56 敵に回しくない二人
「戦うしかなさそうだな」
キャシーが通った扉は閉ざされている。
ニックとルティを倒すしかないようだ。
コピーとはいえ、できれば仲間との戦闘は避けたかったのだが。
どうせ倒すならば、一撃で仕留めよう。
長引けば長引くほど、心が揺らいでしまうことになる。
「よし、行くぞッ! 必殺、円月……あっ!」
「急に止まってどうした? 仲間を傷つけたくない気持ちはわかるが……」
「違うんだ。ニックが反射スキルを使っている、今攻撃したらダメージがそっくりそのまま自分に返ってきてしまうッ!」
ニックの身体がうっすらと赤く光っている。
つまり反射スキルを使用していることになる。
これでは迂闊にニックを攻撃できない。
「よし、じゃあ、まずは遠距離範囲魔法が厄介なルティから倒すか」
「待って、それもダメだッ!」
「どうしてだ?」
「ニックはダメージを肩代わりするスキルもあるんだよ。反射スキルと併用されたら、結局同じことになる。四天王のサミエルもそうやって倒していた」
「なんだって? じゃあどうしろっていうんだ」
困った。
味方にいると頼もしい二人だが、いざ敵に回すとかなり厄介な相手だ。
そう言ってる間にも、ルティが次々に範囲魔法を俺たちに向かって撃ってくる。
「くそう、このまま回避し続けるのも至難の業だぜ? 範囲が広すぎるッ!」
「そうだな、でもルティ本人よりも命中率は悪い。おそらく、プレイヤーの位置を把握して、その場所に魔法を撃っているだけのようだ。だから俺たちが常に動き回っていれば当たることはない」
「なるほど、さすがに即席のNPCには超高性能人工知能は備え付けられなかったみたいだな」
いくら外見やスキルをコピーしたところで、使用者が単純なプログラムならばいくらでも穴がある。
「このまま攻撃を回避し続けてルティのMPが枯渇するのを待つか?」
「いや、そんなことをしなくても片方を楽に倒す方法を思いついた」
「本当か? どうすればいいんだ?」
「簡単だよ、ルティは俺たち目掛けて魔法を撃ってくる。つまり――」
作戦はこうだ。
ニックに反射スキルを使わせる。
そして、ルティの範囲魔法にニックを巻き込ませる。
そうすれば、ダメージが反射してルティを倒すことができる。
仮にニックが反射スキルを使うのをやめたとしても、ニックを倒すことができるというわけだ。
「そんなに上手くいくか?」
「失敗しても、俺たちが魔法をくらわなければ問題ない。やってみる価値はあるよ。大丈夫、ニックは攻撃スキルがないから近寄っても怖くないさ。触らぬニックに祟りなしってね」
ニックの傍に近寄り、ルティが魔法を放つのを待つ。
「よし、今だッ!」
ルティが魔法を撃ったのを確認し、素早く移動しようとする。
しかし――。
「トライさん、早くそこから離れないと……」
良くみると、トライさんがニックに足首を掴まれている。
しまった、ルティのほうばかりに気を取られてニックの動きを軽視していた。
攻撃スキルがなくても、相手の動きを封じることは可能なのだ。
ロンやゴンゾウが四天王ラインを止めたときのように――。
直後、ルティの強力な範囲魔法が二人を襲う。
土煙が舞い上がる。
トライさんの名を叫ぶも返事はない。
範囲魔法に巻き込まれてしまったのか?
なんてことだ。
俺がこんな作戦を考えたばかりに――。
俺のせいだ。
「おう、良い作戦だったぜ、レイト」
「と、トライさん! 無事なら早く返事してくださいよ」
「ハハ、悪い悪い。ルティのほうも同時に片付けてからさ」
「え?」
良く見ると、ニックだけではなくルティも倒れていた。
「なぜか魔法が当たる瞬間に、ニックは反射スキルをやめてしまったようでな。それで、残ったルティのほうへとテレポートをして倒してきたってわけだ」
「あの一瞬で、そんなことを?」
「ハハハ、オレは元々はゲーム廃人だからね。これくらい大したことないさ」
「そ、そうですか」
自慢げに笑うトライさん。
それを見てなんだか複雑な気分になった。
俺と似ている――。
そう感じた。
俺がトライさんのコピーだということをイヤでも実感した瞬間だった――。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
ふー、こんなんじゃまたマーシャにどつかれてしまうな。
何を暗い顔してんのよ、って。
思い悩むのは全てが終わった後だ。
誰かのコピーだとしても、俺は俺なのだから――。




