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適正価格

606


術「では。これ、預かっていきますね。エストラダには、取り出しイメージしやすいように、詳細な目録も付けるように伝えておきます〜。私の所にも似合いそうなものがあったよねぇ〜。どれがいいかな? ふんふんふ〜ん♪」


 なっ。このまま、組合長さんのところに持っていく気か?!


「どっちも要りません!」


 レンキニアさんは、手早く本を回収し、スキップしながら部屋を去っていく。


治「もう、聞こえてませんよ?」


「ほどいて〜! 止めさせて〜っ」


官「あら。彼を引き止める理由ってありましたかしら?」


治「ありませんね」


官「なら、ほどく必要もありませんね」


治「そういうことです」


 じたばたもがく自分を尻目に、二人して、ははは、おほほ、と笑い合う。・・・笑い事じゃないって!


「お、王宮宝物庫の財宝使った魔道具なんて、恐ろしくて使えません!」


「「使えばいいじゃないですか」」


 違うっ!


侍従D「目覚ましい功績を上げられた方々は、大抵、褒賞金額の大小でその度合いを計られるのですが」


侍従E「ただ、ありきたりなものでは関心を示してくださらない方もいらっしゃいます。そのような時は、宝物庫から探し出してくるものですよ?」


「使われないお金は、死んでるお金です。宝物も然り。もったいないでしょ!」


「「「「使えばいいじゃないですか」」」」


 そうじゃないっ


「森で自給自足できていたの! 買い物するのも、ほんのちょっとでいいの! 使えないものを貰っても、困るだけですって」


官「ですから。お使いいただけるようなあれやこれやを皆で楽しく探しているところですのよ」


 話が通じない。堂々巡りしてる。ここの王宮も十分おかしい。


治「さ、お休みの時間です」


「も、もういいでしょ?!」


 飲み飽きた。というより、まだ寝かしつけておく気ですか!


治「掛かって」


 押さえつけられ、あの、でろりんとした薬液がたっぷり入ったカップが近づいてくる。


 この王宮、もういや! 逃げ道は、どこだーっ!


 カーン、カーン、カーン。カーン、カーン、カーン。


 グッドタイミング! 避難の途中で、抜け出してやるっ。


「また光ったんですか?!」


治「もうじきでしょう」


「さっさと逃げましょうよ」


官「ここは、王宮でも最奥部になりますの。ここまで届くようでしたら、コンスカンタは死にますわ」


 にっこり笑いながら言う台詞じゃないよね。・・・怖ぁい。じゃなくて! 逃走経路が絶たれてしまった。


侍従D「それでも、今回の活動期は激しいですねぇ」


侍従E「これで四回目ですね」


官「規模も大きいですし。建物の修復作業がまた遅れてしまいますわ」


「四回?」


官「アルファ様がお休みになられている間にも、二回ほど光りましたの」


 休んでいた、じゃなくて、軟禁していた、の間違い。訂正を求める。


「そういえば。過去の記録を調べてもらう話もしてましたけど、・・・いいです」


 団長さん、絶賛引きこもり中だし。


治「では、そういうことで」


 しまったっ!


 飲まされた。いい加減にして欲しい〜。んぎゅう。




 善良な人達が、今日の糧に感謝し、楽しく夕食をとっているであろう時刻。


治「・・・絶対変です。おかしいです。ありえないです」


「あんなもん、毎日毎回飲ませるランガさんの方が鬼畜です。異常です。変態です」


 方や、珍獣を観察する研究者、方や、実験動物扱いされた哀れな犠牲者。ほら、自分の方が悲惨だ。


ス「なにが、どうしたんですか?」


 見舞いに来た、とは言っているが、監視しに来た、が正しい。がっちり縛り付けられている自分を見て、ほっとするってどうなのよ。


 ・・・こんな仕打ちをしてくれた人達には、後できちんとお礼参りをさせてもらうつもりだが、どうしてくれよう。


治「今日の昼に飲ませた鎮静剤。普通なら五日は寝ていられる調合にしたはずなんです。それが、半日もしないうちに、目を覚ますって、なんなんですか?」


 それって、鎮静剤じゃなくて毒劇物の間違いじゃないの?


「自分を殺す気ですか!」


治「そういうことは、死んでみせてから言ってください」


「死んでたら、言えるわけないでしょ!」


デ「あ、あー。アルさんだし?」


ノ「アルファさんなら、あり、でしょう」


治「あんた達も、おかしくなってませんか?」


「「「酷い!」」」


 ちょっと! 虜囚を前に、そういう会話をしている事自体が酷いって。


「それより。何の御用ですか?」


デ「・・・機嫌悪いですねぇ」


「良いわけないでしょ。この裏切り者」


 真っ先に足枷を勧めたのはディさんだって聞いたぞ。


治「治療に非協力的な患者を拘束するのは、治療師の義務で権利です」


 威張るんじゃない。この変態。


「そんな権利認めません」


ノ「いや? ありでしょ」


ス「ここまで付き合いがいいと、ますます惚れてしまいます」


デ「スーさん?」


 やっぱり、あの弟にしてこの兄あり、だわ。斜め上の感想が飛び出して来た。


ス「だって。アル殿ですよ? その気になれば、この程度の拘束、ぶっちぎって出て行けます。ローデンでは、実際に、石積みの牢獄一棟を全壊させてますし」


一同「「は?」」


 黒歴史をバラすな!


ス「侍女や侍従に怪我させたくないから、とかなんとか、言い訳するんでしょうけど」


デ「ああ。そう言う事」


治「そうなんですか?」


「こんな綺麗なベッド。壊したら弁償が大変です」


ス「ね?」


 なにが、ね? だ。


 上等の絹張りの上掛けには、上品な刺繍が全面に施されている。程よい弾力のマットレス、それを覆う敷布の極上の手触り。それを支える木枠は、見える範囲だけでも精緻な彫刻が施されている。

 ・・・超高級品よ? ただの癇癪で粉微塵にしてしまったら、作った職人さん達に申し訳ないじゃないの。


 ぶきっちょさんは、器用な職人さんを尊敬しているのだ。変態な職人はお呼びじゃない。


デ「準備はほとんど終わったよ。レモリアーナさんが、戻って来たら出発しよう」


ノ「すぐに取って返してくると思ったんだけどねぇ」


ス「あの方なら、大丈夫ですよ」


「出発って、ローデンに?」


デ「そうだよ?」


 やった! 密林街道に入ってしまえば、逃げられる。


ス「まずはマデイラに向かって、女将様やガーブリアの方々と合流します」


 お、おーのーぅ! お説教タイムが繰り上がってしまう。


ノ「アルさんは、レモリアーナさんとムラクモさんの馬車に乗って。飛び降りたり、オボロさんに乗ったりしたら、アンゼリカさんにチクるよ?」


「馬車?」


デ「だって。アルさんの、ごっそりバッグ、使えなくなったんでしょ? そう言ったら、ムラクモさんが、私達の荷物も一緒に運んでくれるって」


 ごっそりバッグって、なに。


デ「ハナさん達にも、ちゃんと了解してもらったから。アルさん、怪我してるから、歩かせたり暴れさせたりしないように協力してねって。なんか、凄い勢いで頭を振ってた」


「本当に、理解しているようでしたか?」


 あの子達、時々意味不明なジェスチャーするから。


ス「私たちは、アルさんの友達ですよねって言ったら、尻尾を振ってくれましたよ」


デ「レモリアーナさんが、アルさんの料理をたくさん食べたいよねって言ったら、トリさんまで混ざってうなずいたし」


ノ「よだれもすごかった」


 ・・・食欲大王様そろいぶみ?


宰「本来ならば、コンスカンタ王宮で、十分に静養していただきたいところですが。今期の発光現象は、収束時期が予測できず、アルファ殿が、また巻き込まれないとも限りません。本当に、本っ当ーにっ、残念無念であります」


治「私の投薬実験、ゲフン。集中治療で、普段の生活には支障はないと思われます。激しい運動は無理ですが、時間をかけての移動ならば、問題はないでしょう」


 今、怪しげな台詞があったよね。やっぱり、モルモット扱いだったか!


ス「あのですねぇ。自覚なさってないようですが、本当に酷い状態だったんですよ? これだけ、お話しできるようになれたのは、治療師殿の尽力のおかげです」


「治療される本人の了解無しにやれば、拷問と一緒です」


 インフォームド・コンセントを要求する!


ノ「・・・大人しく治療を受ける気、ありました?」


「動けるようになれれば、問題ないでしょう?」


「「「「ダメです!」」」」


治「なんで、本当に、まったく、どうしようもなく、とことん、なんなんですかこの人!」


「そもそも、寝たきりにさせられてた人を、翌日隊商に参加させる方がおかしいです」


ス「ですから、馬車に乗ってください」


デ「ムラクモさんの馬車は凄いね。ほとんど振動がないなんて。騎士団の工兵や職人が目を丸くしてた」


ノ「調べようとした人は、蹴っ飛ばされてたけどね」


宰「そういうわけで、お名残は惜しいのですが、ご出立をお引き止めする理由もありません。全く持って残念でなりません」


 交通手段は気に入らない。でも、ここから出るまでの辛抱だ。これ以上愚痴を言ったら、さらにグレードアップした薬を飲まされそうだし。


ス「ミハエル達も同行するから、賑やかになるよ」


宰「ところで、いくつか確認事項がございます。少々、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「自分、ですか?」


宰「はい。アルファ様より拝借いたしました盾、二股の槍、黒いナイフの返却と、借料についてご相談させてください」


 あー、あれか。でも、便利ポーチが使えない今、持ち帰る手段もない。


「盾と槍は、コンスカンタで使ってください。自分、あんなに必要ありませんから。ナイフは、えーと、ミハエル様一同に配る分を除いて、こちらも差し上げます。ガーブリアの灰の除去とか、街道の補修作業などに使えますよね?」


宰「は?」


「ロックアント製なので、邪魔なら、他のものに作り直せばいいです」


治「ちょっと待て! あれ、あれは、いくつあった?」


「そうそう。代金なら、ローデンギルドに支払ってください」


 コンスカンタは、ロックアントの発注も出してたしね。改めてローデンから運んで来る手間が省けた、ということで。よかったよかった。


「「「はあ?」」」


 血相を変えた宰相さんが、侍従さんの一人に命令した。


宰「急ぎ、魔術師団長、騎士団長、魔道具職人組合長、商工会長を呼んで来るように!」


「もう、遅い時間ですよ? 宰相さんが配分してくださればよろしいじゃないですか」


治「あれはあんたが持ち込んだものだろうが! なんで、ローデンギルドの名前が出てくる?!」


「え? 注文していたでしょ? 最近、ローデンから出荷しているロックアントは自分も採取してますし。もう、持ち込んじゃってるんだから、事後承諾で置いてきました、って言っときます」


デ「え? あ、そうじゃなくてね? 加工済みだし、って、加工賃まで入れたら予算越えちゃいますよね? ね?」


 ディさんが、大慌てで宰相さんとランガさんに確認をとる。


「素材にしちゃえば問題ないでしょ」


ノ「アルファさんが作ったものだよ? 出来るわけないって!」


 誰が加工しようが、ロックアントに変わりはない。


「必要だったら、また作ればいいでしょ?」


ス「違いますっ。賢者印のロックアント製品ですよ? 稀少品です。そんじょそこらでは手に入りません。作り直すなんて、とんでもない!」


「数はそこそこあったはずですけど」


「「「そうじゃないっ!」」」


「あ。まだ足りませんでしたか」


「「違う〜〜〜〜っ」」


 無駄宝物と違って、再利用できるんだし、いくらあってもいいよね。


 とか考えているうちに、人が集まって来た。一番乗りは、騎士団長さんだ。


団「どうしたっ! 症状が悪化したのか?!」


宰「違いますが、そうとも言えます」


団「どっちだ!」


治「もう、手に負えません」


 ランガさんは、壁際に座り込んでいる。


「こんばんは、団長さん。こんな格好で失礼します」


 未だに、布団の下は縄で括られてるし、寝間着のままだし。


団「・・・あ、ああ。起きられるようになっていたのか。よかった」


宰「セレナストル・・・。アルファ殿の盾と槍の本数は?」


団「は?」


宰「いいから!」


 宰相さんの剣幕に、団長さんも驚いている。


団「はっ。盾が六十、槍が五十、であります」


宰「預かっているナイフは?」


団「騎士団で八百五十七本。組合長がさらに数本お借りしているはずです」


 そんなにあったかな?


デ「私達が受け取った分も数えますか?」


宰「それは結構です。エストラダは?」


 ちょうど、残る三人が来たところだった。


組「アルファ殿に何かあったのか?」


宰「アルファ殿からナイフを預かっているか?」


組「は? ああ、確か、九、いや十本、借りたままだ。それがどうか?」


宰「アルファ殿が、盾、槍、ナイフ、をコンスカンタに売却してくださる、と・・・」


組「なんだって?」


治「ローデンへの注文分として扱え、と。素材にして作り直せばいいなどと、とんちんかんな事まで言い出す始末で」


「持って帰れないですから。お手数ですが、ゴミの処分をお願いします」


「「「「「「ゴミ!」」」」」」

 コンスカンタ王宮 VS 主人公。

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