生きるために 4 知恵
008
火吹きドラゴン覚醒の翌日。
朝陽が目に眩しいやね。今日もいい天気。
朝の日課をすませて、再び洞窟にいく。昨日割った実も、半割の枝も、溶けずに残っている。葉はやや乾燥しているが、色あせずにちゃんとあった。木の実は追加しておいて、さらに経過を観察しよう。
前に岩の下に置いた実は、ちょっとの雨が当たっただけで解けてしまった。野外での加工品は保存が難しい。
ん? 火を手に入れることができたんだから、「焼いて食べる」ができるよね。焼きリンゴって、甘くておいしいし。酵素はタンパク質からなり、加熱変成することで活性がなくなる。つまり、丸ごと食べても、A OK!
期待を胸に、森杉から今までよりも大きな実を取ってくる。別の洞窟に持っていって床におき、おもむろにファイアーっ!
・・・一発で見事な炭になりました。消し炭ってこういうものなのね。おーあーるぜっと。
か、火力を調節すればいいよね。
ということで、もう一つ実を取って来て。慎重に、ファイアァ〜。
・・・こんがり黒焦げ。つつけば粉々。おーあーるぜっと。
「へー」なら、一番小さい火だったよね。せーの、「へっ」
・・・火の玉に包まれて、見る間に黒くちいさくなっていく。おーあーるぜっとっ。
半割にした実も、もっと大きな実を取って来ても、以下同文。私の炎は、触れるもの全部焼き尽くしてしまいましたとさ。
「火力」までもが、普通じゃない。微調整できない「力」なんて、物騒この上ない。なにより、このままでは、炭焼きご飯ならぬ、炭ご飯オンリーになってしまう。おなかの調子は良くなっても、味的にいただけない。
自前の火が使えないなら、別の火を使えばいい。たき火だ。
てん杉の葉と枝を少しずつもってくる。枝の一つに「ひっ」を吐く。燃え尽きる前に、残りの枝と葉をくべる。ああ、火がついた。よかった〜。
急いで、てん杉の実を取って来て、火にくべる。これでやっとたべられ、る・・・。
燃えた、燃え尽きた。枝よりも早く、実は炭になって消えた。どういう実なんだ? ゴラァ。
串焼きなら。
実を割らずに、細い枝に突き刺した。枝も実も火にかける前に溶け始め、手にかかる前に投げ捨てた先で溶けきった。半分に割った実を、枝に刺して火にかざした。松明のように、実が燃えた。訳分からん。
だめだ、焼きリンゴのイメージが離れない。どうしても火を通した実を食べてみたい。ほかの加熱方法は、どれだ? 煮リンゴ、鉄板焼き。道具がない。加熱した石の上で間接的に焼くには、適当なサイズの石がない。ちなみに、洞窟の床はどれだけ上で火を焚いても全く熱くならなかった。外の岩も以下同文。使えない。うーあー。芝の上でのたうちながら考えるが、だめだしの連続。
ふと、川魚の調理方法まで思考が転がったところで思いついた。
薫製だ。高温の煙でいぶすことによって、加熱殺菌する、あれだ。風味もまして、保存もできる、一石二鳥な加工方法。これならどうだ!
・・・えーと、燻煙用の材料が必要だ。煙を出すやつ。手近なところにあるもので、なんか、どれか、どれだ?
種だ。しばらく実験と称して半割にしまっくった時に、種はそのまま放置していた。取り出した種は、10日ほどはしおれずに残っている。確か、あそことあそことそこと、と、種を集めてくる。両手に二すくい位の量がある。
まずは、煙が出るかどうかだ。てん杉の葉と枝をまた小洞窟に持ち込む。枝の1本に火をつけ、その上に葉をくべる。葉に火がついたところで、種をばらまく。葉から種に火が移ってくると、煙が立ち上って来た。なぜか、桜の花のような香りがする。くすぶり方も悪くない。一気に燃え尽きずに、ゆらゆらと煙をくゆらせ続けている。・・・やったーっ!
次は薫製箱だ。それこそ、ログハウスもどきを作って、丸ごと薫製室にしてしまえばいい。しかし、まだ、燻煙材としての種の量が少ない。実験なので、枝を使ったログボックスというべきものを作って、容量を小さくすればいいだろう。
ほぼ同じ太さの枝を選んで、もぎ取ってくる。葉をちぎり取り長さをそろえる。
洞窟内の場所を決めて、枝をくみ上げていく。
自分の爪で枝の一部をえぐることで、枝を積むとき壁となる部分に隙間ができないようにした。最初は、力加減ができずに切り落としたりしたけど。
四面のうちの一面には、途中で燻煙材を追加するための穴を下にあけておく。ある程度の高さで床を作り、さらに壁を積み上げていく。天井部分から中身を出し入れすることにした。
結局、燻煙ボックスが出来上がるまでに3日掛かった。枝の加工に時間がかかったのだ。その間にも、実を割って、種を集めることも忘れない。
その間、実の大きさごとの食べ比べもした。今のところ、自分の手のひらサイズまで食べられることがわかった。種も、大きければ大きいほど煙が長持ちしている。このサイズを使って薫製することにした。
ボックスに使った枝は生木だ。枯れさせている時間が待てなかった。燻煙している間に乾燥して歪むかもしれない。それも含めて、実験だー。
ボックス内に、半割の実を並べていく。天井を塞いで重し代わりの枝を追加でのせておく。火を起こし、種から煙が出始めたところで、ボックスの下に押し込む。ボックスの壁に火が移らないよう、慎重に種をくべる。
煙の量をみて、何度か種を追加する。
今夜は徹夜かな?
桜の香りが安定してきた。ボックスに使っている枝にも煙が浸透してきた為だろう。途中で実を取り出して、試食を繰り返す。食感は、生食だと西洋梨、途中はリンゴ、それから干しイチジク、最後はかつおぶし。
・・・てん杉よ、お前には、もう、何も言うまい。
その後、数日は、いろいろ工夫を加えつつ薫製作業に没頭した。
主人公の食欲が勝つか、謎植物の謎成分が勝つか?