37 眠れぬ夜
「困りましたね。肝心の『漆黒の魔王城』へ行く手段が見つからないなんて……」
「そもそもどこにあるのかも分からないからなあ」
現在、レイクシティの宿屋で作戦会議中。
この町のNPCにも話を聞いてみたが魔王城の情報は入ってこなかった。
キャシーも魔王城への行き方は教えてくれなかったし。
「どうしようか、一旦『レスティア』に戻って情報を集めてみるか?」
「そうね、レスティアなら他のプレイヤーも大勢いますからね」
とにかくこのままじゃらちが明かない。
ブラックサンのオウガなら何か知っているかもしれない。
「はいはーい、お取込み中のところ失礼致しまーす!」
ガタンと部屋の扉を開けて入ってくる一人の女。
そのすぐ後に慌てた様子で男二人が入ってくる。
「セフィーヌ……だよな? なんでこんなところに?」
「オーッホッホ! レイトさんのためなら例え火の中、水の中! 恐れるものなど何もありませんわ!」
「確かにこの町は水の中にあったでござるな」
「いやー、落とした武器を拾おうとしただけなんだゾ? 湖の中に町があるなんて知らなかったんだゾ?」
相変わらず騒がしい三人組だ。
「それで、俺に何か用があるんじゃないのか?」
「あら、そうでしたわ! 大変ですのよ、『ブラックサン』のオウガがレイトさんを捕まえようと躍起になってますわ!」
「オウガが俺を? どうして?」
「詳しいことはわかりませんわ! でも今、レスティアに戻るのはやめといたほうが良いですわ!」
「そうか……」
オウガが俺を探している?
何か新しい情報を掴んだということだろうか。
それとも、俺がNPCであることに気付いて殺そうとしているのだろうか。
「となるとレイトは『レスティア』に行かないほうが良いみたいね」
「それなら僕とルティだけで情報を仕入れてくるっすよ」
「そうですね、レイトさんを危険な目に合せるわけにはいきませんし……」
三人は俺のことを心配しているようだった。
その優しさが痛い。
俺は、優しくされてはいけないんだ。
未だに自分がNPCであることも言えずに、三人を騙しているのだから――。
「いや、俺は戻るよ。ここでじっとしているわけにもいかないしな」
「正気なの? 前回みたいに見逃してくれると思ったら大間違いよ」
「大丈夫さ、あの時よりレベルだって上がってる。それに、オウガはそんな悪いやつじゃないと思うんだ」
俺はレスティアに戻る決意をする。
だけど、万が一という可能性もある。
「レスティアには俺一人で戻るよ、お前らはここに残っててくれ。もし数日経っても戻ってこなかったらその時は――」
俺が言いかけると、マーシャが険しい顔をして掴みかかってくる。
「ま、マーシャ?」
「レイトが行くなら私たちも行くわ! 私たち、仲間でしょう?」
「ごめん、俺はマーシャたちの仲間じゃない、俺にはそんな資格ないんだ……」
「えっ?」
「ちょっと、何言ってるんすか師匠!」
だって、俺は――。
プレイヤーじゃなかったんだから――。
こいつらの仲間にはなれない。
なってはいけないんだ――ッ!
「……見損なったわレイト! 私たちのことをそんな風に見ていたなんて。レスティアでもなんでも一人で勝手に戻ればいいじゃないッ!」
「ま、マーシャさん、落ち着いてくださいよ。師匠も、僕らの安全を考えての発言っすよね? 仲間じゃないだなんて、本心で言ってるわけじゃないっすよね?」
「俺は……」
「あーあー、もうおやめになってくださいな! 言い争いしてる場合じゃないですわよ? とにかく、今夜は休みましょう。皆さんも少し落ち着いたほうがよろしくてよ? はぁ、わたくしが変なことを言ってしまったばかりに……」
おろおろしながら仲裁するセフィーヌ。
俺たちが言い争っているのをセフィーヌのせいだと思わせてしまったらしい。
時間も時間なのでその日は、レイクシティの宿屋で眠ることにしたのだった。
――その夜。
眠れないな。
なんだろう、この胸の奥につっかえるような痛みは。
NPCなのに、こんなにも心が苦しいなんておかしな話だよなあ。
俺は人間に作られた一データに過ぎないのに。
あのクリスタルに触れさえしなければ、俺は今でも自分のことをプレイヤーだと思い込んでいたのだろうか。
こんなに苦しい思いをするくらいなら、知らないほうが良かったかもしれない。
そうすれば、マーシャと言い争うこともなかったのに――。
「眠れないのか?」
「……トライさん」
俺が何度も寝返りをうっていたせいかトライさんが俺に話しかけてきたのだった。




