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06 4人目

 紅の森でレッドスネークを倒した後、俺たちは水の都『レスティア』の宿屋にもどってきた。

 ニックは、宿に着くなりすぐに寝てしまう。


 俺は、眠れないまま宿屋の天井を見つめていた。

 普段なら寝るときだけはログアウトしていたのだが。


「はぁ……」


 枕が変わると眠れないというわけではないが、ゲーム世界で眠るというのはどうも苦手だ。

 どっちが現実で、どっちが夢なのかがわからなくなってしまう気がするからだ。


 といっても、一日の大半をこのゲームで過ごしてる俺としては、もはやこっちの世界が現実といっても過言ではない。

 だから、ログアウトができなくても特に問題はない。

 問題はない、はずなのだが……。

 せめて眠るときだけは――。




 ガタンッ!


 突然、部屋の扉が開く。

 ……?


 ニックが外に出て行った?

 いや、隣のベッドから寝息が聞こえてくる。


 部屋が薄暗いためよく見えないが、誰かが入ってきたようだ。

 となると、マーシャか。

 俺のレア武器をチラチラ見ていたし、盗む気なのかもしれない。


 このゲーム、通常ならば他人のアイテムを盗むことはできない。

 しかし、寝ている相手を操作してトレードをすることは可能なのだ。


 俺が警戒していると、人影はニックのほうへと向かっていく。


「んふふふふ…………」


 そして、聞こえる笑い声。

 女みたいだが、マーシャの声ではないな。


「いい顔して寝てらっしゃいますわねえ……んもう、我慢できませんわ!」


 そんなことを呟きながら、ニックが寝ているベッドの中へと入っていく謎の女。 

 ……!?


 こ、これは見てはいけない状況ってやつか!?

 あ、ああ、ニックの服が脱がされてとんでもないことにッ!

 てか、このゲームって、ゲーム内でこういうことできたのかよ。


 どうしよう。

 ね、寝た振りでもしてこっそり覗き見しておくか?

 いや、そんなことしたら俺はただの変態に。

 ああ、でも、二人のお楽しみを止めるのは無粋な気が。


 もうどうしたらいいんだーッ!









「どうも初めまして、ルティです。よろしくお願いします」

「俺はレイトだ、こちらこそよろしく」


 青髪の可愛らしい女の子が自己紹介を始める。

 その傍らで、魂を抜かれたかのように真っ白になっているニック。


「ねえ、レイト。いったい何があったの? あの叫び声はいったい何? どうしてニックは放心状態なの?」

「世の中には、知らないほうがいいこともある」


 ニックが、騙されて貢いだネカマ。

 それがルティなのだ。


 しかし、なぜそんなやつがここにいるのか。

 フレンドメールで呼ばれてやってきたと言っているが……。

 肝心のニックがこの状態じゃ状況がいまいち掴めないな。


「おーい、ニック、しっかりしろー」


 そういいながらニックの頬をペチペチと叩く。


「ハッ! 僕はいったい何をしていたんだろう。なんだかすごい悪い夢を見ていた気がするよ」


 ああ、そうだな。

 夢じゃないけど。


「おや、可愛い子が二人もいるじゃないか、初めまして僕はニック。よろしくっす」

「現実逃避してないで帰ってこーい」






「つまり、ルティはニックが呼んだフレンドの魔法使いってことでいいんだな?」

「そ、そうっす……」

「んふふ、あたしのことが忘れられないならそう言ってくれればいいのにぃ! んもう、ニック様ったら、イジワルなのですねえ。キャハッ」


 腰をクネクネさせながらルティがニックの肩をバンバンと叩く。


「お、おい、なんでよりによってこんなやつを呼んだんだよ?」

「魔法使いのフレンドがいるって言ってしまった手前、あとに引けなかったんすよ。最初に呼ぼうと思ってた子はログインしてなかったから、仕方なくルティに……」


 この見栄っ張りめ。


「ところで、ルティさんはどうやってこの町に来たんですか?」

「どうやってって、メールに書いてあった通り初心者の町から飛んできましたのよ?」


 あの宝箱は、やはり不具合ではなくワープ装置なのだろうか。

 だとしたら、俺たち以外のプレイヤーがいてもいいはずなのだが……。


「そんなことより早く狩りにいきましょうよー」

「お前、仕事は良いのかよ」

「だって、ログアウトできないんだからしょうがないじゃない」


 そう、一夜明けた今でも依然としてログアウトはできないまま。

 運営による告知も一切ない。


「ログアウトならできると思いますよ?」

「えっ?」

「あたしのフレンドも初心者の町にいたんですけど、途中でモンスターにやられてしまったんです。そしたら、ログアウト状態になってしまって、いくら待っても戻ってこなかったので」

「それってつまり、モンスターにやられたらログアウトできるってことか?」

「ええ、たぶん」


 なるほど、確かに、初心者の町で多くのプレイヤーがモンスターにやられて姿を消したらしいしな。


「よし、じゃあ試しににモンスターにやられてみようか」

「イヤよ。デスペナルティーがあるじゃない。手持ちのゴールドが2割も減るのよ? 考えられないわ!」

「じゃあ、どうすんだよ。このままログインし続ける気か?」

「ええ、そうよ。そのうち直るでしょう。レアモンスターを狩り放題の今が稼ぎ時よ!」

「僕もマーシャさんに賛成、かな。無事にログアウトできるかどうかもわからないし」


 まあ、俺もログインしたままでも一向に構わない。

 困るのは、寝るときくらいだし。


「よし、じゃあ、新マップ探検と行きますか」

「オーケー」


 こうして、俺たちはログアウトできない状況にもかかわらず、普通にゲームを楽しむことにしたのだった。

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