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暗雲、せまる

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 マデイラとコンスカンタ間の街道は、一部、山を切り開いて設けてある。万が一、土砂崩れなどがあった場合の避難所にも使われる小砦が、密林街道よりも短い間隔で作られている。

 ちなみに、砦をくぐらなくても街道は通過できる。


 というわけで、小砦をいくつか通り過ぎた。


 夕方、野営地を決める。


 四人は、ずだ袋と大差ない有様だ。オボロが、気を効かせて、全員の腕や腰にマッサージを施してくれた。オボロだって、日中走りっぱなしだったのに。いい子だなぁ。


 感謝の気持ちを込めて、ハナ達とともに、ウサギの丸焼きを食べてもらう。


「あ、あ、ああああ! 食べたーい!」


 それを見た食欲大王様が、ジタバタもがく。


「私達も頑張ったのに、頑張ってきたのに、ご褒美・・・」


 ディさん、ご褒美って。しかも、なんでそこで泣くかな。


 トリさんが、済まなさそうに自分を見る。ん? 分けていいの? ぐずる子供を見守る視線だ。やれやれ。


 一羽分を適当に切り分けて、四人の夕食に添える。


「ありがとう! これで、明日も頑張れる!」


「お礼はトリさんに。わけてもいいよ、と、許してくれたのはトリさんですから」


「トリさん! 最高! 格好いい! ありがとう!」


 調子に乗るなとディさんの頭を小突いた。お兄ちゃんは厳しいねぇ。



 十二日目。


 山が近いせいか、雲が多い。まだ、雨は降らないようだ。でも、距離を稼ぐにこした事はない。

 緩いカーブの続く街道を駆け抜けて行った。


 昨日より、休憩の回数を増やしたせいか、夕方になっても、全員がそこそこ元気だった。しまった。モリィさんの、なぜなに攻撃まで復活した。


 夕食の準備に集中している振りをして、のれんに腕押し、糠に釘、を実践。ようやく、ディさんやスーさんに矛先を変えてくれた。


「なんででしょうねぇ」

「アル殿の技量?」

「他の料理人に師事していたわけでもなさそうですし」

「それよりも、マデイラで食べたボロン! あんな食べ方初めて!」


 いつのまにか、「自分の料理がおいしい理由」をネタに、盛り上がっていた。・・・普通の味、だと思うけど?




 十三日目。


 朝から、小雨が降っていた。

 落石現場に早く着きたい(という口実)で、四人をテントに残して先行しようとした。だが、拒否された。しぶとい。


 全員が、フード付きのマントをかぶって、移動した。


 昼過ぎには、止んだ。日も射してくる。濡れたマントを乾かすのに『温風』を使った。

 ムラクモ達も、『温風』で乾かす。トリさんは、『温風』が気に入ったようだ。もう羽は乾いているのに、まだねだる。今日の野営地で水浴びした後に、といって引き下がらせた。そうしたら、昼食もそこそこに、「さあ行こう、今行こう、すぐ行こう!」とディさんをせかす。トリさん、ちょっとは落ち着け!


 その先では、巡回の兵士さんの代わりに、盗賊に出会った。その口上が、すこぶる変。


「こっから先は、俺たちの縄張りだ! 持ってる物は、全部、通行料に差し出せ! へっ、そこの、姉ちゃんも置いて行け!」


 トリさんが、激高している。頭部のとさかが、真っ赤に燃えている。モリィさんも、おっかない笑顔で聞いていた。


 自分?


「寝言は寝てから言いましょうよ」


「ざけんな!」

「くそちびが、なめた口利いてんじゃねぇ!」


 ぶちっ。


 ちびで悪うございましたねぇ?


 オボロから降りて、おもむろにハリセン二号を取り出す。黒棒だと、大惨事になりそうだ。指弾も加減があやしい気がする。


「モリィさん? アレの使い心地、試してみたくありませんか?」


「うふっ♪」


「骨折までなら、問題ないでしょう」


「いいわ。判った」


「ノルジさんは、ディさん達の警護。みどりちゃんとオボロも、よろしく」


 『重防陣』があるけど、念のため。


 でもって、


「では、トリさん、ムラクモ? やってしまいなさい!」


 どこぞのご隠居さんよろしく、けしかけた。


「てめぇら! やっちまえ!」


 トリさんもムラクモも暴れまくった。右に左に振り回し、どつき回し、蹴り飛ばす。自分とモリィさんは、ハリセン片手に、藪の中に隠れていたお仲間を問答無用で叩き出す。


 ぱぁん

 ぱぱぁん

 すぱぱぱぱあぁぁぁん!


 一撃で気絶させるなんて、もったいない。たまに、当たりどころが悪くて卒倒する人が居るのはご愛嬌。なんちゃって。


「おぶぅ」

「げっ」

「切れねえ!」

「ぎゃっ」

「なんだ、こいつらぁっ」


 忍者の人の代役は、ハナ達が。盗賊達が構えていた弓の弦を風の刃で切り刻んだ後、いいタイミングで自分のいるところに追い立ててくる。偉いぞ。


 三十人余りの盗賊団は、あっというまに無力化された。魔術師が一人も居なかったからね。幸いにして、死亡者も骨折した者もいない。


 ああ、また、つまらないものを殴ってしまった。


 冗談はさておき。


 武器をすべて取り上げ、頭らしき男を除いて、全員をおしくらまんじゅう状態のまま、縄でぐるぐる巻きにする。

 お頭さんは、手下の様子がよく見えるように、木の枝からぶら下げてあげた。


「さて、おじさん」


「だぁれがおじさんだ! とっととはなしや、がれ・・・」


 靴を脱がせて、丁寧に拭って、清潔にして差し上げた。その足の裏を、トリさんが突ついている。


「さっき、縄張りがなんとかって言ってましたよね? ここは、マデイラとコンスカンタが日々整備している、天下の公道ですよ? そんな勝手な言い分、だれが認めるんでしょうねぇ?」


 つんつんつん


 おじさんの顔がひきつっている。


「け」


「け?」


「賢者が」


 は?


「どこのどなた?」


 つんつんつんつんつん


「やややめろ、こいつを離してくれ! 言う、言うから、全部言うから!」


 トリさんの懇切丁寧な「お願い」の結果、おじさんは全面自供もとい情報提供してくれた。



「・・・偽者さんは、何がしたいんでしょう?」


 背後では、おじさんがげたげた笑っている。


 素直にしゃべってくれたお礼になるかと、トリさんにもてなしてくれるように頼んだら、ピカピカの羽で足の裏をなでなでしてくれた。お頭さんは、キャーキャー言って、身をよじるほど喜んでいる。オボロも自慢のしっぽの先端を触らせてくれた。ムラクモは、鼻息で足の裏を掃除してくれるようだ。おじさんは、さらに歓声をあげている。よかった、よかった。


 気絶から目が覚めた手下達は、トリさん達に遊んでもらっているお頭さんを見て、蒼白になっている。うらやましいのかな?


「・・・あっちは、いいの?」


 見物人その一の、ノルジさんが、おじさんを指差す。


「いろいろと教えてもらったお礼です。喜んでいるみたいだし、もうしばらくトリさん達に相手してもらいましょう」


「・・・むごい」

「それよりも、情報の方が重要だ」


 ディさんのつぶやきを無視して、スーさんがのたまう。


「えーと、およそ一月前、コンスカンタは新しい国に生まれ変わった。それを宣言、ちがう、宣伝したのが「黒髪の賢者」で、赤髪の国王が、青髪の騎士と共に入国している。国王に忠誠を誓うなら、盗賊でも国民として認める。・・・、でしたっけ」


「コンスカンタは、通貨発行の要所です。各国への影響は、計り知れません」

「まあ、東西の街道を封鎖してしまえば、他国への救援要請も絶てるし。コンスカンタは、盗りやすいと言えばそうなんだけど」

「でも、食料が・・・」


 通貨は、各国の王宮で処理されるまでは、ただの金属の塊に過ぎない。また、新通貨の流通が一年ほど止まったとしても、交易が滞るわけではない。


 交易路なら、マデイラとケチラ間の街道の替わりがある。海都と帝都を結ぶ西街道、西海岸を往復している交易船、そして密林街道だ。それらを組み合わせれば、その他の国々の往来は維持できる。


 南に急流、北に険しい山脈がそびえるコンスカンタは、食料自給率が低い。穀物類は、ソバ、ヒエがほとんどだ。最近、米を食べる人が増えてきてから、棚田が作られはじめた。肉類も、大型家畜の飼育は難しく、山野の獣も潤沢とは言えない。ということで、両隣の国から大部分の食料を輸入している。


 つまり、コンスカンタを乗っ取ったところで、兵糧攻めにあって敗北するのが目に見えている。

 なにより、ローデンをはじめとした隊商都市が、盗賊を擁護する国を認めるわけがない。


 情報といえば、ローデンを出発するときにトリーロさんからもらった資料は、ユアラとラストルムさん関連の話だけだった。あれだけの紙の山から、本当に要点だけをまとめあげていた。トリーロさん、本当にすごい。


 それはさておき。


 ラストルムさんは、ユアラでも大きな商売をしている。おもに金属加工品(鍋鎌、武器、防具など)を扱っている。家族は、正妻とその息子、妾とその息子の五人家族。


 ・・・これと「黒髪の賢者」と、どう関係しているんだ? まるっきり無関係? とも思えないし。


 ちなみに、ルテリアさんが知らせてくれたのは、「賢者を名乗る少女は、帝都で、赤髪、蒼髪の少年達と合流し、ケチラに向かった。傭兵は、同行していない」ということだった。


 合流した少年、というのが、国王、(になるつもりの人)なんだろうけど。どういう繋がりがあるんだろう? やっぱり判らない。


「とにかく、その「賢者」を名乗る人がコンスカンタにいるようなので、速攻で乗り込んで行って首を締め上げて・・・」


「ダメですって!」

「締める前に吐かせないと」

「他にも盗賊が出てくるかもしれませんって!」


「え? このおじさん達同様にもてなして、情報を貰って行けばいいじゃないですか」


「「「・・・」」」


 なんでそこで押し黙るの。


「そういえば。マデイラから落石現場に向かった早馬の人は?」


 手下団子に声をかける。


「い、いや。俺たちが、ここで襲った、いや、会ったのは、あんた達が最初だ」

「本当だ。嘘じゃねぇ!」

「アレは、勘弁してくれ!」


 視線の先は、笑い疲れてぐったりし始めたお頭さんがいる。


「でも、素直に教えてくれたお礼を・・・」


「「「「やめてくれぇ!」」」」


 おじさん達の絶叫は、まったくもって耳に嬉しくない。他にも、いろいろ考えたんだけどな。


「あ、あの〜、声に出てます、よ?」


 スーさんが、ぼそっと指摘した。


「うーん。山越えで、ここまで来たのか?」


 ノルジさんは、盗賊さん達に質問した。


「お、おう」

「道が塞がってるから、楽に挟み撃ちに出来るって聞かされて」


「道を塞いだのも?」


「賢者はそう言ってたぜ」

「「常人には出来なくても、私にはどうって事ないわ」って」


「黒賢者も「稀人」?」


「黒賢者って・・・」


 ディさんが、絶句。


「腹黒賢者の方がいいですか?」


「・・・どっちもどっち」


 モリィさん、貴女に言われるとちょっとショック。


「おまえら。それだけのスキルがあれば、普通にハンター稼業できるだろうに」


 ノルジさんの指摘に、反論してきた。


「魔獣なんか相手に出来るか!」

「一度でもジャグウルフの群に取り囲まれてみろ!」

「グロボアの突進うけて、生きてるだけでもラッキーなんだぞ?!」


 つまり、へたれの集団、か。


「だから、アルファさん? だだ漏れ、です」


 スーさんの指摘で、あらためておじさん達を見てみれば、真っ赤になっている。


「やー、ジャグウルフでもグロボアでも、高い木に登っちゃえば一晩もすれば諦めるんですけどねぇ?」


「「「は?」」」


「いきなり大物に手を出すから、そう言う目に遭うんです。まず森の環境を把握して、キルクネリエあたりでこつをつかんで、他の魔獣の習性とかも勉強して・・・」


「何言ってやがる!」

「あんなもんで稼げるかよ!」


「いやでも、初心者なら最初は稼げない、のは当然でしょ?」


「俺達ゃ、地元じゃ名の知られた狩人だったんだぞ?」

「魔獣だって、軽く狩れるはずなんだ、だったんだ!」


「で、さらに名を挙げようと[魔天]に無謀な挑戦をして挫折した、と」


「「「てめぇ!」」」」


 さらに、激こうするおじさん達。うん、事実って他人に指摘されるといろいろとイタいのよねぇ。


「お前達。この人が誰かわかって言ってるのか?」


 スーさんが、ため息まじりにつぶやく。


「ローデンのサイクロプス変異種の討伐の功労者、って言えば判るか?」


 おじさん達の顔色が、一瞬で真っ白になった。


「じゃ、じゃあ」

「こっちが、本物?」


「私は見てないけどね。十八メルテはあったサイクロプスを一蹴りで絶命させた、と。討伐隊に参加していた騎士団員から聞いたよ」


 スーさん、余計な事は言わなくていいですって!


「一蹴り!」

「さすが、アルさん!」

「ねえねえねえ! 実際にどうやって倒したの? 教えて!」


 三者三様に感想をもらす、あるいは質問をしてくる。一方、おじさん達は、


「「「「うわあぁぁぁぁ!」」」」


 大パニック。


 まだ聞きたい事もあったのに、この有様じゃ、無理だな。

 さすがの主人公も、こうも足止めが続くと堪忍袋の尾が切れそう、というより導火線に火が付きそう?

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