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36 悩めるレイト

「レイト、しっかりして!」

「う、うーん……」


 俺が再び目を覚ますとそこは、『純白の塔』の最上階。

 クリスタルの目の前で俺は気を失っていたらしい。


 俺は夢でも見ていたのか――?

 いや、違う。

 あれは夢でも幻でもない現実だ。


 俺は、俺は――。





「レイト、どうしたの? 顔色悪いよ? 少し休もうか?」

「いや、大丈夫だよ。先を急ごう」

「師匠、無理しなくても良いんすよ? やっぱり何かあったんじゃないすか?」

「そうですよ、レイトさん。一人で抱え込んじゃダメですよ? あたしたちは仲間なんですから」


 塔から下りる際に俺を心配するかのように声をかけてくるマーシャたち。

 仲間という言葉が重くのしかかる。

 俺は、自分がNPCであることを言いだすことができなかった。


 キャシーに口止めをされたからというわけではない。

 どうしても、真実を口にするのが怖かった。


 もし、本当のことを話せば、マーシャやニックが俺のことを避けるかもしれない。

 偏見の眼差しで見られるかもしれない。


 それが怖かったのだ。


「君が何を見たのかはわからないが、オレにできることがあればなんでも言ってくれ」

「トライさん、ありがとう。でも大丈夫。これは俺の問題だから、自分でなんとかするよ」


 そう、これは俺の問題だ。

 自分がこれからどうするか、どうすべきかを考えるの他ならぬ俺自身なのだから――。




「あーあ、落とし穴で落ちればすぐなのにねー。なんでまた来た道を歩いて戻らないといけないのかしら!」

「落ちるより全然マシっすよ! もう落とし穴はこりごりっすよ!」


 スイッチを切っているため、落とし穴は使えない。

 最上階から歩いて下りるしかないのだ。


「でも、あの意味深なクリスタルはなんだったのかしらね? 私たちが触れても何の効果も得られなかったし……」

「そうっすねえ、師匠が触れて突然姿がなくなったときは驚いたっすけどね」

「本当ですよ、マーシャさんの慌てふためく様子をレイトさんにも見せてあげたかったですわ」

「ちょ、ちょっと私がいつ慌てふためいたっていうのよ! ねえ! ルティ!?」


 俺はクリスタルの先で見たことは何も言わなかった。

 それでも俺のことを疑うわけでもなく、信頼してくれている。


 その仲間を俺は――『裏切る』ことができるというのだろうか?





 キャシーは言った。

 魔王サラを倒せば、このゲームからログアウトをする術は完全に消滅し、マーシャやニックたちも永遠にログアウトはできなくなる、と。

 その代り、俺たちNPCが消去されることはなくこのままずっと平和に暮らすことができる。


 魔王を倒さなければ、俺は消されてしまう――。

 いやだ、死にたくない――。


 でも――。


「なあ、マーシャ。もし、もしもだけど、このままログアウトできなかったらどうする?」

「うーん、どうするって言われてもねえ。まー、受け入れるしかないんじゃない? そりゃあ、現実世界に未練がないといえばウソになるけど、私はレイトと一緒にいられれば、それだけで幸せだから――って何を言ってんだろうね、私。アハハ、今のは忘れて!」

 

 マーシャの言葉が俺に重くのしかかる。

 余計に自分がNPCだと言いづらくなってしまった。


 でも、言わなきゃ――。


 このまま自分を偽り続けるわけにはいかないのだから。


「あ、あのさマーシャ……」

「んー? なあに?」

「実は俺……」

「え、あ、ちょ、ちょっと待って!」


 俺の言葉を遮るマーシャ。


「レイトの気持ちは嬉しいけど、そういうのはほら、ちゃんとログアウトできてからにしましょう? ほら、ただの吊り橋効果で一時の感情かもしれないし? ね? もっとちゃんとお互いのことを知ってからでも遅くないと思うの!」


 マシンガンのようにしゃべり続けるマーシャを止めることができなかった。

 どうやら勘違いさせてしまったらしい。


 まずい、このままじゃますます話しづらく――。


「いや、違うんだ。だから、俺は……」

「師匠ー、マーシャさーん、何やってんすかーおいてっちゃいますよー」

「あ、ほら、ニックも呼んでるわ! 早く行きましょう!」


 そう言ってマーシャはニックたちのほうに小走りで行ってしまう。

 完全に言いそびれてしまった。


 こんなはずじゃなかったのに――。





「結局、アキさんは見つからなかったね」

「どこいっちゃったんすかねえ、アキさん」


 レイクシティに戻ってきた俺たち。

 あの塔にアキが向かったというのはステラさんの見間違いだったのだろうか。


「アキがどこに行ったのかはわからない。けど、俺は行かなければならない場所がある」

「んふふ、行かなければならない場所ですか。それってもしかして『漆黒の魔王城』のことですか?」

「な、なぜルティがそれを……」

「んふふふ、もう残されてるダンジョンはそこしかありませんもの。いよいよ最終決戦というわけですね」


 魔王サラを倒すべきかどうかはわからない。

 それでも、俺はここで立ち止まるわけにはいかない。


 とにかく、今はサラに会うために『漆黒の魔王城』を目指そう――ッ!

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