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生きるために 1 木の実

003


 竜生始めて1週間が経った。夕方、まーてん山頂に戻って眠り、翌朝、麓周辺を探索する生活にも慣れた。・・・ご飯を除けば。


 食欲がない訳ではない、にもかかわらず、飢餓感もない。


 まーてんの岩塊周辺は、ポカポカ感マックス。どうも、一種のパワースポットのようなもので、ドラゴンな私はそのパワーを全身でむさぼり栄養にすることができる、と推測している。栄養が足りているので、おなかがすかない。栄養云々は、身長記録が証拠になる。爪の幅ほどの縞模様が、毎日毎日増えている。腹ぺこだったら、身長が伸びるどころかやせこけるでしょ。


 ・・・パワースポットの岩削って落書きとは罰当たりな気もするが、気にしない。誰もみないし。


 それはさておき。



 ほかの岩山にもポカポカパワーがあるのかどうか気になった。


 で、力の有無や、力の強弱があるかどうか、体感で調べてみることにした。


 密林には大小の岩山が点在していて、ほとんどは、斜面をもつとんがり山頂な形をしている。植物はほとんど生えていない。山腹には、ちらほらと生き物の影が見える。が、森の中よりは少ない。見かける個体は、大きめのものが多い。

 目星を付けた岩山に、動物がいないことを確認してから、そっと降りる。岩の上に腹這いになってみる。が、まーてんほどの「芯から暖まる」感がない。薄いスープを飲んでいるかのようだ。岩山が小さくなるほど、物足りなさが増してくる。まーてんと岩山の距離も関係ない。近くにある小さい岩山と離れたところの大きめの岩山で、ポカポカスープの濃さを確かめたから。


 調査範囲内では、まーてんが一番大きい。そして、今のところ、まーてん麓には、本当に、ほかの動物が近寄らない。様子をうかがうものはいるが、すぐさま踵を返して森の中に戻っていく。

 おととい、ついうっかり蟲と空中戦をやらかしてしまったときは、まーてんまで追いかけてきたが、寄りすぎたとたん、酔っぱらったように体勢を崩した後、大慌てで逃げ出した。


 ぽかぽかパワーは動物に好まれる。そして、強い個体は体の大きさに比例した岩山を縄張りにする傾向がある。しかし、まーてんぐらいに強すぎると誰も近寄れない。そういうことのようだ。


 私は平気、超元気。一番落ち着く。まーてんにいれば、自動でパワー充電でき、デンジャラス動物も遠ざけられる。食、住、ついでに安全も確保できる。スバラシイ。


 ・・・・・・いよいよ、仙人生活に突入か? ポカポカな霞を食べて、のんびり、だらだら、生きられます?


 いやいやいや、まだそこまで枯れたくはない。



 やっぱり食べたい。なにかこう、がぶっとかぶりつきたい。人間はやめてても、まだ生き物の範疇だい。いや、人間やめたつもりもない。ないったらない。


 ナーニーカー、食べられるものはないか〜。


 動物はいろいろイロイロいる。猪っぽいの、熊っぽいの、猿っぽいの、トカゲ、ヘビ、鳥、蟲、その他諸々。上空から密林の木々の間を闊歩しているのをみた。モチロン飛び回るのもいる。

 いずれも、でかい。今の自分と同じくらいか、それ以上の図体をしている。とあるヘビは、自分と同じくらいの太さでどこまで延びてるんだ端から端まで見えないぞ、という、パニック映画並みの代物だった。

 彼らは、普通に狩りをしていた。野生だもの。一方、無抵抗で襲われるものもいなかった。体当たりしてはじき飛ばす、角を振り回す、後ろ足で蹴りあげる、噛み付き返す、毒をはく、毛針をまき散らす、締め付ける、マッハふみ○み・・・。これぞ、弱肉強食。


 もっと小さい動物もいることはいる。加えて、今の自分の見た目は文字通りがっつり肉食系なので、ナニをナマ食してても別段おかしくない。しかし、一応、中身は都市生活に順応した現代人。いきなり狩猟生活なんかできる訳がない。そもそも、視界を遮られる森の中で、あんな連中との筋肉祭り、もとい、食料争奪戦をやる無謀さの持ち合わせはない!

 手に入れられたとしても、ナマかぶりはためらわれる。そう、道具がいろいろ手元にない。ということで、肉はしばらくお預け。わんわ〜ん。



 肉がだめなら、フルーツで。



 熱帯雨林ではイチジクの仲間をよく見かけるという。残念なことに、まーてんの麓にはなかった。現時点で、森の中に探しにいくのは論外。森の外から、じーっと目で探したのさ。筋肉祭りには参加したくないんだもん。

 

 もっとも、観察によれば、あの物騒な杉もどきの実も工夫次第で食べられそうである。

 狐もどきの食べたものよりも小さな実を、リスもどきが食べていた。

 しっぽがね、針の固まりになっていてね。後ろから丸呑みにしようと飛びかかったヘビに、しっぽでハイスピード往復ビンタを食らわせて、口の中まで針山攻めにしたあげく枝から叩き落としていた。

 ・・・たっくましいわぁ。あんなの、リスじゃないやい。


 それはおいといて。


 実一つを両手に抱えて、かじり始めた。が、全部を口にしていない。果肉はかじるが種の部分は捨てている。2〜3個食べたところで、立ち去った。ほかのリスもどきも、同じ食べ方をする。一匹だけ、7個の果実を食べた個体がいたが、これは木から落ちて溶けてしまった。


 少量かつ種を取り除けば、リスでも食べられる。ましてやドラゴンをいわんや。


 自分の体表の頑丈さは、初日に確かめた。それの中身がリスより虚弱ということはない、と思う。


 森の動物が立ち寄らないぎりぎりの範囲に生えている杉もどきから、リスもどきが食べていたものに近い色とサイズのものを慎重に選ぶ。いちおう、においも嗅いでみる。なんとなく、まーてんの山頂で寝転がっているときのようなにおい。ん〜、自分でもよくわからないな。


 湧き水の近くに戻って、一つ手に取る。しかし、自分の牙で齧るには難しいサイズ。小さすぎる。爪を使って、つぶさないように慎重に切れ目を入れる。左右を逆にひねって、種だけを分離、できた。本当にアボカドみたいだ。露になった果肉をよく見る。ザクロの表皮のような深い紫色、透明感はない。つま先でつついてみる。固すぎず、柔らかすぎず。においは、さっきと同じ。


 では、最初の一口。いただきます。


 ・・・噛み締める前に、舌の上でつぶれてしまった。味は、悪くない。しばらく、もごもごさせていたが、舌や歯が溶ける感じもない。思い切って、飲み込む。


 体内の異常も感じない。大丈夫そうだ。では、残りの半分を、ってあれ? 半分に割った実はまだそのままだが、切っていない実は皮に張りがなくなり、しおれている。やがて、しぼんでぺちゃんこになった。種も残らない。なんなんだ、この実は。

 そうか、丸ごと、取り溜めができないのか。


 残った半分の果肉は、割ったときのまま、においも変わらない。二口めを放り込む。一口めと同じで、これも問題ないようだ。


 半分に割って種と分離させれば、しぼまない。が、いつまで持つかわからない。実験用にもう一つ実を取ってくる。実を割って、岩の下に置いた。雨に当たったら、かびそうだから。

 たぶん、杉もどきは年中無休で実を付けているのだろうが、万が一もある。カップ麺とかレトルトカレーを買い込んでいた習慣からか、できれば食料は手元に確保しておきたい。


 さらに、やりたいことが増えたな。

主人公、これでも慎重に行動しているつもりです。

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