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お土産

216


 這々の体で、森に逃げ帰った。

 なお、次にくるのは二月後だと言ってある。これからしばらくは、ロックアント退治のシーズンだから。とまでは、教えていない。


 [魔天]領域内をくまなく探索し、十匹以上の群を殲滅していく。自分がロックアントを狩り始めたころと比べて、群の数はそう多くない。ただ、南部では群を構成している個体数も変異体の数も多かった。

 何が違うんだろう? 植生の構成は確かに場所によってずいぶんと異なるが、それだけとも言えないような。


 蟻退治の合間に、いつもの保存食やら何やらを作る。エルダートレントの薫製果実は、街での滞在が長期に及んだ時の魔力補充用として、いつもより多めに作った。ついつい、つまんでしまうので、気がつくとなくなっている。ばりばり魔力を出していて、街中で食すには障りがあるが、背に腹は代えらない。

 前に作ったドリアードの根の煮汁は、水晶くずから成型したガラス瓶に小分けにしていく。普通の人がひっくり返る魔力量でも、自分にはスポーツドリンクみたいなものだ。

 全部、便利ポーチにいれておけば、魔力は感知されない。だから、問題ない。


 ・・・いいの! 多少頑丈でも、魔力のあれこれが変わっていても! 中身が人間なの! ばれなきゃいいのよ、ばれなきゃ。


 ヘビの内臓酒とか蜂蜜酒も、出来上がっているものを瓶詰めしていく。


 この世界に缶はない。ロックアントで作った一斗缶も、本来あり得ない。なので、人前に出すなら瓶。これは、昔からあるらしい。ソーダガラスで、きっちりリサイクルされている。自分が作ったのは石英ガラス製。耐久性がちょっと違う。水晶と同じく魔力を通さない。

 ・・・魔力を使って加工しているのに、完成すると魔力を通さないとは、これいかに? この世界のルールは、未だによくわからない。


 それはさておき。


 以前、山脈を探索している時に、ジャガイモもどきを見つけていた。というより、そのもの。ただ、芋のままでは便利ポーチに保管できなかったので、厚めにスライスし、ゆでてから保管する。薫製肉とソテーにすると美味。


 残った皮とゆで汁から、なんとアルコールができた。蒸留して、度数を上げておく。

 まーてん周辺では、結構大きなヘビが捕れる。肉はその場で焼き肉および薫製に、皮は加工用に鞣し、内臓を蒸留酒に漬けてみた。

 骨はさすがに太すぎたので、つけ込みは諦めた。匂いが気になるので、エルダートレントやトレントの根で薫製にしたあと、術弾の実験台にした。使えなくはないが、指弾にするにはもろかった。ので、単なる結界用術具になった。ちなみに、殿下に持たせた弾はコレ。種弾同様、術一回で崩壊する。


 だから! それはおいといて!


 ヘビの内臓は、かなりの魔力を含んでいた。すべての、ではないが、まーてんの草地に侵入してきたヘビは、全部。それを漬け込んだ酒も、魔力たっぷり。

 ヘビの生肉の魔力量ははごく低量で、薫製にしたらそれなりに増量。人が食べられるのは生肉までだね。・・・土産にならんがな。あ、蒲焼きにするか。おぼっちゃま殿下にも好評だったし。しかし、今は焼き締めしている暇がない。ぐぬぬ。


 ロックビーの蜂蜜は魔力を含まない。それで作った蜂蜜酒も魔力はない。


 魔力なしのヘビ酒と蜂蜜酒を、カモフラージュに用意すればいいだろう。で、自分はものごっつい方のヘビ酒をいただく、と。


 滞在準備は、ほぼ終了。


 あとは、[学園]への賄賂。は、まずいよねぇ。学園長さんへのお土産ぐらいなら、どうだろう。なにがいいのかな? 珍しすぎるのはだめだし。それとも、使い道のないお金を寄付金にする?


 あれこれ考えつつ、ロックアントをひっ捕まえていく。さすがに、筋力を最低限に押さえた状態では急所を打ち抜けない。爆散させない程度に解放して、びしばし蟻弾を打ちまくる。あるいは、黒棒の一旋で首を狩る。


 [魔天]領域外の周辺部で、はぐれロックアントを見かけなくなったらシーズンの終わり。

 今期仕留めたロックアントの解体処理なども、すべて完了した。


 では、まーてん、行ってきます!



 ローデンの街は、いつも通りにぎやかだった。まずは、ギルドハウスに向かう。


「で? お嬢よう」


「なんです? 気味の悪い声を出して」


「あるんだろ? あるよな。売ってくれるよな?」


 あ、あれか。覚えてたんだ〜。解体しただけのものを残しておいたが、正解だったか。


「いくらで買います?」


「お嬢のことだから、解体済みだよな。おい、買取班呼んでくれ。俺は「ちょ〜っと待った〜っ!」・・・」


 団長さんが駆け込んできた。どこで聞きつけてきたんだ?


「うるせえ。うちの商売の話だ!」

「そうはいかん! 騎士団の安全にも関わる話だ。去年のようにぼったくられては予算に響く!」

「知るか!」


 うわぁ、そんなに吹っかけたんだ〜。


 いつのまにか、そばに来ていたトリーロさんに、ロックアント素材の街中での流通状況を聞く。

 ローデンに持ち込まれるロックアントの買取先は、主に騎士団だが、一部ハンターや海岸沿いの街からの注文もあるとかで、それなりに需要はある、とのこと。かといって、自分のようにほいほい取って来れるハンターも居らず。結果、どうしても高値になってしまう、というわけだ。


 うーん、安すぎれば、他のハンターの食い扶持をかっさらってしまうことになるし、あるだけ出せば価格崩壊だし。


 ん?


「お嬢!」

「賢者殿!」

「「どっちに売ってくれる?」んだ?」


「両方」


「「「!」」」


 トリーロさんも含めた三人が絶句。自分が何か言うたびに、周りが絶句しているような気がする。・・・気のせいだ! 気にしない! そうしよう。


「双方、どれくらい必要なんです?」


 三人で頭を寄せ合って、相談を始めた。あ、解体担当や会計からも人が飛んできた。


「去年購入したのが七匹分で、せめてそれくらいは・・・」

「予約っていうか、売ってくれって言ってきているのが・・・」

「ギルドの予算で購入できる分は・・・」


 などなど。


「話がついたら連絡してくださいな。配達しますから」


 終わりそうにないので、宿に行くことにする。


 [森の子馬亭]で、「ただいま」のご挨拶。


 こっちには殿下が来ていた。情報通にしても早すぎないか?


「いえ、賢者殿の立回先に「お願い」をしているだけですよ?」


 そういう手があったか! いや、そうじゃなくて!


「今日は、なにごとです?」


「実は・・・」


 何なのよ、そのもったいぶった言い方は。また、めんどくさい話?


「賢者殿の竪琴が聞きたくておじゃましました」


 おもわず、まじまじと殿下の顔を見る。みてしまう。


「それが理由?」


「はい、それがなにか?」


 あくまでもにこやかにお返事する殿下。


「〜〜〜アンゼリカさ〜ん!」


「あら、何かお願い?」


 夕食を運んできたアンゼリカさんに、確認する。


「ちがいます!

 自分の腕は、人に聞かせるほどのものでもないし、まして、殿下ならいくらでも一流の演奏家を頼めますよね?」


「女将さんに、さんざん自慢されてしまいまして。王宮ではなく、こちらでお聞きした方がより楽しめるとも言われれば、これはもう、是非おねだりしたいと」


 うがぁ! おねだり、と来ましたか。


 さらに、耳を寄せて小声で言ってくる。


「女官長から、賢者様となら他人に気づかれずに内緒話ができる、と聞いてきました」


 厄介ごと込み、ですか!


「〜〜〜では、食後に」


「夕食もご一緒できるとは、うれしいことです」


「こちらの食堂はよくご利用になるのですか?」


「いえ、最近のことですね。もっと、早くに知っていれば女将さんの自慢料理をもっと楽しめたのに、と残念に思っているところです」

「あら、これからもご贔屓にしていただけるよう、腕を磨いておきますわ」

「それはそれは。うれしいですね」

「こちらこそ」


 ふふふ、おほほ、と笑い声が飛び交う。この二人の会話は心臓に悪いわ。それより殿下、王族が一般食堂で堂々と夕飯、って有りなんですか?

 #######


 術弾 その三

 材料は、大蛇の骨。指弾に使うにはもろすぎるので、固定結界に使用。一回の発動で消滅する。

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