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一難去って

108


 ようやく、街門に到着した。


 ここで、「ハイお疲れさまでした。さようなら。」が出来ればよかった。が、見逃してもらえなかった。お兄さんが 門番の一人に声をかける。


「ご苦労。街に入れてもらえるか?」


 門番さんが自分に質問した。


「あなたは、身分証は持っていますか?」


「いえ」


 正直に答える。


「では、こちらの部屋に来てください」


「俺たちは身分証を持っている。同行者ということで、手続きを省略できないか?」


「すみません、規則ですので。手続き中、どうしますか?」


「別室があればそこで待たせてもらいたい」


「案内します」


 おぼっちゃまは間近に見たサイクロプスに興奮しすぎたせいか、今は眠っている。控え室まで抱えて連れて行ったあと、手続きをする部屋に案内してもらった。


「お名前から」


「アルファです。十六歳。森で迷った人を案内して来ました」


「何か仕事はしてますか?」


「森で猟師をしています」


「ギルドの身分証明書はお持ちではない?」


「始めて街に来たので、ギルドに行ったことも登録したこともありません」


「・・・え?」


「ほかの街にも行ったことがないんです。なので、登録のしようもないと・・・」


「今までどこに住んでいたんですか?」


「森の中」


「・・・まさ、か、[魔天]の森?」


 ローデンに一番近い森はそこしかない。


「生まれてから、ずっと、です。なにか、問題でも?」


「あ、いえ、なにも、ええ」


「そうだ、街に入る為の税金とかは必要ですか?」


「それは、必要ありません」


「手持ちの現金がないので、何か売る必要があるかな? と」


「その場合は、商工会で許可証を発行してもらう必要がありますね。ただ、許可が出るまでに時間がかかります」


「露店とか物々交換でも?」


「はい」


 ま、家の前まで連れて行くだけなら、今日のうちに街から出られるだろう。街に来られることがわかっただけでも、収穫だ。あれもこれも済ませる必要はない。自分の手持ちで「問題なく」売れる物があるか、調べておけばいい。


「あと、武器は持ってますか? 身分証を持っていない人は、ここで申請した以外の武器を持っていると罰せられます」


「それって、町中で買うこともダメなんですか?」


「そうです。購入時に身分証を持っていない人には販売できない規則になっています」


 武器、ねぇ。


 蟻弾、種弾、水晶弾、「変なナイフ」、脱皮殻製ナイフを取り出し、机の上に並べる。


「あと、手甲、脚甲つけてます。それと、同行者の一人に2メルテ長の棒を貸しています」


 手甲、脚甲は、なめし革で偽装しているが、実態はアレだ。


 門番さんが、変な顔をしている。


「ナイフ二本はわかりますが、この粒はなんですか?」


「指弾、指で弾いて使います。弾の素材ごとに威力が違うので、使い分けています」


 指弾を知らない人もいるんだ。へぇ。


「それに、棒、ですか? それらを使って、森で狩りをしていた、と・・・」


「そうです」


 本当に猟師なのか疑問に思ってるのだろう。弓でもない、剣も持たない、猟師らしからぬ装備、と言えなくもないし。


「そうだ、[魔天]に入れるからには、魔術も使えますか?」


「多少は」


「街中で、魔術を使うときは気を付けてください。決められた場所以外で、殺傷能力の高い魔術とか建物を破壊するような規模の魔術を使うと、処罰されますから」


 当然だね。


「はい、教えていただき、ありがとうございます」


「では、この滞在許可証をなくさずに持っていてください。身分証の代わりになります。ですが、さきほどもいったように、武器の購入は出来ません」


「わかりました」


「以上です。では、ようこそ、ローデンへ」


 お兄さんのいる控え室まで、また案内してもらった。親切な人だな。うれしい。


「お兄さん、手続き終わりました」


「そうか。・・・すまなかった」


 なにが?


「恩人だというのに、取り調べのようなことを受けさせてしまった」


「街の安全を守る為の手続きでしょ? 例外を作ったりしちゃいけません。たとえ、どんな身分の人でも、ね?」


「そうか、そうだな」


「それより、早く送ってっちゃいますから、道案内してください」


 門の脇の警備室もどきから、街に入った。


 石畳が敷き詰められた大通りは、まっすぐに延びている。自分の目には、もう一つの街門が見える。門の向こうは、さらに次の街へ続いているのだろう。


 通りの左右には、たくさんの露店が並んでいる。料理、飲み物、武器、防具、のほか、野菜や肉などの食料、色様々な生地を使った衣類、自分も作ったことがある大小の籠、などなど、色々な物が売られている。

 その背後には、建物が並んでいる。露店ではない商店や旅籠のようだ。


 物、気配、匂い、色・・・。


 人の住む街。


 随分前に空から小さく見かけただけの、手の届かないところにあると思っていた場所。

 こんな形で来ることになるとは思ってもいなかった。


 一瞬、足が止まる。


「ん? どうかしたのか?」


「・・・いえ、とっても賑やかなので驚いただけです。いきましょ」


「そうか。それに、そろそろ昼食時だしな。早く行こうか」


 いや、ご飯はどうでもいい。何たって、お金がない。稼ぐ手段も否定されたし。

 無銭飲食はだめ。だめったらだめ。だから、この強烈な誘惑に惑わされないためには。

 おぼっちゃまが目を覚ます前に放り出して、さっさと森に帰ろう。


 大通りを歩いていく。街の中央部辺りまで来て左に曲がった。そこも大きな通りになっていて、正面に大きな城が建っている。

 ・・・城!? イイエ、アレハ、オオキナ掘建テ小屋・・・。


 閉じられていた正門の前で右に曲がる。城壁添いに進み、ある小さな門の戸を叩く。守衛らしき騎士が顔を出した。


「・・・ただいま、戻りました」


 お兄さんが、頭を下げた。自分が背負っているおぼっちゃまの顔を見るなり、


「伝令! 急げ! お前達は早く中へ!!」


 あぁ、一緒に引きずり込まれてしまった。


 門の脇の小屋に入った。中の一室で、そこにいた騎士の一人におぼっちゃまを預ける。ほどなく、貫禄のある女性が現れた。多分地位の高い女官なのだろう。しかし、、自分と同じようにおぼっちゃまを小脇に抱える。部屋を出る前に、自分に一礼して出ていった。


「ではこれで「貴殿には大変世話になったようだ。申し訳ないが、是非詳しい話をお聞きしたい!」・・・」


 〜〜〜逃げそびれた!

 迫力あるおじさんが待ち構えていた。出来るだけ、簡単に説明する。


「森で迷子になっていた時に会って、案内を頼まれただけです。それじゃこれで「それはかたじけない! お礼というほどでもないが、しばし休憩して頂きたい!」・・・」


 お礼なぞ、要らんといってるのに。そこに、追撃が来た。


「まだ、謝礼も渡していない。先ほど大型魔獣と一当てした疲れもあるだろう。是非、休んでいってくれ」


「なんと! サイクロプス退治にも貢献していただいたのか! 尚更! 是非とも!」


 濃ゆい顔したおじさんが、どアップで迫ってくる。わかった、わかりましたから!


「そこまでおっしゃるのでしたら、しばらくお世話になります」


「そうかそうか! 部屋の用意ができるまで、お話しさせていただいてもよろしいか!」


 暑苦しいひとだなぁ。


「その前に、怪我人と病人もいるので、その方達の手配も〜〜〜「お気遣い、かたじけない!」」


 もうちょっと、落ち着いて話できないものかな? 妄想男は、同じようなローブを着た人達に保護されていった。メイドさんも、同僚に支えられて席を外した。黒棒は持ったままだったが、まあいいか。ほかにもあるし。


 暑いおじさんは、なんと騎士団長さんだった。


 お兄さんは、おぼっちゃまと妄想男とメイドさんが城から出るところを見かけてあわてて追いかけたそうだ。装備が不足していたわけだ。そのとき、団長さん宛てに伝言を残していったが、ことがことだけに騒ぎを大きくするわけにいかず、少人数で探しまわるしかなかったとか。


 お茶をもらって、サイクロプスを倒したときの話を根掘り葉掘り聞かれた。話の流れで、うっかりロックアントに襲われたことも話してしまった。団長さんはお兄さんに対して「うかつ」だの、「鍛錬が足りない!」だの、と怒っていた。一応、妄想男の余計なちょっかいがなければ何とかなったはずだ、とフォローはしておいた。


「手合わせして欲しい!」なんてことも言われた。対人戦は経験がないので、と断ろうとしたが、「ならば、尚更、是非!」と強引に引き受けさせられた。本当に押しの強い人だ。まあ、師匠以来とあって、自分もちょっと期待してたりする。


 そのうちに、執事さんがやってきて、部屋に案内するというので付いていった。


 そして、案内された先は。


 紛うこと無き「牢屋」だった。


 ・・・あれぇ?

 #######


 主人公の主装備紹介(今後の変更もあり)


# 蟻弾(010話ほか)

 一見、小さな鉄球。鉄よりも硬く、軽い。サイズは三種類。魔獣や動物相手の狩猟用。


# 種弾(021話、034話)

 蟻弾より大きい。魔術の補助道具。『漢字』を刻み入れ、術の質と効果を設定してある。術式が完了すると種弾は消滅する。術式一つに対し収納カード一つを使用。


# 水晶弾

 蟻弾より大きめ。対人用。本当は、ビー玉とかネックレスの球にするつもりだった。ハンターと会うようになってから、用途を変更。蟻弾と同じ大きさでも水晶弾の方が重い。妄想男を気絶させたのもこれ。


# 黒棒

 総ロックアント製。メイドさんに貸し出したもの(105話)の他に、片端に水晶球を固定したもの(対人制圧用)と、種弾をセットできるようにしたもの(術杖)、の合計三種類がある。ロックアント以外の棒もある。


# 変なナイフ(027話)

 生き物は切れない片刃ナイフ。ロックアント製。刃渡り三十センテ(センチメートル)。全体が黒色。鞘もロックアント製。収納カードに腐るほど保管してある。


# 脱皮殻製ナイフ(012話、024話、034話)

 とっても良く切れる片刃ナイフ。刃渡り十八センテ。全体がつや消しの黒あるいは鈍色。今使っているのは三回目の脱皮殻で作ったもの。残り二本は便利ポーチに保管中。


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