21 優柔不断
「NPCを信用してはならないか」
「なんすかそれ」
「ああ、アキが倒れる前に言ってたんだよ。NPCを信用してはいけませんってな」
「……? どういう意味っすか?」
「さあな」
俺に聞かれても困る。
何が何やらさっぱりだ。
NPCが意思を持ち、それぞれ何かの目的のために動いている……?
だとしたら、NPCがプレイヤーに敵意を持っている可能性も否定できない。
「敵はモンスターだけかと思っていたが、そう単純なものでもないのかもしれないな」
「あの……」
「どうしたルティ」
「この町にモンスターを呼びこんでるのは、ミーナさんんじゃないかしら?」
ルティがニックたちに聞こえないように小声で言った。
「ミーナさんが? どうして?」
「レイトさんたちが黄昏の洞窟へ行ってた時、ミーナさんの様子がおかしかったから……」
「そうか」
疑いだしたらキリがないな。
レスティアにいたNPCのキャシーも嘘を言ってる可能性もある。
分かっていることは、このゲームは何らかの理由でログアウトができない。
ただそれだけだ。
「とにかく、アキが目を覚ますまでこの町に滞在するしかないな」
「良いんですか? NPCは信用できないとなると、寝てる間に襲われる可能性もありますよ?」
「そうだな、俺とニックが交代で見張りをしよう」
その夜。
「どうした、眠れないのか?」
「……うん」
マーシャが見張りをしている俺のところへやってきた。
「眠れるうちに眠っておいたほうが良いぞ?」
「分かってるわ。でも――」
「ま、マーシャ?」
「少しだけ、一緒にいさせて……」
「あ、ああ。別に構わないけど」
宿屋の窓から外の様子を眺めている俺の横にちょこんと座るマーシャ。
「ねえ、レイト?」
「うん?」
「やっぱり、レスティアに行ってみようよ」
「レスティアに? 何故?」
「アキさんが行きたがってたでしょう? レスティアに行けば、きっと何か分かると思うの」
レスティア、か。
NPCのキャシーや開発者の一人テクノ博士がいる町。
再び会って話をしたら、何かわかるかもしれない。
けど――。
「迷いの森を抜けれるかどうかがわからない。それに、アキがこの状態だしなあ」
「それなら、私一人でレスティアに行くわ」
「それはダメだ」
「どうしてよ? 私には潜伏スキルだってあるし、逃走スキルだって……」
マーシャの目は本気だ。
「……分からないんだ」
「えっ?」
「見張りをしながら、ずっと考えていた。これからどうすべきか。何をすべきか。俺にできることが何なのか。でも、答えが出ないんだ。選択を間違えれば、またアキのように仲間を傷つけることになるかもしれない――。それが……怖い。とてつもなく怖いんだよ」
「うん、そうだね。私も、アキさんのことは後悔している。私があの時、走り出さなければアキさんがっこんなことにはならなかったんじゃないかって。でもね、私には、今やらなければいけないことがあるの。その選択が正しいかどうかなんて分からない。でも、もう後悔したくない。このままじっとしていても、何も解決しない。そうでしょう?」
……。
動かなければ、何も変わらない……か。
「ああ、分かった。夜が明けたらレスティアに行こう」
もう一度、テクノ博士に会って話を聞いてみたい。
あの時は半信半疑だったけど、今なら――。
翌朝。
「じゃあ、俺とマーシャは迷いの森へ行くよ」
「師匠、やっぱり僕も一緒に行くっすよ」
「いや、ダメだ。アキを放置するわけにはいかないだろう」
「ミーナさんに頼めば大丈夫っすよ」
「おい、ニック。NPCは信用しちゃダメだって話を忘れたんじゃないだろうな?」
「もちろん、忘れてはいないっすよ。大丈夫、ミーナさんは信用できるっすよ。それに、もう僕の手の届かないところで、誰かが傷つくのは嫌なんすよ。だから、一緒に行きます。連れてってください!」
「なら、あたしがここに残りますよ」
「それはダメだ。ルティ一人じゃ危険すぎる」
話がまとまらない。
時間だけが過ぎていく。
と、そこで宿屋の扉を誰かがノックした。
緊張が走る。
「すみません、誰かいませんか?」
聞き覚えのある声。
NPCのトライさんだ。
「どうしましょう? 何かの罠かもしれませんよ」
「俺が出よう、他の皆は少し下がっていてくれ」
俺は、恐る恐る宿屋の扉を開けた。
「こんなに朝早くにすまない。君たちにどうしても言っておきたいことがあるんだ」
そこにはボロボロの姿になったトライさんが立っていた。




