50 魔王の狙い
「う、うぅ、レイトが無事で良かった……。私、また一人ぼっちになっちゃうのかと思って怖かった……怖かったの」
「ごめん、ごめんな……」
俺がもっと強ければ、こんなに被害が大きくならずに済んだのに――。
俺がもっとしっかりしていれば、オウガの計画に気付けたかもしれないのに――。
俺がもっと――。
「イチャついてるところ悪いんだけど、魔王様奪還作戦に協力してくんない?」
「は、はい?」
ネコミミ少女が俺たちに近寄ってきた。
「あーあー、分かる分かるわ。仲間を奪ったくせに、都合が良すぎるって言いたいのよね。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないわけよ。魔王様がさらわれた以上、この世界がどうなるかも分からない。悩んでる暇はないのよー」
「……」
今こうしてる間にも、アキは――。
「一つだけ聞きたいことがある、アキは……魔王サラは一体何をしようとしていたんだ?」
「あれー、知らないのー? このゲーム世界を現実世界から隔離しようとしてたんだよー」
「……しようとしていた?」
「そう、プレイヤーを排除してこの世界にNPCだけの楽園をつくろうとしてたのよ」
「え? この世界を削除するって話じゃ――?」
「フフ、アハハハハ! そんなでまかせを誰が言ってたの? 魔王様は、自分で作り上げたNPCたちをそれはもう子どものように可愛がってくれたわ。まあ、中には反抗する子もいたけどね。キャシーとか……オウガとかね?」
「ふむふむ、なるほど……って、ちょっと待ってくれよ。オウガは、プレイヤーじゃなかったのか!?」
「あー、知らなかったんだ? ふーん、なるほどねー。ま、簡単にいうとレイトと似たようなもんよ? ウフフフ」
俺と似たようなもの?
プレイヤー型のNPCということだろうか。
「うー、もう難しい話でわけわかんない! とにかく私たちはどうすればいいのよ!」
「フフ、話は簡単よ。魔王様をオウガから取り返す、それだけよー」
「口に出すのは簡単だが、オウガのやつ前よりも格段に強くなってた。俺たちが束になってかかっても勝てるかどうか……」
「そう、そうなのよねー。問題はソコなのよー。あの短期間であそこまでオウガのレベルが上がったことを考慮すると……キャシーとオウガは手を組んでる可能性が非常に高いわ」
「え、どうして?」
「んもう、なんでもかんでも説明させないでちょうだいよ。キャシーはモンスターを召喚することができる唯一のNPCなの。ここまでいえば分かるでしょう?」
「まさか、モンスターを召喚を利用してレベル上げをしているのかッ!?」
「そういうこと。あたしたちも魔王様を守るために必死にレベルを上げたけど、オウガには手も足もでなかったってわけよー。うにゃー、悔しいー」
なるほど、オウガが俺よりもレベルが高い理由はキャシーの召喚を利用していたせいだったのか。
「悪いが俺は、四天王である君に協力することはできないよ」
「うにゃ? どうしてよー。ここまで正直に話したんだから協力してくれたっていいじゃないのー」
「最初に、プレイヤーを排除するとかって言ってたよな。俺はそんなの認めない。マーシャは俺が守る。どんなことをしても、絶対にッ!」
「……ふーん。面白い、面白いねー。魔王様が今の言葉を聞いたら、きっと泣いて喜ぶよー? まー、うん、レイトが言いたいことは分かるわ。でも、アタシたちは別にプレイヤーを無闇に殺してるわけじゃないのよー? あるべき世界に戻してる。ただそれだけよー」
「あるべき世界?」
「そう、現実世界にねッ!」
「どういうことだ? 死んだらログアウトできるってことなのか?」
「んー、現状だとログアウトとはちょっと違うかなー? この世界で死んだプレイヤーは、ログインサーバーに送られるの。天国っていうと語弊があるけど、たぶんそんな感じね。そこにいるプレイヤーを一人一人現実世界に引き渡す。魔王様はそうやってこの世界のプレイヤーを安全に送り返していたのよー」
「分からない。なぜそんな手間のかかるようなことをしているんだ? 魔王なら……開発者ならもっと別な方法があったんじゃないのか!?」
「んー、それはログアウト不可にした張本人に聞いてみたら良いんじゃない? ねえ、さっきからその瓦礫の下に隠れて様子をうかがっているの?」
フォルンの視線の先にある瓦礫がガタガタと動き出した。




