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森ガール、山ガール

011


 蟻騒動が終わった。


 森の動物も、だいぶ戻ってきた。やれやれ。


 蟻の死骸を放置しなかったのは、正解だった。死骸に住み着いた普通の蟻が、次の岩大蟻になっていたのだ。死骸からあふれてきた蟻が、みるみる大きくなっているのを見たときは、ぞっとした。あわてて、片っ端から蟻団子にしていった。



 蟻騒動のあと、森の中も積極的に散策するようにし、前よりももっと詳しく観察しはじめた。


 動物も植物も、当然いろいろな性質を持っていた。ちょっとでも魔力持ちを見つけると、突進していくもの。目につくものはとにかく手を出すもの。特定の食べ物を狙うもの。独自の方法で身を守るもの。


 その中に、魔法を使うものもいた。


 風を使う昆虫(四倍カマキリと呼ぶ)にあったとき。出会い頭で、風の固まりだけでなく、カマイタチのようなものまでぶつけられた。殴られた感じはしても痛みはなく、時々、「キィン」と刃物がぶつかる音がしたものの鱗にも傷一つつかなかった。

 自分はとっとと走って逃げた。あきらめてくれるまで、ずいぶんな時間を鬼ごっこしてしまった。


 ほかの動物も、ほとんどが似たり寄ったりで。


 皆さん、本当にアグレッシブですこと。


 まーてん直下ならいざ知らず(自分の縄張りだもん)、森の中では、すべてのケンカを買うつもりはない。狩るなら、食べる。そうでなければ、逃げる。


 いつも飛んで逃げ出すのも芸がない。

 いや、そうじゃなくて。


 自分の魔力を隠蔽すれば、少なくとも、魔力持ちを狙う動物には襲われることがなく、無駄な戦闘も回避できる。はず。


 ということで、今度は、隠し芸もとい隠れ技の練習。


 魔力を感じる、ということは、体外に魔力をまとっているということ。ならば、出さなきゃいい。



 すぐできた。



 試しに、森に入ってみる。大物が動く音を聞き取り、そちらに移動する。四倍カマキリだ。一応、遠くから目に入る位置に立つ。一瞥されたが、すぐに無視された。成功。近くに寄ってみても、知らんぷりされる。


 はぐれの岩大蟻にも会ってみた。魔力隠蔽した自分には見向きもしなかったので、狙いやすいところに移動してから、さくっと首を刈った。

 卑怯とは言うなよ、戦術よ戦術。使えるものは何でも使おう。もっとも、狙いを外したときは、逆襲して来たけど。



 今度は、空飛ぶ連中相手に、試してみよう。


 こちらはだめだった。どうしても、つばさが空気をつかむときに「もれて」しまうからだ。それでも、魔力全開のときよりは、突っかかられる回数は減った。



 ・・・今更だけど、もう、「魔力」でいいよね? 以降、そう呼ぶ。決定。



 魔力控えめで空を飛んでいると、濃度の違いがはっきりわかるようになった。やっぱり、一番力強いのがまーてんで、その他の岩山が次点、空を飛んでいる動物たちは比較的強い。てん杉も強い。森の動物たちは、てん杉の実以下。


 どうも、てん杉、森杉の実は、魔力を蓄えているらしい。魔力持ちの動物は、より力を求めて実を食べる。が、自分の限界を超えて食べてしまうと、消化酵素が働き始めて体を溶かされる。あるいは、魔力許容量をオーバーして破裂する。また、杉以外にも、魔力を蓄える植物があった。以下同文。動物も植物も、「食うか食われるか」の実力世界だ、と実感した次第。

 自分がこの食物連鎖のどの辺りにいるのかは・・・知らない、まだ知らない。だから用心するんだもん。



 ところで、魔力を「漏らさない」ように飛んでいると、さらに副次的効果として、より長時間まーてんから離れていられることがわかった。今までは、いろいろと、だだ漏れだったのね。


 ということで、ある日の遠足。お出かけタイム。


 前から気になっていた、東側の山を見に行くことにした。

 朝陽が昇る方に、山が連なっているのだ。


 弁当代わりの薫製果実を握りしめて、出発。弁当袋が欲しいな。

 いつもよりも高度を取る。山腹に、何か点のようなものがまとわりついている。さらに接近する。だんだん、点の詳細が見とれるようになってきた。


 これまた、ファンタジーの定番。ワイバーン様でございます。


 手はなく、翼竜っぽいつばさに太めの足と太めのしっぽ。あ、こっち見た。こっちに来る? 火を噴きながら突進してくる!


 ケンカする気はないので、急上昇して回避。ん? あまり、上昇能力はないようだ。ならば、もっと高い所に行こうっと。あ〜、悔しそうに旋回している。また今度遊ぼうね〜。


 まーてんのあたりから緩やかに斜面が続いていた先で、ぐぐっと立ち上がっていた。途中から森が途切れ、低木がまだらに生えている。その上は切り立つ岩肌。多分、山頂は2000メートルくらいだと思う。南北に、大小の山々がそそり立っている。北側の山は、もっと高いようだ。ただし、山脈を構成する岩に魔力は全く感じない。

 さらに、山頂よりも高く登ってみる。山脈の東側は、密林に続き、草原が広がっていた。草原の南側には、細長い水面がきらめいている。多分、湖だろう。湖南岸にも、小さな山々が連なっている。


 そして、密林と草原の境目には、所々に石造りの建造物がある。


 人がいるのだ!


 それがわかっただけでもうれしい。

 首を返して、まーてんに戻ることにした。みれば、山脈西側の森の外れにも、何かしらの建造物が点在している。


 いつか、誰かと話せる日が来るかな? 来るといいな。


 アクロバット飛行で喜びを表現しながら、晴れやかな気分で、まーてんへの帰路についた。

戦いを回避する、これもサバイバル。

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