23 黄昏の洞窟
「アーッハッハ! ほらほら、どんどん範囲魔法いきますよー」
ルティがニックに群がるモンスター目掛けて範囲魔法をぶっ放している。
いつも淡々とモンスターを倒すルティにしては珍しい光景だ。
「……ルティが良い感じに壊れてきてるな」
「良いんじゃない? たまにはストレス発散も大事だし」
俺とマーシャはそんなルティを後目に黄昏の洞窟を進んでいく。
目的はただ一つ、碧の竪琴の奪還だ。
「おーい、ルティー、あまり調子に乗って魔法を撃ちすぎるなよー?」
「んふふふ、分かってますよー」
高笑いしながらモンスターを次々に倒していくルティ。
本当に分かっているのだろうか……。
ちょっと心配だ。
「どうしたマーシャまでニヤニヤしちゃって」
「ううん、楽しそうなルティの顔を見てたらこっちも嬉しくなっちゃって」
「楽しそう? アレが?」
「ええ、きっと、ルティもいろいろ悩んでたんだと思うんだ。アキさんのこととか、これからのこととかね。だからこそ、ああやって辛いことを全部吹き飛ばしているんだと思うの」
「そうかー? 俺にはただ単に暴れてるようにしか見えないけど」
「ふふ、それでいいのよ。ずっと、落ち込んでるだけじゃ何も変われないもの。ルティは立派に前に進んでる。私も見習わなくっちゃ」
アレを見習うっていうのか……?
あれこれ悩んでいても仕方がないか。
「よっし、俺たちもルティに負けないように頑張るぞッ!」
「……」
「ちょ、なんでそこでそんな驚いたような顔するかな?」
「突然叫んだら誰だって驚くわよ。……でも、レイトが元気になったみたいで良かった」
マーシャが俺の顔を見るなり優しく微笑んだ。
「これが碧の竪琴ね」
「意外とあっさり見つかったな」
黄昏の洞窟の奥で、黄色い魔法陣の上に置かれている緑色の竪琴を発見した俺たち。
「さあ、早く持って帰りましょう!」
マーシャが碧の竪琴に手を伸ばす。
その時――。
「な、何これ、地震?」
突然、地面が揺れ始める。
「イエローゴーレム……!? 黄昏の洞窟のボスモンスターか!?」
「気を付けて。アイツのレベルは60よ」
地面より現れたるは巨大な石の塊。
俺たちは瞬時に、武器を構える。
「ニック、アイツを挑発で引きつけるんだ。その間に俺が攻撃する」
「了解っす!」
いつも通り、ニックが挑発スキルでボスを誘導する。
「うおりゃあああッ!」
そして、俺がゴーレムの後ろに回り斬りかかる。
すると突然、ゴーレムが振り返り俺に拳を振り上げてきた。
まずい、避けきれない。
「レイト、危ない。『影縛り』ッ!」
マーシャが咄嗟にゴーレムの動きを止めた。
間一髪、俺はゴーレムの攻撃を避けることに成功する。
危ねえ、柔らかい俺がボスの攻撃をまともにくらったら即死だっつーの。
「何やってんだニック! しっかりと引きつけておいてくれよ!」
「……ち、違うんすよ。こ、コイツ……挑発スキルが効いていない……ッ!」
な、なんだって!?
そんな、今までに挑発スキルが効かない敵などいなかったのに……。
ゴーレムのレベルが高いからか?
それとも――。
「おっと、危ねええ。なんでコイツ俺ばっかり狙ってくるんだ! これじゃあ攻撃することもできないじゃねえか」
このゴーレム、単体火力が俺を優先的に狙ってるのか!?
いや、そんなまさか。
偶然だ、そうに決まってる。
「んふふふ、ここはあたしにお任せあれ!」
ルティがゴーレムに範囲魔法を放つ。
強力な炎の竜巻がゴーレムを襲った。
「な……ガードした!? そんなバカな! コイツ、こっちの攻撃を見てから意図的にガードスキルを……」
今までのモンスターとは分けが違う。
まるで、知性を持ってるような……?
「……ッ! ルティ、逃げろ!」
ルティのほうへ向かって動き出すゴーレム。
ゴーレムが巨大な右手を振り上げた。
鈍い音が洞窟内に響き渡る。
「……ルティ!?」
「へへ、女性を守るのが僕の役目……っすからね」
ルティをかばい、ゴーレムの攻撃をモロに受けるニック。
「バカやろう。防御スキルも使わずに飛び込むなんて!」
「あの状況じゃ、こうするしかなかったんすよ……。それに、僕なら防御力も高いから、このくらい……ゲホッ、ゴホッ」
あの無駄に硬いニックが一撃でこれほどのダメージを……?
こんな化物を一体どうやって倒せって言うんだ。
とてもレベル60とは思えない。
強い、強すぎる――。
再び、ゴーレムが右腕を振り上げる。
狙いは倒れて動けないニック。
「ニック、ガードスキルだ!」
「……」
気を失ってる?
まずい、このままじゃニックが――!




