18 意思を持つNPC
「NPCの中に犯人がいる?」
「そうです。この町のNPCならば、誰にも怪しまれずに碧の竪琴を持ちだすこともできるでしょう」
「ちょっと待ってよ。いくら人工知能を搭載しているとはいえ、そんなこと本当にできるのか? ゲームのNPCがモノを勝手に盗むだなんて聞いたことないぞ」
「……レイトさんは何も知らないのですか? このゲームのNPCは人間とほとんど変わらないのです。それぞれが個人の感情で動いている。もはやプログラムの域を超えているのですよ」
アキはNPCが意思を持っているという。
俺はすぐにその言葉を信じることができなかった。
いや、信じるのが怖かった。
NPCが意思を持っているというならば、このゲームは一体……?
「僕は知ってたっすよー。NPCはみんな個性的でカワイイ子たちばかりっすからね! 僕の一番のオススメはレスティアのキャシーちゃんっすね! 一見優しそうな顔をしてるけど、ミステリアスなところがぐっとくるっす」
「お前は、知ってたというよりそう願ってただけじゃないのか……?」
しかし、困ったな。
碧の竪琴を盗んだ犯人がこの町のNPCの誰かだとしたら、容疑者は百人を超えてしまう。
そんな中から犯人を見つけ出すのは不可能に近い。
「分かったわ!」
何やらぶつぶつと独り言を呟いてたマーシャが突如大声をあげる。
「何がわかったんだ?」
「もちろん碧の竪琴を盗んだ犯人よ!」
「宿屋から一歩も出てないマーシャになんで犯人がわかるんだよ」
「女の勘よ! とりあえず町長さんの家に行ってみましょう」
マーシャの思いつきに振り回されるのは面倒だ。
だが、他に手がかりもない。
ここは、言うとおりにしてみよう。
「えええ、同居人なんていない!?」
「はい、私はこの家に一人で住んでいますので……」
マーシャが町長のミーナと会話をしている。
この様子だと、マーシャの勘はハズレのようだ。
「なあ、結局マーシャは誰が犯人だと思ったんだ?」
「そりゃもちろん、町長の同居人よ! ほら推理ドラマとかでもよくあるでしょ? 身内が実は犯人でしたーみたいな?」
単純だな、おい。
だが一理ある。
確かミーナさんは、碧の竪琴がこの町に伝わる宝物だと言っていた。
だとすると、かなり厳重に保管されていたはずだ。
NPCが意思を持っているのならば、そういう危機意識も持ち合わせているだろうし。
「ところで、竪琴はどこに置いてあったんですか?」
「その入口のところです」
「えっ? ここですか?」
「そうですが、何か?」
……。
全然、厳重じゃねええええ。
こんなところに置いてたら盗ってくださいって言ってるようなものじゃないか。
「おやおや、ミーナちゃん。碧の竪琴が盗まれたというのは本当なのかい?」
「え、えっと、それは……」
中年のおばちゃんが町長の家に押しかけてきた。
「ふん、だから言ったんだよ。こんな若いやつに町長は任せられないってねえ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
マーシャがずいっと前にでる。
「碧の竪琴は、私が絶対に見つけ出すわ! だから安心してちょうだい!」
「……ふん、あんたこの町の住人じゃないようだねえ? あんたが盗んだんじゃないのかい?」
「な、なんですってえ!?」
「落ち着けマーシャ。NPCと言い争ってもしょうがないだろ」
NPCのおばちゃんと睨み合うマーシャ。
そこに、一人の少年が駆け込んでくる。
「……姉ちゃん、大変だッ! モンスターが攻めてきた!」
「えっ?」
慌てて外に出る俺たち。
そこには、リーザドマンの群れが押し寄せてきていた。
「ちっ、またかよ」
初心者の町のときと同じだ。
突如として、どこからか大量に現れるモンスター。
こいつらの目的は一体、何なんだ?
「うおおおおっ!」
ニックが先陣を切って飛び出していった。
なんだかいつも以上に気合いが入っていたような?
「レイト、ボーっとしてる場合じゃないわ。私たちも行くわよ!」
「お、おう」
考えるのはあとだ。
とにかく、このモンスターたちを倒すことが先決だ。
「ふぅー……なんとか全部倒せたみたいだな」
「かなりの数だったっすねえ」
とくに被害もなく、モンスターを一掃することができた。
「でも、変ですね。町をモンスターが襲うなんて……、不具合というわけでもなさそうでしたし」
「そのことなのですが、おそらく碧の竪琴が盗まれたせいだと思います」
「……というと?」
「碧の竪琴は、モンスターを寄せ付けない音色を奏でることができるアイテムなのです」
ミーナさんが悲しそうに言う。
「トライ、どうかしましたか?」
「……いや、な、なんでもねえ。ごめん、ちょっと出かけてくる」
ミーナが、さきほど駆け込んできた少年に話しかけている。
トライと呼ばれた少年は、何やら深刻そうな顔をして部屋を出て行った。
「町がモンスターに襲われたんだもの。動揺するのも無理はないわね。あの子はミーナさんの弟なの?」
「ええ、そうです。優しくてとっても良い子なんですよ」
「そうなんだー、実は私も弟がいてね――」
マーシャがミーナと仲良くおしゃべりをしている。
その様子を見ていると、ミーナがNPCだということを忘れてしまいそうだ。




