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邂逅

029


 落ちる途中で、人型になったにもかかわらず、無傷で地面に着いたらしい。ちっ。


 雨が上がっても、そのまま身動き一つせずに、ぼんやり空を見上げる。まあ、そのうちに誰かが食べにくるだろう。


 まだ夕暮れには遠い時間、森の音を聞いていた。



 すぐ横で、声がした。



 「ほう、こんなところで子供に会うとはの」



 鋭敏な聴覚を持っているはずの自分に気づかれずにこんな近くまでこられるとは、かなり力のあるやつだろう。それとも、自分があえて無視していたのか? どうでもいいや。



 「さぞ、実力があることだろうて」


 

 そんなもの、もう要らない。



 「いざ、尋常に勝負!」



 勝手に殺してよ。

 


 ・・・?



 「ええぃ、さっさと立ち上がらんか!」



 ようやく、声のする方に顔を向ける。


 小さな老婆がいた。


 「・・・なんで?」


 「どういう意味で「なんで」なのじゃ?」


 「・・・勝負」


 「・・・武人たるもの、より強きものとの切磋琢磨によって、己を鍛え上げていくものじゃ。魔天深淵部にこうも無造作に在ること自体が、そなたに実力ある証拠。よって、いざ!」



 この世界での、最初の会話がこれとは。ま、最後だからどうでもいいか。



 「実力じゃない、ただの偶然。それも、もう要らないから。おばあ、・・・貴女、強い人だよね。さっさと、殺してくれる?」



 なんか、表情がなくなってきた。



 「できれば、苦しくない方法にしてもらえるとうれしいけど」



 今度は、顔色が変わった。真っ赤だ。



 「っぶあっかもぉ〜〜〜〜〜ん!!!」



 一喝で、周囲の動物が一斉に逃げ出した。



 「・・・なんで?」



 「偶然も実力! にもかかわらず、このような無気力なものが実力者とは、認めん! 認められん!! それともなにか? こんな小娘を実力者とみた、わしの眼力が間違っておるのか? それもまた、納得できんぞ! 起て、起たぬか、立ち上がってわしと勝負せい!」


 おもむろに、自分を蹴り上げた。


 これまた、始めて腹部に衝撃を受けた。氷塊のたこ殴りなんてめじゃない、重く熱い一撃。


 落ちて来たところに、掌底が叩き付けられる。横に吹っ飛ばされ、背中から樹に叩き付けられる。


 「まだまだじゃ! 気合いを入れろ! 立ち上がれ! そして、わしと戦えぇぇぇ!」


 容赦なく、殴り、蹴り入れ、投げ飛ばしてくる。


 自分はとにかく、反撃しないよう力を抜き、さらに気合いで魔力を押さえ込む。


 技はさらに激しさを増し、絶え間なく繰り出される。まるで、大型獣同士が暴れ回っているかのような轟音が次から次へと響き渡る。


 

 夜も更けた頃、ようやく老婆の手が止まった。



 「・・・たい、がい、丈夫な、やつ、じゃ、のぅ」


 双方、肩で息をしている。


 自分は、草まみれ、泥まみれにはなったが、一切傷ついていない。もっとも、腹を抱えてうずくまる程度にはダメージを受けている。一方、老婆は、ひたすら殴り続けて疲労困憊したためだろう。最後の頃は、大技も連発していたからな。


 「・・・武器を、使えば、よかっ、た、のに」


 「なにを、いって、おる。・・・やる気、の、無い、者に、刃を、振るって、なんの、意味が、あると、言う、んじゃ。・・・これで、気合いは、はいった、か? ならば、戦お、うぞ・・・」



 「・・・休憩、したら?」


 「・・・そう、しよう、かの・・・」 

拳で語る?

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