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48 絶望の境地

「ニック、大丈夫か?」

「う、うぅ」

「セフィーヌ、急いで回復魔法を」

「ええ、お任せくださいな」


 セフィーヌがニックを回復させようとすると、どこからともなく黒い煙が立ち込める。


「なんですの? これじゃあ前が見えないですわ。キャアアア」

「セフィーヌ! おい、セフィーヌ、どうした!? 返事をしろ!」


 突然、セフィーヌの声が聞こえなくなる。

 そして、何やらひんやりとした空気が流れてくる。


「いやー、暑い日はやっぱりアイスが一番だよねー。へーい、君もそう思うだろう?」


 スーツ姿の男がアイスを片手に煙の中から現れる。


「……また新手か!」

「そうそう、四天王が一人、氷の魔術師とも呼ばれるグラン様のお出ましってわけだ」

「グラン? お前、確かブラックサンの……」

「うはー、覚えててくれたの? 魔王様を守るにはまず敵の動向を探らないといけないからねー」


 ニコッと笑いながら、手に持った指揮棒のようなものを振りかざす。

 俺とマーシャのすぐ目の前にでかい氷の壁が現れた。


「さて、回復魔法を使えるこの子も封じたし、残りは君たち二人だけってわけだ。どうだい、大人しく降参するなら、見逃してあげても良いんだよ? フフフ、一度、助けてもらってる借りもあるからね」


 氷漬けにされているセフィーヌをコンコンと叩きながら、グランが言った。


「冗談じゃないわ。仲間を見捨てて逃げるくらいならやられたほうがマシよ!」

「ふーん、そっかー。やっぱりプレイヤーってみんな甘い考えの人が多いよねー? 平和ボケってやつなのかな? どっかのギルドマスターみたいにさっさと逃げ出しちゃえば良かったのにさー」


 パチンと指をならすグラン。

 どこからともなくネコミミのセーラー服を着た少女がひょこっと顔を出す。


「うにゃー、もうアタシの出番なのー? いやだー、戦いたくないよー」

「本来ならば、君が三番手だろう、フォルン」

「むー。しょうがないなー。さっさと終わらせちゃってよ?」


 頭をポリポリとかきながら、ゆっくりとこっちに歩み寄ってくるフォルン。


 こいつも四天王……?

 一人でも手におえない四天王が二人同時参戦だと。


「にゃーん。ねえー、グランはあんなことを言ってるけど、アタシ戦いたくないんだー。だからさー、降参してほしいなー?」

「……!? な、何をバカなこを言ってるんだ。離れろ、おい、くっつくな。上目遣いで俺を見るなアアアア! あ、ちょ、マーシャ、そんな目で俺を見ないでくれ。おい、バカ、やめろぉおおっ!」


 マーシャに蹴飛ばされた俺は数メートル吹き飛んだ。


「ぎゃふん、おい、マーシャ何しやがるんだ!」

「状況をよく見てごらんなさい。あんな分かりやすい罠に引っかかるなんて、バカなんじゃないの!」

「へ?」


 良く見ると、さっきまで俺がいた場所に氷のトゲが降り注いでいる。

 もしかして、マーシャは俺を助けてくれたのか?


「おい、フォルン! ちゃんとソイツの注意をひきつけておいてくれないとダメじゃないかー」

「ごめんごめーん。この女が邪魔してきたんだよー。先にコイツからやっつけちゃおうよー」


 そう言いながら、マーシャのほうにじっと歩み寄るフォルン。

 なるほどそういうことか。

 フォルンが注意を引きつけ、遠くからグランが魔法で攻撃するというわけだな。


 ニックとルティの連携攻撃のようなものだ。


 そうと分かれば――。


「ぐ……、足が……動かない」

「フフフ。そうくるだろうと思っていたよ。ワタシの魔法は無詠唱。実際、フォルンがいなくても君たち二人を倒すのも容易いことなんだよねー」


 まずい、足を凍らせられた。

 このままじゃ動けない――。

 

「まー、すぐに楽にしてあげるよ。こう見えてもワタシは優しいんだ」


 そう微笑みながらグランが指揮棒を振り上げる。

 

 もうダメだ。

 このままだと、魔王のところにも辿り着けずにやられてしまう――。


 その時だった、目の前にいたグランが物凄い勢いで吹っ飛ばされた。


「うにゃ? ちょっとグラン、何やってんのー! 遊んでる場合じゃないのよ?」

「ゲホゲホッ、く、くそう。まだ他に仲間が残っていやがったのか」


 グランの見つめる先には――。


「ククク、この私が逃げただって? 面白い冗談だ。君らが囮だってことはバレバレなんだよ」

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