらにポタポタと涙がこぼれて止まらない。



「カンナ?どうしたの?」



「ごめん…ね…あたし…」



耐え切れなかった。


すごく恋しくて…。


早くおばあちゃんに


会いたくて…。



「そんなに泣くほど美味しい?これ…」



「うん…凄く美味しいよ…」



両手で涙を拭って、


すべて飲み干したあたしを見ていたおじちゃんは、穏やかに微笑みながら



「探し物は見つかったのかい?」



そうゆっくりと呟いた。


えっ?


探し物?


あたし…何か探しているなんて話ししたっけ。


あたしを見てくる、ホリの深いギョロっとしたその瞳をじっと見つめ返していると、まるで何もかもを見抜かれているような…そんな気がして。



「いえ…まだ…」



正直にそう返答した。



「ヒナタは最高の魔術師だ。魔力でこの子の右にでる者はそうそういないだろう。だから安心してなんでも相談するといい」



おじいちゃんにそう言われて、チラッとヒナタに視線を移すと


彼女は、“まかせて!!”って自分の二の腕を叩いていた。


確かに、ほんのり色黒で、男に張るほどのショートのヘアは、いかにもスポーツができそうで…。


スポーツと魔力がリンクするかと言ったら、怪しいとこだけど…。


それにしてもヒナタに相談…。


でもなんて言えばいいの?


鏡の中に戻りたいから、鏡を探してるって…。


あぁ…今はまだ、信じてもらえる自信がない。


きっと、記憶喪失どころか、ますます頭のおかしい子と同情されてしまいそうで。



「カンナも早く記憶が戻って魔力も復活すればいいわね」



ポンポンと背中を叩いてくれたヒナタに、あたしは小さくうなずいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ