表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/192

生きるために 4 知恵

008


 火吹きドラゴン覚醒の翌日。


 朝陽が目に眩しいやね。今日もいい天気。


 朝の日課をすませて、再び洞窟にいく。昨日割った実も、半割の枝も、溶けずに残っている。葉はやや乾燥しているが、色あせずにちゃんとあった。木の実は追加しておいて、さらに経過を観察しよう。

 前に岩の下に置いた実は、ちょっとの雨が当たっただけで解けてしまった。野外での加工品は保存が難しい。



 ん? 火を手に入れることができたんだから、「焼いて食べる」ができるよね。焼きリンゴって、甘くておいしいし。酵素はタンパク質からなり、加熱変成することで活性がなくなる。つまり、丸ごと食べても、A OK!


 期待を胸に、森杉から今までよりも大きな実を取ってくる。別の洞窟に持っていって床におき、おもむろにファイアーっ!



 ・・・一発で見事な炭になりました。消し炭ってこういうものなのね。おーあーるぜっと。


 か、火力を調節すればいいよね。


 ということで、もう一つ実を取って来て。慎重に、ファイアァ〜。


 ・・・こんがり黒焦げ。つつけば粉々。おーあーるぜっと。


 「へー」なら、一番小さい火だったよね。せーの、「へっ」


 ・・・火の玉に包まれて、見る間に黒くちいさくなっていく。おーあーるぜっとっ。


 半割にした実も、もっと大きな実を取って来ても、以下同文。私の炎は、触れるもの全部焼き尽くしてしまいましたとさ。


 「火力」までもが、普通じゃない。微調整できない「力」なんて、物騒この上ない。なにより、このままでは、炭焼きご飯ならぬ、炭ご飯オンリーになってしまう。おなかの調子は良くなっても、味的にいただけない。


 自前の火が使えないなら、別の火を使えばいい。たき火だ。


 てん杉の葉と枝を少しずつもってくる。枝の一つに「ひっ」を吐く。燃え尽きる前に、残りの枝と葉をくべる。ああ、火がついた。よかった〜。

 急いで、てん杉の実を取って来て、火にくべる。これでやっとたべられ、る・・・。


 燃えた、燃え尽きた。枝よりも早く、実は炭になって消えた。どういう実なんだ? ゴラァ。


 串焼きなら。


 実を割らずに、細い枝に突き刺した。枝も実も火にかける前に溶け始め、手にかかる前に投げ捨てた先で溶けきった。半分に割った実を、枝に刺して火にかざした。松明のように、実が燃えた。訳分からん。



 だめだ、焼きリンゴのイメージが離れない。どうしても火を通した実を食べてみたい。ほかの加熱方法は、どれだ? 煮リンゴ、鉄板焼き。道具がない。加熱した石の上で間接的に焼くには、適当なサイズの石がない。ちなみに、洞窟の床はどれだけ上で火を焚いても全く熱くならなかった。外の岩も以下同文。使えない。うーあー。芝の上でのたうちながら考えるが、だめだしの連続。


 ふと、川魚の調理方法まで思考が転がったところで思いついた。

 薫製だ。高温の煙でいぶすことによって、加熱殺菌する、あれだ。風味もまして、保存もできる、一石二鳥な加工方法。これならどうだ!


 ・・・えーと、燻煙用の材料が必要だ。煙を出すやつ。手近なところにあるもので、なんか、どれか、どれだ?

 種だ。しばらく実験と称して半割にしまっくった時に、種はそのまま放置していた。取り出した種は、10日ほどはしおれずに残っている。確か、あそことあそことそこと、と、種を集めてくる。両手に二すくい位の量がある。


 まずは、煙が出るかどうかだ。てん杉の葉と枝をまた小洞窟に持ち込む。枝の1本に火をつけ、その上に葉をくべる。葉に火がついたところで、種をばらまく。葉から種に火が移ってくると、煙が立ち上って来た。なぜか、桜の花のような香りがする。くすぶり方も悪くない。一気に燃え尽きずに、ゆらゆらと煙をくゆらせ続けている。・・・やったーっ!


 次は薫製箱だ。それこそ、ログハウスもどきを作って、丸ごと薫製室にしてしまえばいい。しかし、まだ、燻煙材としての種の量が少ない。実験なので、枝を使ったログボックスというべきものを作って、容量を小さくすればいいだろう。


 ほぼ同じ太さの枝を選んで、もぎ取ってくる。葉をちぎり取り長さをそろえる。

 洞窟内の場所を決めて、枝をくみ上げていく。

 自分の爪で枝の一部をえぐることで、枝を積むとき壁となる部分に隙間ができないようにした。最初は、力加減ができずに切り落としたりしたけど。

 四面のうちの一面には、途中で燻煙材を追加するための穴を下にあけておく。ある程度の高さで床を作り、さらに壁を積み上げていく。天井部分から中身を出し入れすることにした。



 結局、燻煙ボックスが出来上がるまでに3日掛かった。枝の加工に時間がかかったのだ。その間にも、実を割って、種を集めることも忘れない。

 その間、実の大きさごとの食べ比べもした。今のところ、自分の手のひらサイズまで食べられることがわかった。種も、大きければ大きいほど煙が長持ちしている。このサイズを使って薫製することにした。


 ボックスに使った枝は生木だ。枯れさせている時間が待てなかった。燻煙している間に乾燥して歪むかもしれない。それも含めて、実験だー。



 ボックス内に、半割の実を並べていく。天井を塞いで重し代わりの枝を追加でのせておく。火を起こし、種から煙が出始めたところで、ボックスの下に押し込む。ボックスの壁に火が移らないよう、慎重に種をくべる。


 煙の量をみて、何度か種を追加する。


 今夜は徹夜かな?


 桜の香りが安定してきた。ボックスに使っている枝にも煙が浸透してきた為だろう。途中で実を取り出して、試食を繰り返す。食感は、生食だと西洋梨、途中はリンゴ、それから干しイチジク、最後はかつおぶし。



 ・・・てん杉よ、お前には、もう、何も言うまい。



 その後、数日は、いろいろ工夫を加えつつ薫製作業に没頭した。

主人公の食欲が勝つか、謎植物の謎成分が勝つか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ