死神さんと七夕と
こんにちは、今日も今日とて手紙配達中の死神です
最近はお天道様が本気出してるですね
太陽がギラギラと照りつけて、地下住まいの自分にはだいぶこたえるんです
それにしても、最近はよその神様たちも暇なんですかね?
つい昨日の話ですが、ぎょっこーじょーてー?とかいう偉いおじいちゃんがオリンポスにいらしたらしいんです
そのおじいちゃん、なんでも絹の街道の果てにある国の主神らしく、いまだに民衆からの信仰が続いているそうです
なんか羨ましいですね…じゃなくて
どうやら信仰はされても実務が無いらしく、今はあちこちを旅して見聞を広めているそうです
もうヨボヨボなのに、すっごい向上心ですよね
今日はオリンポス十二神の神様達と会談を行うそうです
で、警備の関係上の問題だとかで、12神の皆様と最低限の神員以外は、オリンポス宮からの一時退去が求められたそうです
そんなわけで、ペルセフォネ様はどこかにお出かけしていらっしゃるそうです
どんだけ物騒なんですか、こちとら仕事の邪魔されてイライラです
………仕方ねーです、さっさとペルセフォネに手紙を渡して休んどくです
自分は今、オリンポス宮の会議堂にいるです…
お手紙を渡した後、適当に時間を潰そうとブローシャ姐さんのお店に行こうとしたら、アレス様に追っかけられたです
逃げたけど、戦車相手に徒歩じゃ逃げられるわけ無いです
どうしてこうなったですか…
「ほうほう、彼が噂の手紙配達の神ですかな?」
いや、手紙配達の神じゃ無いです、死神です、これでも
「ええ、冥府の底から天上までをその日のうちに往復できる、まさしく俊足の配達神です」
ゼウス様なに言っちゃってるんですか?自分、ヘルメス様のところに転職した覚え無いですよ?!
「ふむ、ゼウス殿がそこまで信頼しておられるならば、彼に任せても大丈夫そうですな」
えー…なんだか嫌な予感がするです
具体的には例の色ボケ親父に手紙配達を命じられた時と同じような雰囲気…?
いやいやまさか、冥府と天上は命令系統違うし、命令されるなんてことがあるはずないです
「死神よ、この方はチャイナという、絹の街道の先にある国の主神、玉皇上帝殿だ。今日はお前に頼みたいことがあるそうでな、アレスにお前を迎えに行かせたのだ」
迎えに、というよりほとんど拉致だったです
もはや荷物扱いだったです
慰謝料を要求したいくらいです、無理ですけど
「なに、頼みたいのは簡単なことじゃ。この手紙をわしの娘に届けてくれればよい」
やっぱりです、面倒ごとです
しかも、手紙配達です
ゼウス様睨まないでください、雷の矢ちらつかせないで下さい、死が死ぬとかシャレにならんです、神代の騒動再びです
「………拒否権無いようですし、運びますです。どちらに運べば良いんです?」
「おお、請けてくれるか、ありがとう!なに、運び先は天の川じゃよ、ここからでもすぐに行けるじゃろう」
「アマノガワ、ですか?…えっと、どこですか?」
「む?天の川は天の川じゃろうに、この時期の空には毎晩光っておるではないか」
「「…???」」
どういうことでしょう?夜に光るってことは、星海のどこかでしょうか?
ゼウス様も困惑顔してらっしゃるので、自分が無知というわけでは内容ですけど…
「話に割り込むようで失礼ですが、玉皇上帝様、もしやアマノガワというのは、星海を流れる大河のことでしょうか?」
「そうそう、その大河じゃ、アテナ嬢!」
「なるほど、ギリシャとチャイナとでは、呼び名が違うのですね…おそらく、こちらで言うミルキーウェイかと思います」
ああ、ミルキーウェイですか!
ヘラクレスさんがヘラ様のお乳を吸った弾みでできたって言うとんでもない大河です!
「なるほどなるほど。おほん、とにかく、この手紙を天の川、みるきいうぇい、じゃったか?その北側の岸におるわしの娘に届けて欲しいのじゃ。無論、礼はしようぞ」
そうして渡されたのは、なんというか、手紙というより木の板を繋げ合わせたナニカにしか見えないです
まあ、届けるだけで良いみたいですし、さっさと行ってきましょう
「…あれ?星海って、自分、自力で行くの無理ですよ?どうしましょう…」
「ああ、その心配はいらんぜ。俺の作った特製投神機でいっきに送ってやるから」
「うむ、頼んだぞ、ヘパイストス。では死神、しっかりと努めを果たして来なさい」
………はい?投神機?えっ、待って、何でアレス様に腕を、ってアテナ様?なんで自分は足まで抱え込まれてるんですか?えっ、ちょっと待ってくだ、あ、わ、ヘパイストス様なんですかそれ、すっごい厳ついっていうか棍棒ですよねそれ?!そして自分はなんですかこれ、球?え、なんでそんなギュウギュウ押し込、って痛い痛い痛い!ちょっ、入らな、入らないですから!明らかに大きさ足りな、あががががっ、まって、それ以上曲がらな、アーーーーッ!!!
・ヘルメス視点
うっわぁ…アレス兄とアテナ姉えげつない…タナちゃんポッキリいってたし
アンブロシアやネクターで不死性持ってるとはいえ、痛いもんは痛いんだからさ
ヘパ兄も、地獄用の拷問器具を流用するとか…いや、効果的にはピッタリだけどさ
タナちゃんが押し込まれた球は「ぶっ飛べ玉」という、中に罪人を押し込んで、棍棒でカッキーン!と吹っ飛ばす拷問器具だ
だいたい背負い袋くらいの大きさの球の中に押し込まれるだけでもかなりの苦痛なのに、棍棒で殴り飛ばされ、内部のトゲで飛んでいる間も痛みを与え続けるという、地獄の拷問器具の肩書きにふさわしいシロモノなんだけど…
たしか、地獄の天井を突き破って、海の底まで飛んだから使わなくなった拷問器具のはずだ
冥府の天井も突き破ったせいで、一時期冥府が大混乱に陥った覚えがある
あ、ヘパ兄が棍棒構えた。3、2、1…
ドゴオオオオオオオンンンン!!!
…うわ、すごい勢いで飛んでった、てかもう見えないや
俺のサンダルが壊れてさえなければなあ…タナちゃん、ごめん
帰ってきたら、地上の美味しいものおごるから、許してね?
識女よ、元気にしておるか?
最近は暑い、体に気をつけなさい
さて、早速だが用件を話そうか
この時期になると、お前は七夕が晴れるかどうか、気が気でないだろう
そうして気を揉ませ続けてもう何百年か、最近わしは、少しお前と彼が不憫に思えてきた
無論、引き離したことは正しいと思っておるからな、そこは間違えんで欲しい
では、なにを不憫に思ったのかというと、雨が降れば年に一度の逢瀬すら叶わないということだ
それでな、今年から天の川の渡し舟をもっと頑丈で、天の川が溢れても渡れるようなものに変えることにした
これなら、毎年必ず会えるだろう
だから、これに感謝し、もっと仕事に励みなさい
最近、仕事が疎かになっているそうではないか
もし仕事が余りにも疎かになるようなら、七夕の逢瀬も禁じねばならないかもしれん
わしも、それではお前が不憫すぎるから、できればそうしたくはない
だから、日々の仕事によりいっそう励むように
父より