サイクロプス 2
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このメンバーの中に、動物ホイホイでもいるのか? それとも日頃の行いが悪いのか?
「・・・今回も、乗せられてあげます。ただし、手伝ってくださいよ?」
「おう!」
マッシュさん、なに喜んでるんですか。
「俺にも手伝えることは「あります」」
ウォーゼンさんに、きっぱりと答える。
「病人と怪我人が無茶しないように。あと、おぼっちゃまを取っ捕まえておいてください。邪魔です」
病人改め、あの妄想の入った魔術師を野放しにしておいたら、下手すれば背後から撃たれかねない。また、薄ら笑い浮かべてモゴモゴ言い始めてるし。もう一度、気絶させておこう。
おぼっちゃまは言わずもがな。
「〜〜〜わかった」
素直でよろしい。
その後、マッシュさんに手順を説明する。
「いいですか? 絶対に「強く」攻撃しない」
「それだけでいいのか?」
「下手に暴れさせると、こっちの攻撃がやりにくいので」
「魔術師連中にもそういっとけばいいんだな?」
「サイクロプスが体の向きを変えたら、仕掛けます」
「いつものやつで、殺らないのか?」
「大きさを聞いた限りでは、効かなさそう」
「もう一つ、棒があったろうが」
「現在、怪我人に貸出中で〜す」
「・・・だからって、「それ」はないんじゃ・・・」
そう、話をしながら作っていたのは、竹槍。大人の両手で軽く握れるほどの太さ。街道脇に生えていたそれを、何本も刈り取ってきて加工していたのだ。普通の人なら、これで大型種を仕留めるのは無理だという。でも、自分は使っちゃうもんね。
葉を落とし、片端を斜めに切った二メルテほどの竹を両脇に抱えて、出来るだけ静かに移動する。
見えた。確かに大きい。前脚の爪をついて、ゆっくりと街に向かっている。
サイクロプス左側の薮の前に位置を取る。
マッシュさんには、攻撃中の人に伝言を頼んだ。ついでに、弓でもってサイクロプスの気を引いてもらう。
魔術師らしき人たちも、ぽちぽちと火の玉を投げつけ始める。ちょいちょいと顔面をひっぱたくような感じで、攻撃している。
よし。その調子。
側面から攻撃することで、体の向きが街から右に逸れた。自分はサイクロプスの背後にいる形になる。
うっとうしくなったのか、威嚇のポーズをとる。二本足で立ち上がり、両手の爪を振り上げる。
今だ!
「助成しまーす!」
一応、攻撃中の人に一声かけておく。この後も、攻撃を続けられると、自分に当たっちゃうから。
まずは、数本を高く投げ上げる。
続けて、サイクロプスの膝裏めがけて、竹槍連続水平シュート!
名付けて「ひざカックン作戦」!
『空気』をまとわりつかせた竹は、鋼鉄の強度を持った槍となって、膝裏を強襲した。
並の素材に術を乗せると、自分の魔力に負けて投げる前に木っ端微塵になるが、今回は竹を『空気槍』の芯にしただけなので、なんとか持っている。
何より、不特定多数がいる前で、「見えない槍」の投擲など見せたりしたら、別の意味で大騒ぎになる。竹を使ったのは一種のカモフラージュ。
膝関節を破壊され、踏ん張りがきかなくなったサイクロプスは、前のめりになり両手を地面についた。
むこうずねが地に着くタイミングで、第一投が上空から下肢を串刺しにする。投擲コースは計算通り。これも『空気』で強化してあるので、さっくり突き刺さる。
サイクロプスは、後脚を地面に縫い付けられて前進できない。前足での攻撃も封じられた。
ぎよぉぉぉぉお!
悲鳴を上げるサイクロプスの背中を駆け上がる。
そのまま、首根っこまで登る。頭骨と頸骨の関節を狙って踏み込み、骨と脊髄を一気に蹴り壊す。
サイクロプスは、一瞬、体を震わせ、そのまま地に伏した。
一丁上がり♪
うおぉぉぉぉぉぉ!
頭が落ちた先にいた集団から、野太い歓声が上がった。なんだなんだ!
一応、代表っぽく見える人のところに飛び降りた。
「えーと、こちらの代表の方はどなたですか〜?」
あ、横から体当たりされてはじき飛ばされた。
「アル坊! さっすがだ! すげえぞ!!」
あらぁ
「ガレンさんまで、引っ張り出されてましたか」
「昨日のうちに発見されててな。ギルドの強制依頼で騎士団と共同で当たることになってたんだが。一蹴りで落とすとは、さすが「密林の野生児」!」
・・・乙女に向かって、なんて通り名を付けるんだ、この人わ!
「・・・それより、先を急ぐんで責任者に一言挨拶だけしておこうかと。どなたですか?」
さっき、吹っ飛ばされた人が起きて来た。
「ローゼン騎士団の副団長、ミゼルと言う。討伐協力に感謝する。ついてはぜ「話の途中で済みません! いきなり割り込んでしまいお手数をおかけしました。詳しい話は要りません。連れがちょっと騒がしいのでこれで失礼します! ではっ」」
「逃がすかっ!」
ガレンさんが、立ち塞がった!
本当に、待たせている隊商の方角から、何やら騒いでいる音ががんがん聞こえているんだってば!
「マッシュさんっ。経緯はマッシュさんが知ってますから! 是非そっちに訊いといてくださいな! って、なんで捕縛用の縄なんか持ってるんですか!!」
「サイクロプスぶっ倒した一番の功労者がいないんじゃ、話にならんのだよ。今、話ができないっていうんだったら、後で必ずギルドに顔を出してくれ! 約束できないっていうんだったら、この場でふん縛る!!」
なんなんですか、その理屈! 面倒が泥縄式に増えている、気がする。
「〜〜〜わかりました。今日中は無理でも、近いうちに行きますから! ということで、御免!」
忍者のような捨て台詞を残して、取って返した。
あれ?
騒ぎは騒ぎでも、サイクロプスがあっさり倒されたことに驚いて、の騒ぎだったらしい。・・・なんだ、焦って損した。
「お兄さん、戻りました〜」
自分の顔を見て、ほっとしている。騒ぎに乗じて、逃げ出すと思われたかな?
お世話になっている商人さんも近くにいた。自分が飛び出していって、さほど時間が経ってないのに驚いたらしい。こちらは、ぽかんとしている。
「街道は、通れるようになりましたよ。すぐ、出発しますか?」
声をかけられて、冷静に戻ったようだ。
「いやぁ、凄腕のハンターだったんだねぇ。助かったよ。うん、お連れさんを乗せてくれれば出発できるよ。ほんとうに、すごかったねぇ」
なんか、うんうん言いながら一人で納得している。出発できるなら、いいか。足手まとい三人を馬車に放り込んで、自分とお兄さんは歩き出す。他の隊商の人たちも動き始めた。
途中、倒したサイクロプスの横を通る。
これから解体処理にかかるであろうハンターの中に、知り合いをちらほらと見かけた。というより、声をかけられた。
「ほんとうにアル坊だ!」
「いつみても、かわいいよな!」
「街でいっしょに飯食おうぜ!」
「俺も混ぜろ〜!」
などなど。知らない間に、結構な知り合いができてたようだ。ちょっと嬉しいかも。
「大規模魔法も使ってないのに、どうやって倒したんだ?」
「傷がほとんどないから、高く売れるよな」
「報奨金にボーナス付くかな」
などという話も聞こえる。ん〜、ちょっとうるさくなってきたので、音量を下げる。
お手製の耳飾りは、特製魔道具で、聞こえすぎる聴覚を程よくセーブしてくれる優れもの。無制限、遠、中、近距離の切り替え機能付き、さらに左右で異なる設定使用ができるという。・・・普通の人が使ったら頭おかしくなりそうな代物だ。が、自分がいつか街中にいくときには必要だろう、と作っておいた。聞こえが良すぎるのも問題なのだ。ほんと、作っておいてよかった。
あ、またガレンさんだ。
「アル坊! 欲しい部位はあるか?」
「いいんですか? 高い部位ほどギルドが欲しがるって、前に教えてくれたじゃないですか」
「なに、アル坊がいたからこその、この結果だ。ギルドマスターだって納得するさ」
「自分はメンバーじゃないから、無理は言えないと思いますけど。ただ、もらえるというのなら、爪が欲しいです」
「確かに、それなりだな。だが、俺たちからの推薦ということで話をしておく。ま、期待しないでおいてくれ」
「だめだったら、一杯おごってもらうってことで、よろしく♪」
「おう! じゃ、またあとでな!」
商人さんが、なんか興奮しているぞ?
「あのガレンと知り合いなんですか?! 先ほどの活躍といい、すごいです!!」
感激屋なのかもしれない。
「ガレンさんは、有名なんですか?」
「ローゼン・ギルドのトップハンターの一人ですよ! 知らなかったんですか?!」
それから、ガレンさんの活躍っぷりとかギルドのトップハンターがいかにすごい人たちなのか、延々としゃべっていた。
隣のお兄さんは、うんうん頷きながらこれまた黙って聞いていた。
そんな話を聞きながら歩いているうちに、高い石壁に守られた街門が見えてきた。
もうすぐ、ローゼンの街だ。
地味な(人前)デビュー戦、でした。
主人公は、体力、魔力ともに無双です。自覚があるので、ものすごく自重しています。しかし、いつまで隠しきれるんでしょうか。
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主人公の「竹槍」
第一投には、『空気』で「カマイタチ」効果を付加した。そのため、深く貫くことができた。膝裏を直撃した第二投には、硬さと重さと速さを付加し、物理的な力で関節構造を粉々に打ち砕いた。
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空気槍
【風】術系統に類似の魔術がある。サイクロプスを貫くほどの威力はない。竹槍に「偽装」するような使い方もしない。
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主人公の蹴り
絶妙の力加減で、延髄を粉砕。加減を間違えていたら、頭部が爆散していた。




