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29 決着

 宙を舞い倒れる『ブラックサン』のギルドマスターのオウガ。

 ボスさえも一撃で仕留めることができる俺の超必殺技が確実に決まった。


 ふぅ、危ない場面もあったがなんとか勝つことができたか。

 などと思っていると、ゆらゆらとオウガが立ち上がる。


「な……やつは不死身なのか!?」

「ふふ、ふふふ……さすがは私の見込んだ男だよ、レイト君」


 受けたはずの傷がみるみると回復していくように見える。

 回復魔法?

 いや、違う。

 あんな詠唱なしで自動的に回復するスキルなんて知らないぞ。


「ケヘヘ、あれはギルドマスター専用スキル、自動回復でさあ! 1000人を超えるギルドのマスターのみに与えられるスキルなのさ」


 チンピラの男がヘラヘラと笑いながらそんなことをいう。

 自動回復だと!?


 もし、それが本当ならば早く削りきらなければ――。


 俺は再び剣を構え、オウガの飛び掛かる。

 しかし、ヒラリとかわされ魔法を撃ち込まれる。


「うぐ……」


 まずい、さっきの旋風龍陣剣のダメージが思いのほか響いてる。

 このままだと、遠距離からの魔法攻撃をあと数発くらっただけでやられてしまう……。


 と、その時だった。


 ギャラリーのほうを見つめながらオウガはふっと笑みをこぼす。

 そして、オウガが思いもよらない言葉を口にしたのだった。


「私の負けだ」

「えっ?」


 そう、オウガはこともあろうに降参したのだ。

 なぜ――?


 勝負はまだついていない。

 俺に恐れをなした?


 いや、違う。

 このまま勝負を続け長期戦になれば、高性能な自動回復スキルを所持しているオウガの勝ちは明白だ。

 俺に近づかないで回復に徹すればいいだけなのだから――。


 じゃあ、どうして降参したんだ……?


「自動回復スキルがなければ私は負けていた。このようなスキルで勝つのは本意ではない」


 俺が何も言えずにぽかんとしていると、オウガはそう言った。

 まわりのブラックサンのギルドメンバーも心底驚いたという表情をしている。


 そして、それは俺たちの仲間も同じだった。





「拙者、感動したでござる! あの戦い方、同じ戦士タイプとして見習いたいでござるよ!」

「ふ、あんなのオイラだってできるんだゾ? 本当なんだゾ?」

「素敵でしたわ! わたくし、あの憎たらしいギルドマスターが宙を舞ったとき思わずガッツポーズしてしまいましたわ!」


 試合終了後、ギルド『ホワイトムーン』の三人が口々にそんなことを言ってきた。

 そして、しばらく一方的にワーキャー言われた後、三人は礼を言い町のほうへと消えていった。


 オウガが降参したことにより、レスティアの町は『ブラックサン』から解放された。

 あの三人も不自由なく町に出入りできるようになったというわけだ。





「ふふ、私は信じてたわ! レイトが勝つってね!」

「マーシャさんったら、試合中は神にでも祈るような顔をしていたんですよー」

「ちょっとルティ、余計なことは言わなくていいのよ?」


 ルティの肩を怖い顔をしながらつかむマーシャ。


「なんか悪かったな、俺の独断でおかしなことになっちゃって。もっと別な方法で町に入る方法を探っとくべきだったかもしれない――」

「謝る必要なんてないわ。結果はレイトの勝ちなんだし、この町も『ブラックサン』の支配下じゃなくなり、他のプレイヤーも入れるようになったんだからね」


 ……結果だけ見ればそうだが。

 なんだかいまいち腑に落ちない。


 俺は本当に勝ったのだろうか……?


 試合開始前は、負けるわけにはいかないという思いで臨んでいたが……。

 こんな終わり方をされたら、納得がいかない。


 オウガはいったい、何がしたかったのだろう。

 強引に町を占拠し、俺に一対一での勝負を持ちかけたのは何か理由があるような気がするのだが。


「ほらほら、レイトも勝ったのにそんな暗い顔なんてしてないでさ。この町に何か用があったんじゃなかったの?」

「あ、そうだった」


 NPCのキャシーとこのゲームの開発者の一人であるテクノ博士に会う。

 それが本来、俺がこの水の都『レスティア』に戻ってきた理由だ。


 マーシャたちにも、そろそろキャシーたちのことを話しておくか。

 最初に、テクノ博士たちから話を聞いたときは半信半疑だったし、信じてもらえないだろうと思っていたが――。

 アキのことや、『レイクシティ』でのこともある。

 NPCが意思を持ち行動しているのはもう言い逃れようのない事実なのだ。


 俺はマーシャたちにもキャシーに言われたことを話すことにしたのだった。

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