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25 事件の真相

「なるほど、そういうことでしたか――」


 ステラとトライさんのやり取りを眺めていたルティがぽつりと呟く。


「やはり、あなたが竪琴を盗んだ真犯人だったのですね。元町長のステラさん?」

「ちょ、あんたまで私を犯人扱いする気なのかい? はん、ふざけるのもいい加減にしておくれよ。なんでこの私が町の宝物である竪琴を盗まなきゃならんのさ」


 ルティは、物怖じせずにステラに淡々と言い放つ。


「おい、ルティ。一体どういうことなんだよ。俺たちにも分かるように説明してくれよ」

「ふふ、そうですね。ステラさんもしらばっくれてるようですし、ここで事件の真相をおさらいしておきましょう」


 説明を始めるルティ。


「まず第一に、私たちがこの町にやってきた翌日、町長のミーナさんの家に置いてあった碧の竪琴が何者かによって盗まれました。ここまではいいですね」

「お、おう……」

「そして、そのことを朝一でNPCをナンパしていたニックが私たちに教えてくれました」

「そうっすね。碧の竪琴の話を師匠に話したっす」


 そうだな、朝にニックに叩き起こされたのを今でもよく覚えてる。


「そのあとにすぐ、ミーナさんの家に行き事実確認をしていたときに、ステラさんがやってきましたよね、竪琴が盗まれたのを聞いて駆け付けたようでしたけど……」

「そうだよ、それの何がおかしいって言うんだい?」

「あの時は、竪琴が盗まれたことは他のNPCに話していなかったんですよ。なぜステラさんは竪琴が盗まれたことを知っていたのでしょうかねえ?」

「はん、それだけで私を疑うっていうのかい? 町を歩いてたらたまたまあんたたちが話してるのを聞こえてきたんだよう」

「んふふ、違います。私たちは、宿屋の中で会話していましたからね。盗み聞きできるわけがないんですよ。じゃあ、なぜ盗まれたことを知っていたのでしょう? 答えは簡単です。ステラさんが竪琴を盗み出し、とある場所に封印した真犯人なのです!」

「アハハハ、全く面白い推論だねえ。その発想力を見習いたいもんだわ! でもね、あんたの言ってることはでたらめだよぉ? 私はモンスターと戦うことなんてできやしないんだ。黄昏の洞窟へなんて行けるわけないだろう!?」


 そうだよな。

 割と屈強な戦士であるトライさんでさえ、一人じゃ黄昏の洞窟を攻略することはできなかった。

 こんなおばちゃんNPCが黄昏の洞窟へ行けるわけがない。


 ん、待てよ。

 何か引っかかるぞ?

 なんでこの人――。


「あれぇ? おかしいですねぇ。私は黄昏の洞窟なんて一言も言ってないのに、どうして碧の竪琴が黄昏の洞窟に封印されてることを知ってるんですか?」

「……!? そ、それは……、あ、あんたたちが黄昏の洞窟へ向かうのを見たのさ! そ、そう。それで、碧の竪琴もそこにあったんだと思っただだよ」

「往生際が悪い人ですねえ、ならば証人に伺うとしましょうか。トライさん、あなたも知っていたのでしょう? ステラさんが碧の竪琴を盗み出した犯人だということを――」

「えっ……!?」


 必死に言い逃れしようとするステラに対して、ルティは顔色一つ変えずにそう切り返す。

 突然、名前を呼ばれたトライさんは目を白黒されてルティとステラを交互に見つめていた。


「あたしは最初、トライさんが犯人だと思ってました。なぜならば、碧の竪琴が黄昏の洞窟に封印されているのかを知っていたからです。でもトライさんは犯人ではなく、ただの目撃者だった、そうでしょう?」

「……あ、ああ、オレは聞いてしまったんだ。一昨日の朝早く、碧の竪琴が奏でる安らぎのメロディを……黄昏の洞窟で……」


 そうか、分かったぞ。

 ステラさんが一人で黄昏の洞窟へ行けた理由が……!


「なるほど、竪琴を演奏しながら洞窟へ行ったのか! それならば戦えないステラさんでも洞窟へ行くことができる!」


 碧の竪琴さえあれば、モンスターは眠ったまま攻撃してこなくなる。

 戦う必要なんてないのだ。


 しかも、竪琴を使用すると定時間は演奏が自動的に継続される。

 だから、何の危険もなく封印することができるというわけだ。


「ちょ、ちょっと待って! 何を言ってるか全然わからないのだけど! つまりどういうことなの?」

「簡単に言えば、ステラさんが碧の竪琴を『黄昏の洞窟』へ封印した真犯人ってことさ。そうですよね? ステラさん?」

「……ふ、フフフ…………バレちゃあしょうがないね。なかなかやるじゃないの。流石はこの町に一番に乗り込んできたプレイヤーってだけのことはあるねえ?」

「なぜこんなことをしたんです? 俺たちがいなかったらこの町はモンスターに襲われて大変なことになっていたんですよ!?」

「……許せなかったんだよ。あんな小娘が私から町長の座を奪った挙句に、人魚ではない外部の男を弟として迎え入れたミーナがねえ! 本当は、ほんの少し脅かすだけのつもりだったんだ。まさかモンスターがこの町を襲うだなんて思ってもいなかったんだよ、本当だよぉ」

「なるほど、ステラさんの言い分は分かりました。では、その報いを受けてもらうとしましょう」


 ルティが杖を構える。


「おい、待てルティ」

「なんです? NPCとはいえ悪は悪。このような犯罪者を野放しにはできない、そうでしょう?」

「で、でも――」


 ルティの目は本気だ。

 ステラさんは、急に黙り込み頭を抱えガタガタと震えている。


「お待ちくださいな」

「み、ミーナさん!」

「事情はよく分かりました。しかし、この町のことはこの町の問題……つまり町長である私の責任です。罰ならば私が受けましょう」

「そうですか、分かりました」


 ルティがミーナに杖の先を向けた。

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