表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/192

サイクロプス 2

107


 このメンバーの中に、動物ホイホイでもいるのか? それとも日頃の行いが悪いのか?


「・・・今回も、乗せられてあげます。ただし、手伝ってくださいよ?」


「おう!」


 マッシュさん、なに喜んでるんですか。


「俺にも手伝えることは「あります」」


 ウォーゼンさんに、きっぱりと答える。


「病人と怪我人が無茶しないように。あと、おぼっちゃまを取っ捕まえておいてください。邪魔です」


 病人改め、あの妄想の入った魔術師を野放しにしておいたら、下手すれば背後から撃たれかねない。また、薄ら笑い浮かべてモゴモゴ言い始めてるし。もう一度、気絶させておこう。

 おぼっちゃまは言わずもがな。


「〜〜〜わかった」


 素直でよろしい。


 その後、マッシュさんに手順を説明する。


「いいですか? 絶対に「強く」攻撃しない」


「それだけでいいのか?」

「下手に暴れさせると、こっちの攻撃がやりにくいので」


「魔術師連中にもそういっとけばいいんだな?」

「サイクロプスが体の向きを変えたら、仕掛けます」


「いつものやつで、殺らないのか?」


「大きさを聞いた限りでは、効かなさそう」


「もう一つ、棒があったろうが」


「現在、怪我人に貸出中で〜す」


「・・・だからって、「それ」はないんじゃ・・・」


 そう、話をしながら作っていたのは、竹槍。大人の両手で軽く握れるほどの太さ。街道脇に生えていたそれを、何本も刈り取ってきて加工していたのだ。普通の人なら、これで大型種を仕留めるのは無理だという。でも、自分は使っちゃうもんね。


 葉を落とし、片端を斜めに切った二メルテほどの竹を両脇に抱えて、出来るだけ静かに移動する。

 見えた。確かに大きい。前脚の爪をついて、ゆっくりと街に向かっている。

サイクロプス左側の薮の前に位置を取る。


 マッシュさんには、攻撃中の人に伝言を頼んだ。ついでに、弓でもってサイクロプスの気を引いてもらう。

 魔術師らしき人たちも、ぽちぽちと火の玉を投げつけ始める。ちょいちょいと顔面をひっぱたくような感じで、攻撃している。


 よし。その調子。


 側面から攻撃することで、体の向きが街から右に逸れた。自分はサイクロプスの背後にいる形になる。


 うっとうしくなったのか、威嚇のポーズをとる。二本足で立ち上がり、両手の爪を振り上げる。


 今だ!


「助成しまーす!」


 一応、攻撃中の人に一声かけておく。この後も、攻撃を続けられると、自分に当たっちゃうから。


 まずは、数本を高く投げ上げる。


 続けて、サイクロプスの膝裏めがけて、竹槍連続水平シュート!


 名付けて「ひざカックン作戦」!


 『空気』をまとわりつかせた竹は、鋼鉄の強度を持った槍となって、膝裏を強襲した。


 並の素材に術を乗せると、自分の魔力に負けて投げる前に木っ端微塵になるが、今回は竹を『空気槍』の芯にしただけなので、なんとか持っている。

 何より、不特定多数がいる前で、「見えない槍」の投擲など見せたりしたら、別の意味で大騒ぎになる。竹を使ったのは一種のカモフラージュ。


 膝関節を破壊され、踏ん張りがきかなくなったサイクロプスは、前のめりになり両手を地面についた。


 むこうずねが地に着くタイミングで、第一投が上空から下肢を串刺しにする。投擲コースは計算通り。これも『空気』で強化してあるので、さっくり突き刺さる。

 サイクロプスは、後脚を地面に縫い付けられて前進できない。前足での攻撃も封じられた。


 ぎよぉぉぉぉお!


 悲鳴を上げるサイクロプスの背中を駆け上がる。


 そのまま、首根っこまで登る。頭骨と頸骨の関節を狙って踏み込み、骨と脊髄を一気に蹴り壊す。


 サイクロプスは、一瞬、体を震わせ、そのまま地に伏した。


 一丁上がり♪


 うおぉぉぉぉぉぉ!


 頭が落ちた先にいた集団から、野太い歓声が上がった。なんだなんだ!


 一応、代表っぽく見える人のところに飛び降りた。


「えーと、こちらの代表の方はどなたですか〜?」


 あ、横から体当たりされてはじき飛ばされた。


「アル坊! さっすがだ! すげえぞ!!」


 あらぁ


「ガレンさんまで、引っ張り出されてましたか」


「昨日のうちに発見されててな。ギルドの強制依頼で騎士団と共同で当たることになってたんだが。一蹴りで落とすとは、さすが「密林の野生児」!」


 ・・・乙女に向かって、なんて通り名を付けるんだ、この人わ!


「・・・それより、先を急ぐんで責任者に一言挨拶だけしておこうかと。どなたですか?」


 さっき、吹っ飛ばされた人が起きて来た。


「ローゼン騎士団の副団長、ミゼルと言う。討伐協力に感謝する。ついてはぜ「話の途中で済みません! いきなり割り込んでしまいお手数をおかけしました。詳しい話は要りません。連れがちょっと騒がしいのでこれで失礼します! ではっ」」


「逃がすかっ!」


 ガレンさんが、立ち塞がった!

 本当に、待たせている隊商の方角から、何やら騒いでいる音ががんがん聞こえているんだってば!


「マッシュさんっ。経緯はマッシュさんが知ってますから! 是非そっちに訊いといてくださいな! って、なんで捕縛用の縄なんか持ってるんですか!!」


「サイクロプスぶっ倒した一番の功労者がいないんじゃ、話にならんのだよ。今、話ができないっていうんだったら、後で必ずギルドに顔を出してくれ! 約束できないっていうんだったら、この場でふん縛る!!」


 なんなんですか、その理屈! 面倒が泥縄式に増えている、気がする。


「〜〜〜わかりました。今日中は無理でも、近いうちに行きますから! ということで、御免!」


 忍者のような捨て台詞を残して、取って返した。


 あれ?


 騒ぎは騒ぎでも、サイクロプスがあっさり倒されたことに驚いて、の騒ぎだったらしい。・・・なんだ、焦って損した。


「お兄さん、戻りました〜」


 自分の顔を見て、ほっとしている。騒ぎに乗じて、逃げ出すと思われたかな?

 お世話になっている商人さんも近くにいた。自分が飛び出していって、さほど時間が経ってないのに驚いたらしい。こちらは、ぽかんとしている。


「街道は、通れるようになりましたよ。すぐ、出発しますか?」


 声をかけられて、冷静に戻ったようだ。


「いやぁ、凄腕のハンターだったんだねぇ。助かったよ。うん、お連れさんを乗せてくれれば出発できるよ。ほんとうに、すごかったねぇ」


 なんか、うんうん言いながら一人で納得している。出発できるなら、いいか。足手まとい三人を馬車に放り込んで、自分とお兄さんは歩き出す。他の隊商の人たちも動き始めた。


 途中、倒したサイクロプスの横を通る。

 これから解体処理にかかるであろうハンターの中に、知り合いをちらほらと見かけた。というより、声をかけられた。


「ほんとうにアル坊だ!」

「いつみても、かわいいよな!」

「街でいっしょに飯食おうぜ!」

「俺も混ぜろ〜!」


 などなど。知らない間に、結構な知り合いができてたようだ。ちょっと嬉しいかも。


「大規模魔法も使ってないのに、どうやって倒したんだ?」

「傷がほとんどないから、高く売れるよな」

「報奨金にボーナス付くかな」


 などという話も聞こえる。ん〜、ちょっとうるさくなってきたので、音量を下げる。

 お手製の耳飾りは、特製魔道具で、聞こえすぎる聴覚を程よくセーブしてくれる優れもの。無制限、遠、中、近距離の切り替え機能付き、さらに左右で異なる設定使用ができるという。・・・普通の人が使ったら頭おかしくなりそうな代物だ。が、自分がいつか街中にいくときには必要だろう、と作っておいた。聞こえが良すぎるのも問題なのだ。ほんと、作っておいてよかった。


 あ、またガレンさんだ。


「アル坊! 欲しい部位はあるか?」


「いいんですか? 高い部位ほどギルドが欲しがるって、前に教えてくれたじゃないですか」


「なに、アル坊がいたからこその、この結果だ。ギルドマスターだって納得するさ」


「自分はメンバーじゃないから、無理は言えないと思いますけど。ただ、もらえるというのなら、爪が欲しいです」


「確かに、それなりだな。だが、俺たちからの推薦ということで話をしておく。ま、期待しないでおいてくれ」


「だめだったら、一杯おごってもらうってことで、よろしく♪」


「おう! じゃ、またあとでな!」


 商人さんが、なんか興奮しているぞ?


「あのガレンと知り合いなんですか?! 先ほどの活躍といい、すごいです!!」


 感激屋なのかもしれない。


「ガレンさんは、有名なんですか?」


「ローゼン・ギルドのトップハンターの一人ですよ! 知らなかったんですか?!」


 それから、ガレンさんの活躍っぷりとかギルドのトップハンターがいかにすごい人たちなのか、延々としゃべっていた。

 隣のお兄さんは、うんうん頷きながらこれまた黙って聞いていた。


 そんな話を聞きながら歩いているうちに、高い石壁に守られた街門が見えてきた。


 もうすぐ、ローゼンの街だ。

 地味な(人前)デビュー戦、でした。

 主人公は、体力、魔力ともに無双です。自覚があるので、ものすごく自重しています。しかし、いつまで隠しきれるんでしょうか。


 #######


 主人公の「竹槍」

 第一投には、『空気』で「カマイタチ」効果を付加した。そのため、深く貫くことができた。膝裏を直撃した第二投には、硬さと重さと速さを付加し、物理的な力で関節構造を粉々に打ち砕いた。

 

 #######


 空気槍

 【風】術系統に類似の魔術がある。サイクロプスを貫くほどの威力はない。竹槍に「偽装」するような使い方もしない。


 #######


 主人公の蹴り


 絶妙の力加減で、延髄を粉砕。加減を間違えていたら、頭部が爆散していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ