02 レイトの弟子
「師匠ー、良かったぁ、無事だったんすね!」
「……その師匠っていうのやめてくれない?」
燃えたぎる町のほうからニックが駆け寄ってきた。
俺のことを師匠と呼んでくるちょっと変わったやつだ。
「あんた、ぼっちのくせに弟子なんていたわけ?」
「コイツが勝手にそう呼んでるだけだ」
以前、少しだけレベル上げを手伝っただけなんだけどね。
ああ、早くいつもの狩場にいって引きこもりたいなあ。
「それよりも師匠、隣に居る可愛い子は誰っすか?」
「ああ、こいつは初心者キラーに殺されそうになってて……」
ニックが話の途中で銀髪女のほうに近寄っていく。
聞いておいてスルーすんなよ。
「僕はニック。レイト師匠の一番弟子っす。よろしくっす」
ニックがマーシャに向かって微笑んだ。
しかし、出した手を引っぱたかれるニック。
「ふん、私はマーシャよ。残念だけど、雑魚には用はないからすっこんでなさい」
それでも名乗るんだ……。
マーシャか。覚える必要はないけど、一応頭の片隅に入れておこう。
「マーシャ!? あの金のためなら何でもするっていう疾風のマーシャっすか!?」
「な、何よそれ! 確かに私は、ゲーム内マネーを稼ぐのが趣味だけど……」
「あ、あの、もし良かったら僕とフレンドになりませんか? あ、なんならケータイの番号も教えてくれると……」
はー、また始まった。
ニックは懲りないなあ。
俺と最初に会ったときも、ネカマに騙されて課金アイテム貢がされていたのに。
「おい」
「んあ、なんすか? あ、彼女を取られそうになったから怒ってるんすか? イヤだなー、ちょっと仲良くしてただけじゃないっすかー」
「違うし! そんなんじゃないし! そんなことよりも、初心者の町で何があったんだよ」
「おっと、そうだそうだ、大事なことを忘れてたよ」
そこが一番大事だろうが。
のんびりと自己紹介し合ってる場合じゃないと思うよ。
「なんか、サーバーの不具合みたいっすよ。普段は町の中に入れないはずのモンスターが侵入してきてるみたいっす」
「なんだよそれ、モンスター襲撃イベントではないのか?」
「違うっすね。さっきまでプレイヤーが散々文句言ってましたし、調べてたGMもどこかに行ったまま帰ってきてないっすよ」
「さっきまでって、今は?」
「モンスターにやられて静かになっちゃいました」
……?
モンスターにやられても、一分後に自動復活できるはずだが……。
それも不具合で機能してないのだろうか。
なんにせよ、今は下手にモンスターと戦わないほうがいいかもしれないな。
「ふふ、ふふふふ……」
「あ、あの、マーシャさん?」
「よっしゃー、荒稼ぎの大チャーンス! さあ、モンスターを一掃しにいくわよーっ!」
突然、笑い出したかと思えば、モンスターに襲われているという町のほうへと駆け出していくマーシャ。
やっと、面倒な女から解放されたか。
さて、不具合が治るまで、どこか別の場所でのんびりレベル上げでもしておくか……。
「よし、ニック! 久々に一緒にレベル上げでも……、あ、あれ、いない」
「マーシャさーん! まだケータイの番号を教えてもらってないっすよー」
ニックもマーシャの後を追いかけて町のほうに行ってしまった。
一人取り残される俺。
……。
ま、まあ、別に一人でも寂しくないし。
どうせいつも一人だしな、うん。
……。
「ああ、もう、待てやごるぁああ。お前らじゃ初心者キラーが出たらやられちまうだろうがあああ」
仕方なく俺も二人を追って町へ入ることにした。
「あれえ、師匠もきたんすか? やっぱりマーシャさんのことが気になるんすねえ? じゃあ、今日からは師匠じゃなくてライバルっすね!」
「いや、別にそんなんじゃないから」
「まー、なんでもいいけど、とりあえずPTを組みましょうよ」
言われるがまま、PTを組まされる。
PTは滅多に組まないため、勝手がよくわからない。
一応、ミニマップにPTメンバーが表示されるようになるみたいだが。
「え、ちょ、ちょっと、レベル34ですってええええ!? 一体、どんな裏ワザを使えばそんな高レベルになれるのよ!」
「そりゃ、もう師匠っすから! 一日24時間ログインしてるゲームのプロっすから!」
「だから18時間くらいだって言ってるだろう」
こういうこと言われるから、あまりPTを組みたくないんだよなあ。
ニートだってバレるし。
いや、もうバレてそうだけど。
「……!」
「どうかしたんすか?」
町に居るモンスターを片っ端から倒していく俺たち。
途中で、何かに気付いたマーシャがニックのほうを見て涙目になる。
「う、うう、私、毎日仕事帰りに必死にレベル上げしてたっていうのに……こんなただのナンパ男にも負けてるなんて……」
どうやらマーシャはニックのレベルを見てショックだったらしい。
ニックのレベルは22だからな。
「あー、それはね。僕は師匠にPLしてもらったんだよ」
「ピエール? 何よそれ、外国人?」
「ピエールじゃないよ、PLだよPL! パワーレベリングのことさ」
ニックは俺が育てた。
といっても、気付いたらそうなってたんだけどね。
俺がニックの話を無視するようにせっせと敵を倒してたらいつの間にかニックのレベルが上がっていたのだ。
「ん、何かしらこれ」
マーシャが、町の中心にある箱のようなものを差して言った。
はて、なんだろうか。
ダンジョンに配置されている宝箱に似ているが、ちょっと違うな。
嫌な予感がする、これは開けないほうが良いだろう。
「きっと、お宝だわ! ラッキー!」
「お、おいやめ……」
躊躇することなく、その箱を開けるマーシャ。
その途端、辺りが眩しいくらいに光り輝く。
「う、うぐぐ、な、なんだこれ、ひ、光に飲み込まれ……うわあああ」
そして、俺たちは光の彼方へと吸い込まれてしまうのだった。