09 蒼き洞窟
俺は一人で蒼き洞窟へやってきた。
マーシャたちがいるかもしれないと思ったからだ。
洞窟の奥まで探してみたが、マーシャたちには会えなかった。
俺は、がっくりと肩を落としその場に座り込む。
「いるわけない、か」
この洞窟のモンスターは平均35レベル。
30になりたてのマーシャたちじゃここの洞窟はつらいだろう。
現に、37レベルの俺でさえかなり厳しかった。
なるべくモンスターとの戦いを避けながら慎重に進んできたもののHPもMPも残りわずか。
このままでは町に帰るまでにやられてしまうだろう。
「何やってんだろうな、俺」
殺されたら、もう二度とログインできないかもしれないのに。
そしたら、マーシャと会うこともできなくなるっていうのに――。
「はぁ、こんなときにボスモンスターかよ……」
俺の目の前に、蒼き洞窟のボスモンスター『ブルースケルトン』が湧いた。
ま、どうせこの洞窟から生きて帰ることはできないだろうし、最後くらい華々しく散るとするか。
俺は、ブルースケルトンに斬りかかる。
しかし、ほとんどダメージを与えることはできなかった。
さすがに45レベルのボスモンスター相手じゃ太刀打ちできないな。
ブルースケルトンが、槌を振り上げる。
ここまでか。
俺は静かに目を閉じる。
「ん……?」
ブルースケルトンの動きが止まっている。
はて、攻撃されるかと思っていたのだがどういうことだろう。
また新しい不具合か?
「全く、私がいないとすぐやられちゃうのね!」
「ま、マーシャ? どうしてここに?」
俺のすぐ横にはマーシャが立っていた。
夢でも見ているのだろうか。
この洞窟には、誰もいなかったはずなのに……。
「潜伏スキルで身をひそめていたのよ。さ、早く倒しちゃいましょう?」
「倒すっていっても、二人じゃどうすることも……」
「何言ってんすか、僕らは四人パーティーっすよ?」
「ニック、ルティ!」
マーシャだけじゃなく、ニックとルティも一緒だ。
しかし、いざ顔を合わせるとなんだか照れくさい。
こういう時、なんて言えばいいんだっけ?
「その、心配かけて、ごめんなさい。私が悪かったわ」
「いや、俺のほうこそ、ごめん。つい、熱くなって……」
俺が黙っていると、マーシャのほうから謝ってきた。
そして、パーティー招待ウィンドウが現れる。
俺はゆっくりと、YESのコマンドを押した。
そうか、そうだよな。
俺たちは、仲間だ!
「あのー、そういうのは後にしてもらってもいいすかね? コイツの相手するのも楽じゃないんすけど」
ブルースケルトンの槌を盾で防ぎながらニックが言う。
「よっしゃ、やってやろうじゃないか!」
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「おぉぉ、宿屋だ。また無事にここに戻ってこれるなんて夢のようだよ」
「ふふーん、これも私のおかげよね? 1万ゴールドで手を打ってあげるわ!」
無事に、宿屋に戻った俺たちはほっと一息ついた。
「いやー、師匠のおかげで助かりましたよー。ルティのMPがなくなったときはもうダメかと思ったすよー」
「ちょっと、ニック。余計なことは言わなくていいんだからね!?」
どうやら、マーシャたちもルティのMPが枯渇してあの場所から身動きが取れなかったらしい。
洞窟はモンスターの湧きが激しいため、燃費の悪い範囲魔法だとすぐにMPがなくなってしまうのだ。
「ごめんなさいねー、あたしがペース配分もろくに考えずに範囲魔法をぶっ放したせいで……」
「いやー、僕がしっかりとモンスターをまとめきれなかったのが悪いんだよ」
「ううん、私がいけないの、二人が頑張って戦ってる中、盗むしかしてなかった私が……」
それぞれが自分の行いを深く反省し、謝った。
しかし――。
「うわぁ、それはマーシャが悪いわー、人としてどうかと思うわー」
「な、なんですってえええ、元はといえばレイトが私たちの狩場を譲ったりするから……」
「お、おい、またその話かよ。もういいだろその話はさ!」
俺の一言がきっかけでまたもや口論となってしまう。
「まあまあ、二人とも落ち着い……ぶへぇ」
「あ、ごめん、手が滑った」
「やったなぁー、うりゃあああ」
「痛ーい、何すんのよ!」
そして、意味のない枕投げ大会が始まってしまうのだった。
「ハァハァ」
「ゼェゼェ」
数時間後、息を切らしながら四人が天井を見上げていた。
「ぷ、くく、アハハハハ!」
突然笑い出すマーシャ。
それに釣られるかのように全員が笑い出す。
「あー、何やってんだろうね、私たち」
「ああ、全くだ」
「あはは、こんなの修学旅行以来だな」
「今時、修学旅行で枕投げなんてしませんよ」
「ああ? するだろ?」
「しない」
「しないな」
こうしてログアウトできなくなってから二日目の夜は過ぎて行った。