41 合流
「残りは二つか」
黄昏の洞窟から無事に『イエローストーン』を手に入れたニックたちと合流した俺たち。
オウガによると、『レッドファング』もすでに手に入ったとのこと。
これで『神秘の祭壇』に捧げるアイテム6つのうちの4つが手に入ったというわけだ。
「ふむふむ、あとは『ブロンズソード』と『グリーンハープ』ってわけね」
「ねえ、もしかしてこの二つってもう手に入らないんじゃないの?」
レイクシティの宿屋の一室で、マーシャとルティが口々に言う。
「ああ、それは俺も考えてたところだ。もしかしたら『漆黒の魔王城』へ行くのは不可能かもしれないってな」
「ねえ、ちょっとそれどういうことよ? それじゃあ何のために苦労してアイテムを集めてきたっていうのよ」
「まあ落ち着けって。俺たちは初心者の町に戻ることができないだろ?」
「ええ、そうね」
「もし、手に入っていない二つのアイテムがその周辺のボスドロップだとしたら?」
「……二度と手に入らないわね」
「だろ?」
なるべく考えないようにしてきたことだが、他の二つのアイテムの入手場所の検討がつかない。
「確か初心者の町のすぐ近くに『青銅の洞窟』があったすねえ」
「あー、あったあった。ニックが俺にレベル上げをさせた場所だろう?」
「そこのボス『ブロンズナイト』が落とすアイテムなんじゃないっすかね?」
「……」
やはりそうなのか。
だとすると、もう二度と手に入らない可能性が高いな。
「困りましたねえ」
「こんなときにアキさんがいれば、座標なんちゃらで飛べるかもしれないのにね」
「うーむ……」
そういえばアキの居場所もわからないままなんだよなあ。
アキがいればアイテム検索とかもできそうなんだけど。
「初心者の町に残ってるプレイヤーっていないのかな?」
「んー、いたとしても連絡が取れないからなあ」
どんよりとした空気が流れる。
そんな時だった。
「オーッホッホ! 『グリーンハープ』を手に入れてきましたわ!」
「なん……だと!?」
ドアをバーンと蹴破りながら元気よくセフィーヌが部屋に入ってきた。
手には緑色に輝くハープを持っている。
しかし、どこかで見たようなアイテムだ。
これってもしかして……。
「お前、これ、どこで手に入れたんだ?」
「どこって、この町で一番大きな家に置いてあったわ!」
「……!」
ああ、やっぱりそうか。
「ねえ、これって『碧の竪琴』よね? どういうこと? NPCのアイテムは盗めないんじゃなかったの?」
「失礼ね、盗んでなんかいませんわ! ……ちょっと拝借しただけですの」
「同じことだろうがああ!」
「でも確かに変ですねえ……どういうことでしょう?」
すると静かに休んでいたトライがゆっくりと口を開く。
「……実は『碧の竪琴』はオレがミーナにあげたものなんだ。オレを助けてくれたお礼にね」
「トライさんがミーナさんに? じゃあ町の宝物っていうのは……」
「町のっていうよりもミーナの宝物だな、言い出しづらくて今まで黙ってたんだ、すまん」
「いや、別に謝るようなことではないですよ。それよりも、つまりこれは元々トライさんがもっていたアイテムなんですよね?」
「そういうことになるな」
だとすると……。
「うん、やっぱりそうか、そういうことだったんだ」
「ちょっと、何を一人で納得してるのよー」
「ほら、これ実際アイテム欄を見ると『グリーンハープ』になってる。これが探し求めていた祭壇に捧げるアイテムなんだよ」
「ほんとだー、灯台下暗しとはこのことね。こんな近くに目的のアイテムがあったなんて!」
碧の竪琴、グリーンハープ、確かにそのまんまだな。
なんで気付かなかったんだろう。
先入観恐るべし……。
まあいちいちアイテム欄で名前を確認なんてしないからなー。
神秘の泉でマーシャがカッパから盗んだアイテムも『カッパスーツ』って呼んでたけど実際は『神秘の服』って名前だったりしたしな。
このゲームだと、見た目で適当に名前を呼ぶことがよくあるのだ。
だから、もしかしたら『ブロンズソード』も実は持っていたなんてことも……。
「あーッ!!」
自分のアイテム欄を眺めていた俺は突如として叫び声をあげてしまう。
「何よ、急に変な声だして!?」
「ごめん、俺『ブロンズソード』持ってたわ……」
俺の一言で、時が止まったかのように立ち尽くすマーシャたち。
そして、一斉に責め立てられる。
「ちょっと持ってるなら早く言いなさいよね!」
「わ、悪い悪い、すっかり忘れてたんだ。というか銅の剣だと思い込んでたし」
……初めてテクノ博士に会ったときに渡されたアイテム。
銅の剣と50ゴールド。
まさかこのアイテムが『漆黒の魔王城』へ行くためのキーアイテムだったとは思いもしなかったんだよ。
そんなこんなで無事に祭壇に捧げるアイテムを揃えた俺たちは、再び『神秘の祭壇』を目指すのだった。




