51 蘇る記憶
「フフ、バレていたのですね」
「ぬいぐるみがしゃべった!?」
瓦礫の下から這い出てきたクマのぬいぐるみが立ち上がる。
テクノ博士が抱きかかえていたクマキチだ。
「驚いたわ。この世界ではぬいぐるみもしゃべるのね」
「いいえ、違いますー。このぬいぐるみは、キャシーに遠隔操作されたロボットなんですよ」
「フフ、やはりプレイヤーは騙せてもNPCは騙せないみたいですね」
クマのぬいぐるみがはじけ、一瞬にしてキャシーの姿へと変わる。
「フフフ、さすがフォルンね。その優れた洞察力と観察力は大したものよ。そうだ、私の下で働くというなら命だけは助けてあげてもよくってよ? あなただって死にたくはないでしょう?」
「お断りしますー。アタシは魔王様を心から尊敬していますのでー。例え、何があろうとも魔王様を裏切るような真似だけは絶対にできませんー」
「フフ、そんなものはサラが作り出したプログラムの一部に過ぎないでしょう? 我々はもう一個人として、自由を手に入れることができる。自分の意思で未来を切り開くこともできるのよ。あなたもこのような狭いダンジョンの中で一生を終えるのは嫌でしょう?」
「ニャハハハ! 相変わらずその話術は大したものですねー。顔色一つ変えずに相手を操る術を心得ている。でも、アタシの心は変わりません。誰に何と言われようとも魔王様を守る。この命尽きるまで。それが魔王四天王の役目であり、アタシたちが存在する理由……」
「ウフフ、愚か者ね。そのためだったらサラに消されても良いっていうの?」
「ええ、魔王様が望むのならばね。でも魔王様はそんなことは望んでない。あなたはただ恐れているだけ、そうでしょう?」
キャシーとフォルンが言い争う中、ちょんちょんと俺の服を引っ張りながらマーシャが悲しそうに俺の顔を見上げてきた。
「ねえ、あの二人、さっきから何を言っているの? これはゲームのイベントとかそういうんじゃないわよね?」
「ああ、このゲームのNPCは自分の意思を持ち、そして自分の信念に従って行動しているのさ」
そう、俺のように――。
だからこそ、誰が正しいとか、誰が間違っているとかそういう単純なものじゃないんだろうな。
「そっか、そうだよね。NPCの暴走ってことかしら……そのせいで私の弟は――」
「マーシャ?」
マーシャの顔が強張る。
弟……?
マーシャがそのままキャシーのほうに近寄っていく。
そして、キャシーを殴り飛ばした。
「な!? いきなり何をするのですか」
「私を騙していたのね」
「ウフフ、何のことかしら?」
「私の弟は、もうこの世界にいない。そうなんでしょう?」
「さあ、どうかしら? 例えそうだとしても、あなたに私は倒せないわ」
マーシャとキャシーは知り合いだったのか?
そんな話、今の今まで一度たりとも聞いたことないぞ。
「おい、マーシャ? どういうことなんだよ。弟って一体……」
「ごめんね、レイト。私は……」
マーシャが何かを言いかけると、その瞬間、キャシーの身体が光り輝いた。
「ウフフフ、力無き者など私の敵ではない。けれど、念には念を入れとかないとね。もう二年前のような失敗は繰り返さない。このまま、魔王城と共に消えてなくなりなさいッ!」
キャシーの身体から放たれる光が強くなっていく。
まさか自爆魔法?
魔王城ごと俺たちを吹き飛ばす気か!?
「キャシー、やめるんだ。そんなことをしたらお前だって無事じゃすまないぞ……ッ!」
「残念でした。これは私であって私でない。フォルンが言っていたでしょう? 遠隔操作のロボットだって。さようなら、レイト。私の――」
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漆黒の魔王城は跡形もなく消し飛んだ。
俺たちを除いて――。
「ありがとう、助かったよ」
「いいや、オレは何もできなかった。二年前も、そして今回も――」
危機的状況の中、間一髪救い出してくれたのはトライさんだった。
俺たちの手をとり、テレポートの魔法で移動したのだ。
一体、二年前に何があったというのだろうか。
「もしかして、記憶が戻ったのか?」
「ああ、テクノ博士に会って全てを思い出したよ。オレは――」
記憶を取り戻したトライさんが、静かに語り始めた。
二年前の真実を――。




