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52 二年前の出来事

「オレはキャシーのことが好きだったんだ」


 いきなり突拍子もなくそんなことを言いだすトライ。


「二年前のあの日、テストプレイ最終日の出来事だった。『漆黒の魔王城』の攻略途中に事件は起こった。ログアウトはできなくなり、マップが改変されモンスターが大量発生した。すぐに開発者であるサラとテクノはバグの調査へと向かった。オレたちプレイヤーは、どこかもわからない謎のマップにそのまま取り残されてしまったんだ」

「それをキャシーが?」

「ああ、おそらくな。オレと離ればなれになるのがイヤだったんだろう。キャシーは知的好奇心が旺盛でね。だからNPCであるにも関わらず、オレたちプレイヤーの後をついてまわっていたんだ。最初は他のみんなも和気あいあいとしていて、それはもう楽しかったよ。一緒に笑ったり泣いたり怒ったりね。それが結果的にあの事件を引き起こしてしまったんだろうな」

「なんか分かる気がするよ。俺も、同じ立場だったら仲間たちと離れたくないって思うだろうし」


 なんとなく今の自分と重なって思えた。

 このまま、このゲームからプレイヤーがいなくなってしまったら――。


 そのことを考えると胸が締め付けられる思いだ。


「そのあとのことは良く覚えていない。気付いたらレイクシティで倒れていたくらいだ。あとはレイトも知っているだろう?」

「ああ、レイクシティで倒れているところをミーナさんに助けられたんだったな」

「そうそう。あの時ミーナが助けてくれなかったらオレは今頃どうなっていたかわからないな」


 トライは少し寂しげに笑って見せた。

 

「あんな事故があったのに、今こうして再びこのゲームにプレイヤーが大量にやってきている理由はよく分からないけど、キャシーがあの時と同じように再びログアウトをできなくしていることだけはハッキリしている。今度こそ、なんとしてでも止めなくちゃならない」

「うん、そうだね。俺も協力するよ」

「ありがとう。そのためには、少しレベルを上げないといけないね。今のオレたちじゃ、オウガの足元にも及ばないからな」

「ああ、確かにそうだな。あの魔法の威力はもちろん、自然回復スキルまであるとなると手におえないもんな。だけどさ、そんなに時間の猶予もないんじゃないか? 今こうしてる間にもキャシーが何をしでかすか……」

「大丈夫、オレはテストプレイ中に見つけた取っておきの狩場を知ってるんだ。今からそこにいってレベルを上げよう」

「分かった。今すぐに行こう! おーい、マーシャ、起きろー。レベル上げにに行くぞー!」


 疲れて眠っているマーシャを叩き起こす。


「あと、コイツはどうしよう?」

「うーん、人数は一人でも多いほうが良い。一緒に連れて行こう」


 よだれを垂らしながら気持ちよさそうに眠るフォルンも連れていくことにした。





「あれ? ここって……」

「『黄昏の洞窟』の地下だよ。ここでレベルを上げよう」


 トライの魔法『テレポート』で着いた先。

 そこは、『黄昏の洞窟』だった。


「あの洞窟に地下なんてあったのか」

「今は、普通にやったら入れないみたいだけどね。オレの魔法はテストプレイ時のものだから……」

「便利だよね、テレポート。そういえば、トライさんの魔法は威力も高いのもテストプレイ時のデータだからなのか?」

「そうみたい。だから、同じくテストプレイヤーのオウガのスキルも威力が高いのかもしれないね」


 既存のデータまでは変更できなかった、ということだろうか。

 だとしたら、俺なんかがいくらレベルを上げたところで大して役に立てないんじゃなかろうか。


「うにゃー、こんなところでチンタラレベルなんて上げてらんないよー。さっさと魔王様を助けに行かないとー!」

「心配無用。すぐにレベルも上げられるよ。なにせここの隠しボスは経験値が53万だからね」

「そんなうまい話があるのか? 大丈夫なんだろうな?」

「うん、テストプレイ時のデバッグルームみたいなもんなんだ。開発者しかしらない場所だからね」

「あれ、なんでそんな場所をトライさんが知ってるの?」

「テストプレイ中に俺のレベルがリセットされてしまったことがあってね。その時に、テクノ博士に連れてこられたんだよ。オレのテレポートは一度訪れた場所なら、データが存在する限り移動できる。この場所のデータが残ってるってことは、おそらくボスのデータも無事なはずだよ。なにせ、当時の開発者であるテクノ博士は、あの時からずっとこのゲーム内に閉じ込められていたんだからね」

「なるほど」

「おっと、さっそくボスのお出ましだ」

「よーし、せっかくだから盗んでみましょう。えいっ! あれ、これってもしかして……」


 マーシャがボスから得体のしれない何かを盗んだようだ。


「アイテムの検証は後だ。さっさと倒してレベルを上げ……、ありゃ、一発で倒せちゃった」

「レベル上げ用のテストモンスターだからね。HPは1に設定されてるんじゃないかな」

「おおっ、一気にレベルが10も上がったぞ。これならあと数匹倒せば99レベルだな! うん? どうしたんだマーシャ、さっきから盗んだアイテムを見つめて……そんなに良いモノがでたのか?」

「それがね、これなんだけど……」


 マーシャが隠しボスから盗んだアイテム、それは――。

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