偶然
009
なんと、てん杉の一番大きい実も生で食べられることが分かった(ただし、種を除く)。
ふっ、強力分解消化酵素に勝った。
つばさで飛び上がり、ラグビーボールより一回り大きいくらいの実をもぎ取る。これは、四つ割りにして薫製にしている。実を一つ採ると、2〜3日後には次の実がついている。成長早いな。ただ、大きい実ほど、時間はかかるようだ。周囲のてん杉から、まんべんなく採りすぎない程度に収穫している。ぶっちゃけ、一回で薫製にできる量しか採ってない。くさらせたら、もったいないもん。
種もいっしょに薫製にする。そうすると、種も溶けずに保管できることが判ったからだ。薫製ボックスは三段になり、その日収穫した実と種を、薫製済みの種で加工する。大きい種が使えるようになって、途中で追加する必要がなくなった。
小さい種は、手の中で転がしているうちに、丸くなる。おもしろくなって、薫製待ち時間にいくつもつくった。はじいて遊んだりしている。
相変わらず、午後にスコールがくる。雨が降り始めたら、煙を起こす。あとはそのまま、出来上がりを待つ。翌朝、中身を大洞窟に運び入れる。そしてまた収穫。そんな生活サイクルも、できてきた。
時々、雨の中を飛ぶ。雷が、翼をなで上げる感じがして気持ちいいんだ。その都度、体の中がより力強くなっていく気がする。実際、翌日の体長の伸びがいい。・・・あまり大きくしない方がいいとは思うんだけどさ。楽しいんだもん。
ある日、雷雲を堪能して洞窟に戻ろうとしたとき、珍しく草地に入り込む生きものを見た。あり?
でっかい大顎がとってもキュートな、体長2メートルの蟻だ。
てん杉に近寄り実を食べ始めた。次から次に食らいついていく。とうとうてっぺんの一番大きい実に喰らい付き、完食した。うぉう、消化酵素はどうした?
次の木に向かう。全部かじる。次の木に向かう。
・・・きゃぁ〜、ワタシのご飯が〜!!
生存競争、その2ですね。今度も、引き下がれない。今のところ、自分が食べられるものは、てん杉しかないので、確保は必須。
しかし、相手は昆虫。ヘビ以上に「あっち行け」を理解してくれるとは思えない。
となると、たたきつぶすのみ!
ヘビのときとは別の意味で、怖い。
自分とほぼ同体格の昆虫。大顎という派手な武器持ち。さらに、蟻には、噛み付くときに分泌液を相手に注入するやつがいる。蟻に噛まれて腫れるのはその所為だ。ほかに、腹部に「蟻酸」を持っていて、敵にぶっかけて怯ませる。
これまた、ヘタに近寄れないな。
よし、燃やしてしまおう。
「へっ」は、対象にへばりついて、しばらく消えない。ほかの火だと、延焼が怖いし。
四本目の木に向かう前に、小枝をぶつけて、こちらに注意を引きつけた。
うわぁ、あごがギシギシ音を立ててるよ。やる気になったみたい。こちらも、負けるもんかっ。
「力」を込めて火の玉をぶつける。
蟻の全身が炎に包まれた。
ぎしゃぁぁぁぁあ。
全身を振り回して、火を消し飛ばそうとする。雨上がり直後で、草がぬれていたせいか、幸いなことに延焼しない。よかった。体表が黒いので、炭化しているかどうか見分けがつきにくい。動きが小さくなっていき、触覚も含めて動きを止めた。
ぱっと、火が消える。
すぐさま、突進してきた!
なに? 焼け死んだのではなかったのか?!
思わず、両手を前に突き出して。
「こっち来るな!」
蟻ごと空気の固まりを「つかみ」、一気に握りつぶした。
目の前で、蟻だったものが、黒い固まりとなった。
さらに、ぎゅうっと押しつぶす。元の姿とは似ても似つかぬ小さな団子に形を変えた。
空気の固まりを「放す」と、黒い玉が地面に転がった。
もう、動かない。
この蟻を「岩大蟻」と命名。要注意生物に認定した。
相変わらず、この世界、油断も隙もありゃしない。
思わず、って、本当に思いがけないことをしてしまいます。