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サイクロプス 1

106


 一晩、街道沿いで野営した。そのための道具は、昨日に続き自分の持ち出し。

 ちなみに、鹿肉の残りと毛皮は、同行料として商人さんにこっそり渡してある。だって、お金持ってないんだもん。


 ということで、今夜の食料も自分が森にもどって獲りにいった。もちろん、狙いはヘビ一択! まるまる太ったヘビを捕まえられた。

 野営地に戻ってきたとき、担がれたヘビを見てメイドさんが硬直していた。街中ではあんまり見かけないのかな?


 捌いた身を開き、軽く塩をふり、蒲焼き風に串に刺して焼く。


 ぼっちゃまは、最初は目をそらしていたくせに、焼き上がったとたん、夢中でお召し上がり。なんだ、食わず嫌いだったのか。


「それにしても、マッシュさん。護衛依頼を受けるなんて、珍しくないですか?」


 隊商に雇われていた知り合いはマッシュさんといい、これから向かうローデンを拠点にしている弓使い。こちらのたき火に混ざり込んできた。


「なにが珍しい、だ。アル坊と森以外で会うことの方が珍しすぎる。いったいどういう風の吹き回しだ?」


 簡潔に答える。


「森で、迷子を拾っちゃいまして」


「いつものアル坊なら、ご勝手に〜、とかいって無視しているんじゃないか?」


 できることなら、そうしたかった。


「みごとにお子様ばっかりそろってたもんで、こりゃほっとけないかな〜、と」


「ここまでつれて来たんだ、あとは自分たちでなんとかできるだろ?」


「問題児から目を離せません。ここまでくる間もじっとしてないもんだから、抱えて運んできたくらい。えーと、乗りかかった船、っていうんでしたっけ?」


 思いっきり、ため息が出る。


「まあ、ここからなら、あと半日で街門に着くしな」


「それよりも、隊商の護衛ですよ、どうしたんですか?」


「ああ、ロックアントのシーズンだろ? アレは俺の手には負えないから、この時期は森には行かないんだ。たまたま、護衛依頼の募集があったんで、こっちと契約した。今のところ、街道沿いでは出くわしてない。そっちこそ、どうだった?」


「迷子さん達が、引っ掛けてくれましたよ。はぐれ一匹と十匹の群れ一つ、ここから東に四半日ってところで、です」


「・・・位置も、数も、微妙だな。ほかは?」


「奥の方は、例年程度の出現数でした。昨日のも、たまたまだと思います。ということで、情報料〜」


「〜〜〜相変わらず、その辺はきっちりしてるよな! これでどうだ? ノーンの酒だ」


 と、腰の革袋を渡してくる。

 いいですねぇ。


「まいど〜♪」


 ウォーゼンさんが、寄ってきた。


「すまない、少し話をしてもいいか?」


「・・・離れるか?」


 と、マッシュさんが腰を浮かせる。


「いや、貴殿に訊いてみたいことがある。自分は、ウォーゼンという。彼女に街までの案内を依頼した者だ。

 それで、彼女と親しそうに話しているのを見て、どういう関係なのかと気になって・・・、あ、いや、無理に話してくれなくてもいいんだ。本当に、少し興味があるというか・・・」


「どうする?」


「かまいませんよ?」


「俺から話してもいいのか?」


「なにをぅ。今まで、散々吹聴していたくせに〜」


 最近、森の中で会う人が、「あんたが、あの!」とかいって握手を求めて来たり、踊り出したり。どんな噂になってるのか、自分も知りたい。

 変なこと言っているようだったら、おしおきだ!


「名前は聞いたか?」


「「・・・そういえば」」


 自分からは名乗っていなかったか。


「アルファ、猟師です」


「といってるがな。ギルドには登録していない。なんでも、修行とやらで森から出たことがないんだとか。その分、俺たちギルドハンター以上に森に詳しい。で、たまたま会えると、街の話と引き換えに情報を教えてくれるんだ。物々交換のときもある。

 そうそう、俺は、ローデン・ギルドのハンター、マッシュだ。よろしく」


「マッシュさん、本当にこういう紹介をしてたんですか?」


「まあ、ハンター連中にはもう少し面白いネタも付け加えておいたぞ。なかなか、好評だった」


 ニヤニヤ、笑っている。怪しい。

 お兄さんは、あくまでも生真面目に言う。


「今回は、彼女に出会わなければ、本当に危ないところだった。感謝している。

 それはともかく、違う名前で呼んでいたようだが?」


「ハンター連中でつけたあだ名だよ。なんせ、こんなにちっちゃいもんでな、名前負けしてるだろ、ってね」


「〜〜〜ちっちゃいも、名前負けも、余計なお世話ですっ」


 ひどい! 確かに背は低いかもしれないが! 胸だって慎ましやかだし! ・・・あ、自爆した。

 うなだれる自分を見て、くつくつ笑っている。


「見た目はただのガキンチョだが、森に関する知識は随一だ。ましてや、たった一人で生き延びてきている。只者じゃねぇ。

 あんたら、本当に運がよかったな」


 けなされているのか、ほめられたのか、わからない。くそう。


「・・・とにかく、今夜はもう休みましょ」


「自分が見張りにたつ。あ、アルファ殿は今夜は休んでくれ」


 やっぱり、自分の名前は呼びにくいらしい。


「アル、でいいですよ。殿付けも要りませんから」


「そ、そうか? とにかく、昨日の夜は寝ていないだろう。無理はしないで欲しい」


「え〜、大丈夫なのに。体力には、自信があるんですよ?」


 七日ぐらいなら余裕で起きていられるし。


「アル坊、兄ちゃんがこう言っているんだ。俺も今夜の見張り番だしな。多少は気休めになるだろ?」


 そこまで言われたら、ねぇ。


「では、先に休みます」


 その場で、ごろんと横になった。寝たふりしとけば、いいだろ。

 地面に耳をつけておけば、ちょいと遠くの音も聞こえるし。二人の内緒話も聞いといてあげよう。



 翌朝、快晴。


 みんなおき出して、早めの食事にしている。出発が早ければ、その分、街にも早く到着できる。街での昼食が、楽しみなんだろうな。隊商一同の顔が明るい。


 この先、それどころじゃないんだけど。


 メイドさんの怪我の具合を見ながら、対策を考えていると、マッシュさんが声をかけて来た。


「渋い顔をしてるじゃないか」


「この先に、大型種がいるようです」


 マッシュさんも、渋い顔になった。


「種類は?」


「この距離じゃ無理ですよ。ただ、街道というよりも街の方に向かっているから、このままだと街に入れないかな、と」


「・・・どうする?」


 体は大きくてもおとなしい種類もいる。とは言っても、森に引っ張っていくのは難しいだろうな。


 街の方から、お兄さんが付けているのによく似た鎧を着た人が、馬に乗って走って来た。


「この先に、サイクロプスが出た! 出発するな!」


 隊商の人たちがざわめく。


 サイクロプス?


「どのくらいの大きさだ?!」


 すかさず、マッシュさんが騎士に質問する。


「十八メルテほどだ」


 ここの単位は、地球のメートル法とほぼ同じぐらいらしい。すなわち十八メートル。


「サイクロプスって、どんな動物でしたっけ?」


「アル坊は、見たことなかったか?

 一つ目で、前足に大きな爪を持っている。フォレストアントが好物で、あいつらの巣と勘違いして城砦に向かっていくことがある」


 ああ、あれか。大きなアリクイもどきだ。普通のサイクロプスは七メルテぐらいだから、変異種だろう。それにしても大きいな。


「どうする?」


「って、なんで自分に聞くんです? 騎士さんが出てるってことは、この先で待ち構えているんでしょ?」


「聞いた大きさなら、倒すまでに時間がかかる。アル坊なら、ちゃっちゃと片付けられるだろ? 早く街に入りたいんだよ」


 怒っ! そういう理由で巻き込むない!


「それに、アル坊の依頼もさっさと終わらせたいだろうが。ん?」

 

 くそう。確かに、騒動が大きくなれば、あの坊ちゃんが・・・


「こんどこそ、ぼくがやっつけてやる!」


 ・・・ほら。

 数少ない知り合いが登場しました。彼も含めて、[魔天]の森で怪我をしたとか、獲物に反撃されて死にかけたところとかに、主人公がたまたま居合わせて助けたのがきっかけです。やっぱり、お人好し。


 #######


 ハンター

 森で魔獣や魔岩などを採取する人

 都市や砦、村などを拠点に活動する。採取の実績により、初級、中級、上級と呼ばれる。厳密なクラス基準はない。採取以外にも、隊商の護衛や害獣の駆除などを引き受ける。


 #######


 ギルド

 ハンターの支援組織

 素材となる魔獣の情報、売買や各種依頼の仲介、拠点以外のところでの身分保証などをサポート。ギルド登録した猟師がハンターと呼ばれる。


 #######


 アリクイ

 シロアリが好物なほ乳類。前足のでっかい爪でシロアリの塚を壊す。威嚇のポーズはかわいいと思う。

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