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成せば成る 5

033


 あれから、300年ほどが過ぎた。


 多分、師匠は次の巡りに還ってしまっただろう。だが、約束したのだ。ちゃんと修行して、たくさん学んで、それから、師匠にすべて報告すると。


 見た目10歳のまま、時が過ぎ。


 森は、変わったり、変わらなかったり。


 師匠が教えてくれた、周辺部にも行ってみた。そこで、「子供」の意味が分かった気がした。周辺部には長居ができなかったのだ。どこがどう成長するのかは判らないが、深淵部でなければならない理由が確かにあるのだろう。


 何せ、自分、ドラゴンだし。


 修行しろと言われて、最初は途方に暮れた。鹿の親子の「ついうっかり」がどうしても忘れられず、修行の方法を思いつかなかったのだ。


 それでも、ない知恵を絞り出して、頑張った。

 深淵部の動物たちには、迷惑だっただろう。無理矢理、修行相手に付き合わされていたから。終いには、自分の姿(人間バージョン)に気づくや否や、みなしっぽ巻いて逃げ出すようになってしまった。


 成果は、わからない。なにせ、深淵部に人は入ってこないから。広大な面積の中で、いるかどうかわからない人と巡り会う確率は、とてつもなく低い。


 師匠に会えた幸運に、本当に感謝している。



 時々、やはり、無性に寂しくなる。そんなときは、魔天の彼方にあるという天上めがけて、高く高く飛び上がる。だが、せいぜい積乱雲の頂上くらいまでしか届かない。これもまた、修行なのかもしれない。もう少し、大きくなったら、行き着けるようになるのだろうか。


 

 今更だが、ドラゴンのときにも人の言葉を話すことができた。師匠が気づかせてくれた。ちょっとうれしい。


 よく、歌を口ずさみながら、空中散歩する。雨上がりの森の上で景色を眺めながら歌う歌は楽しい。


 人型の時は、伴奏が欲しくなる。

 それなら、楽器も作ってみればいいじゃん、と思い、作ってみた。


 機織り機並みに、苦労した。


 最初はギターに挑戦したが、失敗。胴の部分がうまく作れなかった。

 いきなり複雑な形は無理だった、と反省し、次はハープにした。小脇に抱えられる程度の大きさと、3オクターブくらいの音域が出せるように工夫した。

 時々音程が外れるのはご愛嬌。出来上がったハープをかき鳴らし、まではできなかった。一音一音を指ではじいて、ポロポロ鳴らす。それもそれで楽しい。指使いの練習とばかりに、思い出せる限りの曲をつま弾く。


 ちょっと、泣きたくなったりもしたけど。



 魔法も少し、進化させることができた。


 なんと、「空間」をつかった魔法で、洞窟の中に溢れつつあった道具を整理整頓することに成功したのだ。


 ファンタジー世界御用達の定番アイテム、マジックバッグ。自分では便利ポーチと呼ぶことにした。


 最終完成形は次のようになった。まず、布で四角い容器をたくさん作る。一つの容器の内側に「亜空間」を設定する。容量は、てへっ。ほぼ、無限大。

「生き物は拒絶する」「取り出す(一個)」「取り出す(全部)」「しまう」のキーを記録する。次に、これをひな形にして、残りの容器全部を同じ設定にする。設定の終わった容器をカードの形に圧縮する。最後に、ドラゴンの抜け殻製ウェストポーチを作り直したカードケースに納めれば完成。


 容器をたくさん作ったのは、容器の中にいろいろなものがあると、取り出しのキーの設定が複雑になるので、それならいっそ、一種類一容器にしてしまえ、と。保存する品物は、収納する時にカード情報として記録するので、取り出したい時にはその「インデックス」のついたカードを選ぶだけ。

 また、最初からカード型にしなかったのは、「亜空間」の設定をしやすくするため。


 貯まりに貯まった、岩大蟻の素材、製作物、てん杉製品各種、保存食、さらには、場所取りの機織り機や、試作の楽器類まで、片っ端から納めていった。大丈夫、半端ない数の容器を縫いまくったので、カードの数には十分な余裕がある。


 おかげで、今では、住み始めた当初のようなすっきりした空間になった。


 大洞窟の奥の小部屋の一つに、寝室を設けた。しっかりしたベッドを作って敷布をかけている。詰め物は、相変わらず、てん杉の葉だったりするが。時々、敷布を交換して、洗濯して、「ちゃんと生活していますよ」と、誰に対してなのか、訳の分からないアピールをしてみたり。



 師匠。今度あったら、楽しい話をたくさんしましょう。

一途な主人公。

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