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34 ホワイトコンドル

「うわああああ、落ちるー、師匠、助けてえええ」

「分かったから、いちいち騒ぐなよニック」

「だ、だって、落ちてるんすよ? 『純白の塔』の最上階から真っ逆さまっすよ?」

「ああ、知ってるよ。俺も一緒に落ちてるんだから」


 俺たちは今、塔の最上階にある落とし穴によって100階の高さから地上へと落下中だ。

 その途中で、ニックがギャーギャーと騒ぎまくっている。


「な、なんでそんな落ち着いてられるんすか! 師匠は怖くないんすかッ!?」

「ゲームなんだから、どんなに高いところから落ちても死んだりしないぞ。それにさ、もうこれ三度目じゃねーか」


 もうこのやり取りは三度目なのだ。

 塔を上っては落ち、上っては落ちを繰り返している。


「何度目だろうと怖いもんは怖いんすよー。僕、高いところが苦手なんすよ! キョーショコーフショーっす!」

「それを言うなら高所恐怖症な。教書を公布してどうすんだよ」


 そんなことを言ってる間に、再び振り出しの1階へと舞い戻ってきた。

 ニックがガクガクと震えながらその場を動こうとしない。


「ふー、やれやれ、またここに戻されちまったか」

「何度やってもあの落とし穴が無数にある最上階を突破できないわね」

「マーシャは、何かスキルないのか? 『罠発見』スキルみたいなのとかさ」

「あったらとっくに使ってるわよ。こんなんじゃまるでレベル上げしてるみたいじゃない」

「あー、確かにな」


 1階から最上階の100階まで行くだけでも一苦労だからなあ。

 レベルは順調に上がっているが、目的はレベル上げではない。

 消えたアキの捜索なのだ。


「でもアキさんがこんなところに一人で来れるのかしら?」

「うーん、確かに敵のレベルは60代だし、普通なら一人で突破できるような場所ではないな。俺らもトライさんがいなければ今頃MPも尽きてるだろう。だがアキのことだ、また何らかの裏ワザで突破した可能性も……」


 そう言いながら、再び2階へ上がろうとする俺たちをニックが呼び止める。


「も、もうやめましょうやあ……。これ以上はもう無理っすよー、迷いの森と同じく何かのアイテムが必要なんすよー」


 普段は軽い調子でホイホイ了承するニックが珍しく弱音を吐いてきた。


「ちょっとニック、アキがどうなっても良いっていうの!?」

「そ、そうじゃないっすけど、もう落ちるのは勘弁してほしいというかなんというか……」


 ニックが涙目になりながら口をもごもごさせる。


「じゃあどうすんだよ。このまま何の成果も得られないまま帰るっていうのか?!」

「う、うう……、そんなに言うなら4人だけで行ってきてください! 僕はここで待ってるっすから!」

「あ、おい、待てニック!」


 ニックが走り出しかと思えば、すぐそばにある壁に思いきり激突した。


「うぐぐ、いってええ。もう踏んだり蹴ったりっすね、ぐすん」

「あれ?」

「どうしたのレイト」

「ニックがぶつかった壁が壊れてる」

「あら、本当ね。そんなものすごい衝撃でぶつかったのかしら」

「いや、違う。これは……『隠し通路』だ!」


 こんなところに地下へと降りる階段……?





「塔だから上るもんだとばかり思っていたが、地下もあったとはね」

「えへへ、僕のおかげっすよね? あの時、僕が上るのをやめようって言ったから見つかったんすよ!?」

「へいへい、分かったから、静かにしろよ」


 ニックがいつもの調子に戻った。

 単純な奴だなあ。


「って、行き止まりじゃねーか。地下1階で終わりってどういうことだよ」

「ねえ、待って。これ、何かのスイッチみたいよ?」

「本当だ。落とし穴を作動させなくするスイッチみたいだな」

「え、どうしてそんなことがわかるのよ!?」

「ご丁寧に、スイッチのすぐ横に説明書きがあるじゃねーか」


 地下の最深部にあるスイッチを押す。

 すると、ゴゴゴゴッと塔の上のほうで何かが作動した音がする。


「なるほど、このスイッチを押さないとあの落とし穴を回避することはできないというわけか」

「もっと早く気付くべきだったわね……」

「まあいいじゃないか、レベルは上がったんだし無駄にはならねーよ」


 スイッチを押した俺たちは再び塔の最上階を目指す。







「あれがこの塔のボスみたいね」

「ホワイトコンドルか、レベルはえーっと、は、70だと!?」


 最上階で巨大な白いコンドルに襲われた。


 苦戦したイエローゴーレムでさえ60レベルだったのに……。

 と思ったらトライさんがあっさりと倒してしまう。


「なんか気になるなあ」

「うん? トライさんがどうしたんすか?」

「いやさ、トライさんのスキルってさ、物理スキルはもちろん範囲魔法や補助魔法、そして回復魔法までバランスよく取得してる上にどれも威力が高すぎないか?」

「レベル75もあればそんなもんじゃないっすか?」

「うーん……そうはいっても俺らと10ちょっとしかかわらないんだぞ?」

「あ、そういえば、そうっすね。さくさくレベル上がってたからあまり実感なかったすけど」


 あんなにたくさんのスキルを取ったらスキルポイントが足りなくなりそうなものなのだが……。

 まあ、細かいことは気にしないようにしておこう。

 NPC補正のようなものがあるのかもしれないし。


「これは何かしら……? クリスタル?」

「はて、何かどこかで見たことがあるような……」


 最上階にある謎の巨大なクリスタル。

 どこか懐かしい気がした俺は、そのクリスタルに手を差し伸べた。


 すると――。

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