57 冷たい涙
「どうして私の邪魔ばかりするの? 私のことなんてもう放っておいてよ。どうして今頃になって現れたりしたの? あなたの顔なんて見たくない! もうこれ以上、私を苦しませないで」
ニックとルティのコピーを倒した俺とトライさんは、キャシーが待つ奥の部屋へとやってきた。
すると、いつも冷たく微笑むだけのキャシーが激昂している。
それでもモンスターを召喚する様子もなく、ただただ泣き叫ぶばかりだった。
そんなキャシーをトライは優しく包み込む。
「すまなかった、キャシー。もっと早くオレが記憶を取り戻していれば良かったのにな。ずっと一人で心細かったんだろう? その辛さを紛らわすために、オレのコピーを――」
「う、うぅ、私は……私はただあなたとずっと一緒にいたかった、それだけなの。だから、二年前のあの日、私が意図的にログアウト不可にしたの。そうすれば、あなたとずっと一緒にいられる。そう思ったから――。本当にごめんなさい。私のわがままで多くの人を傷つけてしまったわ」
そうか。
キャシーは、寂しかっただけなんだ。
アキに作られて。
プレイヤーに恋をして。
そして、せっかく出会った恋人と別れるのがつらかった。
それだけなんだ――。
だからといって、ログアウト不可にしたのは正当化なんてできない。
だけど――。
キャシーのその気持ち。
今の俺なら、よく分かるよ。
だって、俺もマーシャのことが好きだから。
ずっとずっと一緒にいたいって思えるから――。
それでも、俺は――。
「キャシー、もう終わりにしよう。俺たちの世界とトライさんの世界は別物だ。無理やりこの世界に縛り付けるのはよくないよ。こんなことしなくても、トライさんがその気になればいつだって会いに来れる。そうだろう?」
「……う、うぅ。違う、違うの……。私は……、ううん、もう後戻りはできないわ。私は、この世界に消えてほしくないもの。だって、サラは最初から私たちのことなんて実験動物としか思っていなかったのよ? 私たちは檻に閉じ込められたモルモット、この世界からは出ることなんてできない。それならば、せめて檻の中だけでも、自由を求めたって良いでしょう? それも許されないことなの? 私たちは何も望んじゃいけないっていうの?」
「……? 一体何の話をしているんだ? 君はトライさんと離れたくなかっただけじゃないのか?」
「え? だって、サラはこの世界を消そうとしているんでしょう?」
それは違うよ。
少なくとも、アキはそんなようなことをする人じゃなかった。
アキは自分が危険になることをわかっていながら俺たちを助けようとしてくれた。
そんなアキが、この世界を消そうとするはずがない。
じゃあ、なぜだ……?
誰がキャシーにそんな『嘘』を吹き込んだんだ?
考えられる人物は、ただ一人――。
それは――。




