05 初めてのパーティープレイ
「もう、何やってんだよ! このバカ!」
「う、うるさいわね! だってしょうがないでしょ、無駄話してる暇があったらモンスターからアイテムを盗んでたほうがマシだと思ったのよ!」
俺たちは、巨大なヘビ『レッドスネーク』から必死に逃げ回っていた。
レッドスネークは、この『紅の森』のレアモンスター、つまりボスのようだ。
普段の俺なら初日からボスに会えて喜ぶところなのだが、あいにく回復アイテムがない。
「いくらなんでも、回復アイテムなしでボスを相手にするのは無茶だ!」
「そ、そうね、アイツのレベルは40もあるし。ああ、悔しい、悔しいわぁ! 目の前にお宝の山があるっていうのに手が出せないなんてっ!」
「こんなときでも、レアアイテムのことで頭がいっっぱいなのかよ!」
そんなことを言いながら、森を走り続ける。
しかし、レッドスネークは俺たちを執拗に追いかけてくる。
おかしいな、エイム機能は一定の距離を離れたら失われるはずなのに……。
「ねえ、あんたレベル34でしょ? ただデカいだけの蛇くらいやっつけちゃいなさいよ! 逃げるなんて愚の骨頂なんでしょう?」
「む、無茶言うなよ! お前が宿屋で回復する前に飛び出してきたせいで、HPもMPも残り少ないんだよ。それに、俺は力全振り。初見のボス相手だと攻撃が避けれずに当たっちまう。そしたら、HP少ない俺はひとたまりもない! わかったか、このバカ!」
「バカはあんたでしょう! 少しは体力に振っておきなさいよね!」
「敏捷にしか振ってないお前に言われたくねえよ!」
走りながら言い争う俺たち。
しかし、なんでこの蛇ずっとついてくるんだ?
いくらボスモンスターとはいえ、この執念深さは異常だ。
これも不具合なのか!?
「よーし、ほらほら、良い子だねー、こっちだよー」
「……ニック、お前、何やってんだ!」
「何って、挑発スキルっすよー」
と思ったら、ニックが挑発スキルでボスを誘導していた。
俺たちが必死に逃げ回ってるっていうのに!
一体、何を考えてるんだ……!?
「よし、ここなら雑魚モンスターがいなくて戦いやすそうっすね」
そう言って、立ち止まるニック。
まさか、ボスと戦う気なのか!?
「じゃ、僕がこいつの注意を引きつけとくんで師匠は後ろから攻撃よろしくっす!」
「お前、正気かよ!? 敵のレベルは40なんだぞ!? 回復アイテムももうないんだぞ!?」
「ふふ、ここでカッコイイところを見せれば、マーシャさんが僕に惚れてくれるかもしれないじゃないっすかー」
ニックもぶれないな。
だがニックの作戦は悪くないッ!
よーし、やってやろうじゃないかッ!
経験値のためにッ!
「さあ、かかってこい! 『鉄壁』、『シールド』!」
ニックが蛇の前に立ち塞がる。
鉄壁は、防御力を一定時間上げるスキル。
シールドは、物理攻撃を数回分無効化するスキルだ。
「うおりゃああ、『火炎斬り』!」
ニックに言われた通り、後ろから蛇を攻撃する俺。
「ちぃ、さすがに一撃とはいかないか」
「師匠、早く倒してくださいよー。鉄壁スキル使っててもHPがガリガリ削られるっす」
意気込んだ割に、早くも泣き言かよ。
まあ、レベル20代のニックに40のボスの攻撃はしんどいか。
これは、モタモタしてる場合じゃねえな。次の一撃で仕留める!
「『円月虎水剣』!」
しかし、素早い身のこなしでかわされてしまった。
「ちょっと、何やってんのよ! 力しか振ってないから命中率悪いんじゃないの?」
「スキルって必中じゃなかったのかよー。かわすとかマジ勘弁」
この辺のレベルのボスにもなると、敏捷値が高いのだろうか。
今までに外したことのないスキルが当たらなかった。
あれ、ってことは敏捷にも振らないとダメ?
いやいや、力全振りは男のロマンだ!
誰が何と言おうとそれだけは譲れねえ。
「んもう、しょうがないわねー。『影縫い』ッ!」
マーシャが、レッドスネークの影にナイフを投げる。
敵の行動を数秒間封じるスキルだ。
これならいけるっ!
「『円月虎水剣』!」
レッドスネークを倒した!
「やったわ! ほら見て、レア等級のアイテムがこんなにいっぱいっ!」
「あ、ああ、良かったな。でもさ、もう少しニックの心配をしてやったらどうなんだ?」
レッドスネークが落としたアイテムを拾って、上機嫌なマーシャ。
その傍らで、ニックが倒れている。
「おーい、ニック大丈夫かー」
「う、うぅ」
「おい、ニック?」
ニックは倒れたまま起き上がらない。
もしかして、毒でもくらったのか!?
どうしよう、毒消しキノコも持ってないし……。
「師匠、宿屋に帰りましょうか」
と思ったら、何事もなかったかのようにスッと立ち上がるニック。
その表情はどこか悲しげだった。